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「鶴ヶ谷プロジェクト」約18年の追跡研究より
2026年5月19日
発表のポイント
◇高齢者を約18年間追跡調査した結果、抑うつ症状は4つの「症状のタイプ(構造)」によって健康寿命(注1)への影響がそれぞれ異なることを明らかにしました。
◇男性では「無価値感」が、女性では「不安感」が要介護化または死亡リスクの上昇と関連があることがわかりました。一方、女性では「不幸感」が要介護化または死亡リスクの低下と関連することを確認しました。
◇本研究により、抑うつ症状のタイプに応じたメンタルヘルスケアが健康寿命の延伸に寄与する可能性が示唆されました。
概要
日本では健康寿命の延伸が重要課題です。しかし、高齢者の抑うつ症状は要介護化や死亡リスクと関連するものの、「気分の落ち込み」「不安」「無力感」など、抑うつ症状のタイプの影響や性差については明らかではありませんでした。
東北大学産学連携機構イノベーション戦略センターの永富良一特任教授(研究当時:同大学大学院医学系研究科運動学分野教授)と、医薬基盤・健康・栄養研究所身体活動ガイドライン研究室の門間陽樹室長(研究当時:同分野准教授)、福原浩之大学院生(研究当時)らの研究グループは、仙台市鶴ヶ谷地区在住の高齢者585名を対象とした「鶴ヶ谷プロジェクト」において、抑うつ症状のタイプ(構造)と健康寿命(要介護化または死亡までの期間)との関連を調査しました。追跡開始時点(2002年)の抑うつ症状の因子分析を行った結果、抑うつ症状は無価値感、不安感、不幸感、活力の低下が主体となる4つのタイプに分かれることが分かりました。さらに約18年間の追跡調査の結果、これらの抑うつ症状のタイプによって健康寿命への影響が異なることが明らかとなりました。男性では「無価値感」、女性では「不安感」が強いほど要介護化または死亡のリスクが高いことが示されました。一方、女性における「不幸感」は予想に反しリスクの低下と関連していました。本研究は、抑うつ症状を単純に総合的に評価するのではなく、その内訳に注目する重要性を示すものであり、個別化された予防戦略の必要性を示唆します。本研究成果は、2026年4月25日にJournal of Psychiatric Research誌に掲載されました。
詳細な説明
研究の背景と経緯
日本は世界有数の長寿社会であり、健康寿命の延伸は重要な課題です。高齢者における抑うつ症状は、身体機能の低下や要介護状態、死亡リスクと関連することが知られています。しかし、抑うつ症状は「気分の落ち込み」「不安感」「無力感」など複数の側面から構成されており、これらを一括りに評価する従来の方法では、それぞれの症状が持つ影響の違いは十分に明らかにされていませんでした。また、性差による影響の違いも十分に検討されていませんでした。
今回の取り組み
東北大学産学連携機構イノベーション戦略センター特任教授の永富良一(ながとみ りょういち)(研究当時:同大学大学院医学系研究科運動学分野)、医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所身体活動ガイドライン研究室の門間陽樹室長(研究当時:同分野准教授)、福原浩之大学院生(研究当時)らの研究グループは、仙台市鶴ヶ谷地区在住の高齢者を対象とした「鶴ヶ谷プロジェクト」において、抑うつ症状のタイプ(構造)と健康寿命(要介護化または死亡までの期間)との関連を検討しました。
本研究では、「鶴ヶ谷プロジェクト」のデータを用いて以下の解析を行いました。2002年に高齢者総合的機能評価(注2)を受けた70歳以上の高齢者585名 を対象に抑うつ評価(GDS-15(高齢者用抑うつ尺度)(注3))の回答結果の因子分析を行い、抑うつ症状のタイプ分類を行いました。また、約18年間の追跡調査期間中の抑うつ症状タイプごとの要介護認定または死亡のリスクを比較しました。
その結果、男性では「無価値感」が強いほどリスクが上昇することが示されました(ハザード比[HR]1.85、95%信頼区間[CI]0.98–3.49、傾向性P=0.04)。一方、女性では「不安感」が強いほどリスクが上昇するものの(HR 1.88、95%CI 1.15–3.07、傾向性P=0.02)、「不幸感」はリスクの低下と関連があることが分かりました(HR 0.51、95%CI 0.30–0.87、傾向性P=0.01)。この結果から、抑うつ症状の質と性別によって健康寿命への影響がそれぞれ異なる可能性があることが確認されました。
今後の展開
本研究の結果により、高齢者の抑うつ症状の評価においては、総点数だけでなく症状の内容によってその後の健康寿命への影響が異なること、また男女では抑うつ症状の内容によって健康寿命への影響が異なる可能性があることが明らかになりました。これは、高齢者における抑うつ症状において、内容や性別によって異なる介入戦略を考慮する必要があることを示すものであり、抑うつ要因を起点とした地域の要介護予防・健康寿命延伸の政策に重要な示唆を与えるものです。本知見をもとに、今後は高齢者の抑うつ症状である「無価値感」や「不安感」に対してそれぞれどのような介入戦略が有効なのかを、公衆衛生の立場から検討していくことが重要です。
用語説明
注1 健康寿命:介護や寝たきりにならず、自立した健康な生活を送れる期間のことです。
注2 高齢者総合的機能評価:疾病の有無だけではなく、身体、認知、心理、生活習慣や社会的背景などを総合的・多面的に評価することです。
注3 GDS15(高齢者用抑うつ尺度):高齢者の抑うつ症状スクリーニング用の質問紙で、15種類の症状の有無を回答するものです。該当する症状の数が多いと抑うつ傾向が疑われます。
論文情報
タイトル:Disability free survival by symptoms of depression in older adults: a historical cohort study from the Tsurugaya Project
著者:Hiroyuki Fukuhara, Atsushi Hozawa, Naoki Nakaya, Mana Kogure, Haruki Momma*, Ryoichi Nagatomi*
*責任著者:
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
国立健康・栄養研究所 身体活動研究センター 身体活動ガイドライン研究室
室長 門間 陽樹(もんま はるき)
(研究当時:東北大学大学院医学系研究科運動学分野 准教授)
東北大学 産学連携機構 イノベーション戦略センター
特任教授 永富 良一(ながとみ りょういち)
(研究当時:東北大学大学院医学系研究科運動学分野 教授)
掲載誌:Journal of Psychiatric Research
DOI: 10.1016/j.jpsychires.2026.04.031


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