【レポート】黒川塾55 水口哲也 エンタテインメントの未来を語る‐2「とにかく戻りたくない、先に進んで行きたい」

 取材 
  公開日時 

 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

2017年11月22日、デジタルハリウッド大学院の駿河台キャンパスにて黒川塾55が開催されました。
かなり時間が経ってしまいましたが、この記事では黒川塾55の様子をご紹介します。

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黒川塾55のゲストは2回目の登壇となった水口哲也氏。前回登壇した際のテーマは「水口哲也 エンタテインメントの未来を語る」でしたが、あまりの盛り上がりに過去の話だけで時間切れとなってしまい、改めて今度こそ未来を語る、ということでpart2が開催されました。

【レポート】黒川塾55 水口哲也 エンタテインメントの未来を語る‐2「とにかく戻りたくない、先に進んで行きたい」

参考記事
【レポート】「黒川塾53」水口哲也 エンタテインメントの未来を語る「セガのゲームだけ画面の中から変な色が出ていた」

『セガラリー』、『スペースチャンネル5』、『Rez』、『ルミネス』、『Child of eden(英語版)』などの制作に携わってきた水口氏。この回ではセガを独立した後、水口氏がどのようにゲーム製作に関わってきたのか、そして水口氏の考える未来について、たっぷりと語られました。

独立、PSP、そしてルミネスの大ヒット

水口氏は38歳の2003年にセガを退職。

「自分が進もうとしていた方向とセガが進もうとしている方向とが違っているように感じていていた。その中でセガに残るのは、会社にすごく無理をしてもらう必要があって、それはできないなと」

少人数で会社を立ち上げ、会社の作り方もよく分からなかったという中で水口氏は新たな一歩を踏み出しました。

【レポート】黒川塾55 水口哲也 エンタテインメントの未来を語る‐2「とにかく戻りたくない、先に進んで行きたい」

ちょうどその頃、SONYがPSP(プレイステーションポータブル)を発表。
『REZ』『スペースチャンネル5』の流れで、音楽とゲームの融合をもっとやりたい思っていた水口氏にとって、PSPにイヤホンジャックが付いていることは大事件だったそう。PSPを触りながらどんなゲームを作ろうかと考えたそうですが、楽しそうにプレイしている人をイメージしたときに、ライトにカジュアルにいつでの遊んでやめられて、と考えるとやっぱりパズルだな、ということで、それが名作「ルミネス」につながりました。

ゲームの作り手ならではの発想でPSPに革命性を見出した水口氏ですが、実はこの時まだパズルゲーム作成の経験はなかったそうです。

「ルミネスというゲームタイトルが先に降りてきた」

結果として「ルミネス」は国内外で大ヒットとなりました。

ルミネスの成功から停滞の時期、そして『Rez』での復帰

ルミネスのヒットで順調に滑り出したかのように見えた水口氏。しかし組織が大きくなったところにリーマンショックが到来。プロジェクトが2つストップするという大事件が起きました。

「あのときは自分がやばかった」

と水口氏は振り返ります。

【レポート】黒川塾55 水口哲也 エンタテインメントの未来を語る‐2「とにかく戻りたくない、先に進んで行きたい」

「皆を食べさせなければならないから色々なことを考える。徹夜して企画を考えて、プレゼンして、でも決まるのは3か月後だよな、キャッシュフロー大丈夫かな、とか」

疲れのせいで脂っこいものを食べすぎて、痛風になったこともあるという。

クリエイティブなストレスは受け止められるが、お金のストレスは良くない、どう無理をせずにクリエイティブとビジネスを両立できるかをずっと考えてきたそう。

その後ゲームはオンライン、モバイルへ動いていきます。
ビデオゲームの時代は完全に終わったという雰囲気が漂い、
オンライン、モバイル、アイテム課金、というワードがゲーム界隈を席巻。
水口氏の会社もオンラインゲームの方へ動いていきますが、どうもそれが合わなかったという水口氏は語ります。

「100人ぐらいメンバーがいて一生懸命やっていて。話し合いを色々して、僕が離れた方が良いんじゃないかという事になった。震災の後だったと思います」

ビデオゲーム終焉のムードがあり、「みんなスマホスマホと言っていて」維持消沈している人が多かった、と水口氏。
常に先に進みたいと考えていた水口氏にとって、ゲームのクリエイティブとしてのこの停滞感はかなり深刻だったそうです。

その後しばらく大学で教えるという生活をした水口氏ですが、『Rez』をそのままにしたくないということでゲーム製作に復帰することになります。

水口氏が語るクリエイター集団の在り方「会社員ではなくオーナーシップを」

現在水口氏が代表を務める「エンハンス・ゲームズ」は、会社外部の力を有機的に利用して業務を行っているそう。

「ゲーム業界はドロッとしている。何故ハリウッドみたいな風通しにならないのか」

映画の場合は自分たちが気に入ったIPに対して、優れた監督に映画を作ってもらうようなことがあるそうですが、「それはゲームでも絶対にできる」と水口氏。

会社員という制度ではなく、オーナーシップをもって仕事に臨んでもらう環境を構築してきた結果、マネージャーが不要な組織になったという。

「 会社って大きくなると管理職が必要になる。クリエイティブなことは分からないけど、マネジメントはできますみたいな人が出てくる。そうすると、あの人分かってないっすよ、みたいになりますよね」

これがクリエイター集団にとってはとても重要なことだという。
また、

「ロイヤリティを払う場合は、ライフタイムで一生涯払い続けないといけないと思った。経理的には大変だが、やると決めた」

「お金とやる気とはセット。これがそろえば大体うまくいく」

と水口氏。

10年後の未来は色々なものが劇的に変わっているはず

黒川塾55の最後には、水口氏が考える未来について語られました。

「VRとかATとかMRとかXRとかいろいろな言い方をしているけど、その辺の世界と現実の世界が解けていくというのが来ると思っていて、四角い画面よりもそっちの方がパワフル」

「そういった変化はVR単体で起こるのではなくて、他のテクノロジーと組み合わさってやってくると思う。今までみたいに、例えばスマホが普及するみたいなことではなく、気が付いたら劇的に変わっていると思う。10年後は自分で車を運転していないと思いますよ」

「運転しないという事は、車の中でどうするの?ってことになって、住む人も出てくる。僕が学生だったら部屋は借りない。シャワーとか自動運転車用のシャワールームとかできそうですよね。電気代もほとんどタダになっていると思うし」

「コミュニケーションも仕事の仕方も変わってくるでしょう。ARやMRは当たり前になっていると思う。多分10年後以降一気にやってくるんじゃなでしょうか」

「とにかく戻りたくない」「先に進んで行きたい」

水口氏の様々なエピソード、クリエイター集団の在り方、そして水口氏の考える未来と、盛りだくさんの内容で語られた黒川塾55。
「とにかく僕は戻りたくない、先に進んで行きたい」という水口氏の言葉が大変印象に残りました。

水口氏が手掛けた各タイトル、例えばドリームキャスト時代の『スペースチャンネル5』は、今プレイしても非常にスタイリッシュなゲーム。未来に向かって攻めているゲームをプレイしたいという方には、水口氏の各タイトルは本当におすすめ。まだプレイしたことが無い、という方はお持ちのハードに対応したタイトルを見つけて是非プレイしてみてください。

【レポート】黒川塾55 水口哲也 エンタテインメントの未来を語る‐2「とにかく戻りたくない、先に進んで行きたい」

短期間で2度の黒川塾登壇となった水口氏。3回目の登壇も楽しみに待ちたいと思います。

著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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