脱出ゲームの課題と将来性について考える 開発のしやすさと教育性の高さ、そしてストア内での健全性

 コラム 
  公開日時 

 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

一昨年、フィンランドで教育ゲームアプリビジネスをやっている経営者と話したとき「日本はゲームも教育も一流で社会的関心も高いのに、なぜゲームと教育が融合しないのか」と言われたな。ゲームは教育を阻害するってのは本当に悪しき固定観念だと思いますよ。

少し前にこんなツイートをしたら、ちょっとだけバズりました。私のツイートは通常はこんなにリツイートされないので少々驚くとともに、ゲームと教育の兼ね合いというのは関心が高いんだなぁと感じた次第です。

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さて、教育というものをどこに置くのかが難しいところではありますが、私はゲームと教育とは親和性が高いと思っています。

ゲームにはいろいろなジャンルがありますが、教育性の高いゲームジャンルの1つに「脱出ゲーム」というものがあります。
皆様脱出ゲームって遊んだことありますか?

脱出ゲームの課題と将来性について考える 開発のしやすさと教育性の高さ、そしてストア内での健全性 脱出ゲームの課題と将来性について考える 開発のしやすさと教育性の高さ、そしてストア内での健全性

※「脱出ゲーム - Bathroom - 景色の良いユニットバスからの脱出」のワンシーン

脱出ゲームとは、どこか閉じ込められた主人公がフィールドに点在する様々な「謎」を解いて、最終的にはそこから脱出する、というゲーム。
図書館、学校、協会、トイレ、等々、日常、非日常の様々な空間がテーマになっています。

脱出ゲームは元々はPCのフラッシュゲームがメインでしたが、仕組み上スマートフォンとの相性が良く、今ではスマートフォンアプリゲームの中の人気のジャンルに成長しています。

脱出ゲームには、他のスマホアプリゲームにはない特徴がいくつかあります。

1つは、開発コストが比較的低いという事。
シーンと小物を組み合わせて作成ができる脱出ゲームは、アクションゲームやソーシャルゲームなどに比べるとゲームの要素がシンプルであるため、比較的容易に開発が可能です。
もちろん重厚なストーリーを挿入し、超大作を作ることも可能。
それでもやはり開発コストは低いといえるでしょう。
数人で開発している小さな開発事業者でも、速いところでは1タイトル10日程度でリリースをしているようです。1人でも1か月に1タイトルのリリース、というのは十分に視野に入るようです。

もう1つの特徴は、アプリストア内での健全性が高いという事。
特に日本のiOSのアプリストアでは、人気ランキングを不正に操作する「ブースト」「リワード」と呼ばれる広告手法が未だ残存していて、アプリを十分にユーザーに訴求しDLしてもらうためには、ある程度それらの不正な広告手法も視野に入れざるを得ないという実情があります。
しかしそのような不正なPR手法は概して高額であるため、個人や小さな開発事業者にとって金銭的に現実的ではなく、しばしば大きなハンデとなっています。
しかし脱出ゲームは固定のファンが多くおり、そのような不正なPR手法を用いなくても正当なPRとアプリストア内の施策で十分にストア内の人気ランキング上位に入る可能性があります。実際にノンプロモーションで1タイトル10万DL以上を実現している個人開発者も少なくありません。
不正で高額なPR手法に頼らなくても良いというのは、その分予算を開発に回すことができるという事であり、健全なゲーム開発環境を維持していくうえでとても大切なことです。

さらに脱出ゲームは「謎を解く」という特性から、その教育性の高さにも価値があります。
ゲーム内に設置された仮想空間の中で、探偵のようにアイテムを探し、謎のヒントを見つけ、少しずつ出口に近づいていくという基本的な構造は、思考力や発想力を鍛えるという点において非常に分かりやすい成果をもたらすと思われます。

このように優れた点の多い脱出ゲームですが、1つ大きな問題があります。
それは「収益性があまり高くない」という事です。
脱出ゲームは基本的には1度クリアされてしまえばそこでスマホから削除されてしまうことがほとんどです。そのため、アプリの稼働日数が数日と短い傾向にあります。
かつ、ソーシャルゲームのような収益性の高い課金モデルを組み込みにくく、1DLあたりの収益性が数円程度という脱出ゲームも少なくありません。

しかし、脱出ゲームの収益性がこのまま低いかというとそうではありません。
アプリゲームにおいては「動画リワード広告」や「ネイティブ広告」などが新たな高収益広告モデルとして登場し、成功例も増えつつあります。
特に画面内をよく見る脱出ゲームは、例えばゲーム内の部屋に設置されているテレビ画面に埋め込むタイプの広告などは相性が良いといえるでしょう。
謎を解くヒントに対して動画リワードを充てる、というのも成果が見込める施策です。

主に広告ネットワーク側の努力により、アプリゲームの収益性は徐々に上がってきています。
脱出ゲームに十分な収益性が確保できれば、個人や小さな開発事業者は、開発負荷が低くファンが多いことを生かして、まず脱出ゲームを開発しゲーム事業のノウハウを得る、という事ができるようになるでしょう。
これはゲーム業界にとっても、ゲームファンにとっても良いことです。

脱出ゲームは先に上げたほかにも様々な優れた点があり、例えば、ゲーム内のテキストが少なくてもゲームとして成立することから多言語展開に向いている、などもあげられます。
稼働日数の少なさを、多言語展開することでカバーする、というのも十分に可能でしょう。
日本の脱出ゲームは教育性が高い!という世界的なトレンドを作ることもできるかもしれません。

スマホアプリゲームの市場で育ちつつある脱出ゲームですが、まだまだ発展の余地はあると思います。
アプリゲームの開発を試してみたい、と思っていらっしゃる方は、脱出ゲームの開発を検討してみるのはいかがでしょうか。

かくいう私も脱出ゲームをリリースすべく、プログラミングと3DCG作成を独学中です。(本当にリリースできるかは不明。一応お楽しみに。)

著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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