本文へスキップ

がん遺伝子RASを標的とするタンパク質型抗がん剤候補を開発

目次

    <<発信元のニュースをそのまま掲載しています>>

    免疫細胞と協力して腫瘍を消失させる新たな作用機序を解明

    2026年5月29日
    岐阜大学
    長崎大学
    徳島大学

    がん遺伝子RASを標的とするタンパク質型抗がん剤候補を開発 -免疫細胞と協力して腫瘍を消失させる新たな作用機序を解明-

     

     

    本研究のポイント

    ・ がんで高頻度に変異するRAS(注1)を広く標的とする、タンパク質型pan-RAS阻害薬(注2)候補「RRSP-RBD(注3)」を開発しました。

    ・ RRSP-RBDは、RASを切断する酵素とRAS結合ドメインを融合させたキメラタンパク質で、細胞内におけるRASシグナルを強力に抑制します。

    ・ マウス実験において、一部の腫瘍の縮小と消失を引き起こすことを確認しました。

    ・ この腫瘍消失には、免疫物質IFNγ(注4)と免疫細胞CD8陽性T細胞(注5)が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

    ・ 本成果は、RASを標的とする新しいがん治療タンパク質医薬の開発基盤となるものです。

     

     

    研究概要

     岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の本田 諒 准教授らの研究グループは、長崎大学、国立がん研究センター、徳島大学との共同研究により、がんで高頻度に変異する「RAS」を標的とするタンパク質型pan-RAS阻害薬候補「RRSP-RBD」を開発しました。

     RASは細胞の増殖や生存を制御する重要なタンパク質ですが、RAS遺伝子に変異が生じると、膵がんや大腸がん、肺がんなど多くのがんで治療抵抗性や再発の原因となります。一部のRAS変異を標的とする薬剤は実用化されつつありますが、多様なRAS変異を幅広く標的とする治療法は限られていました。

     本研究では、RASを切断する細菌由来の酵素RRSPにRAS結合ドメインを融合することで、細胞内でRASを効率よく不活化するタンパク質を設計しました。さらに、細胞内送達システムを組み合わせることで、マウスがんモデルにおいて腫瘍の縮小と消失を誘導することを確認しました。また、腫瘍の消失にはがん細胞内のRAS阻害だけでなく、IFNγとCD8陽性T細胞を介した腫瘍免疫が重要であることを明らかにしました。

     本研究成果は、現地時間2026年5月16日に国際学術誌「Nature Communications」のオンライン版で発表されました。

     

    図:タンパク質型pan-RAS阻害薬の作用機序 タンパク質型pan-RAS阻害薬RRSP-RBDが腫瘍細胞内でRASを切断・不活化し、 CD8陽性T細胞とIFNγを介して腫瘍壊死を誘導する。

     

     

    研究背景

     RASは、細胞の増殖や生存を制御する重要なタンパク質ですが、KRAS、HRAS、NRASを含むRAS遺伝子の変異は、膵がん、大腸がん、肺がんなど多くのがんに関与しています。近年、一部のRAS変異を標的とする薬剤が臨床応用されつつありますが、多様なRAS変異を広く標的とする治療法は限られていました。

     本研究グループは、低分子薬とは異なるアプローチとして、RASそのものを直接認識し、切断して不活化する「タンパク質型阻害薬」の開発に取り組みました。

     

     

    研究成果

     研究グループは、RASを切断する酵素RRSPと、RASに結合するRAS結合ドメイン(RBD)を融合した「RRSP-RBD」を設計しました。RBDを組み込むことで、RRSPがRASの近くに集まりやすくなり、RAS切断とRASシグナル抑制が強化されました。

     また、RRSP-RBDに細胞内送達システムを組み合わせることで、がん細胞内へタンパク質を届けることに成功しました。ジフテリア毒素由来の送達ドメインを用いたRRSP-RBD-DTBは、ヒトがん細胞に対して極めて低濃度で抗腫瘍活性を示しました。細胞膜透過性ペプチドTATを用いたRRSP-RBD-TATは、免疫機能を持つ一部のマウスがんモデルで腫瘍の縮小と消失を誘導しました。

     さらに、CD8陽性T細胞やIFNγを除去すると、RRSP-RBD-TATによる腫瘍壊死が抑制されました。この結果から、RRSP-RBD-TATの効果には、がん細胞内のRAS阻害に加えて、IFNγとCD8陽性T細胞を介した腫瘍免疫が関与することが分かりました。

     薬物動態および毒性評価では、RRSP-RBD-TATが腫瘍内へ到達し、実験条件下で不可逆的な毒性を示さないことも確認されました。

     

     

    今後の展開

     本研究は、RASを標的とするタンパク質型阻害薬が、腫瘍免疫と連携して腫瘍消失を誘導することを示しました。今後は、より効率的な細胞内送達技術の開発、投与条件の最適化、長期的な安全性評価を進めることで、難治性RAS変異がんに対する新しい治療戦略につながることが期待されます。

     なお、本研究はマウスモデルを用いた前臨床段階の成果であり、ヒトでの有効性・安全性については、さらなる検証が必要です。

     

     

    用語解説

    (注1)RAS

    細胞の増殖や生存を制御するタンパク質。KRAS、HRAS、NRASなどがあり、多くのがんで変異が見られます。

     

    (注2)pan-RAS阻害薬

    特定のRAS変異だけでなく、複数のRAS変異やRASファミリーを広く標的とする阻害薬。本研究では、タンパク質を用いる点が特徴です。

     

    (注3)RRSP-RBD

    RASを切断する酵素RRSPと、RASに結合するRBDを融合したタンパク質。本研究で開発したpan-RAS阻害薬候補です。

     

    (注4)IFNγ

    免疫細胞から分泌されるサイトカインの一種。抗腫瘍免疫の活性化に関わります。

     

    (注5)CD8陽性T細胞

    がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する免疫細胞。本研究では、腫瘍の縮小と消失に重要であることが示されました。

     

     

    研究支援

    本研究は、以下の研究助成などを受けて実施されました。

    国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED:23ck0106781h0002、25ck0106074h0001、JP24ak0101178)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費:22K15246、25K02678)、名古屋大学医学部附属病院(A123)、公益財団法人 内藤記念科学振興財団、公益財団法人 MSD生命科学財団、公益財団法人 上原記念生命科学財団、公益財団法人 持田記念医学薬学振興財団、公益財団法人 武田科学振興財団、公益財団法人 豊田理化学研究所 2025年度豊田理研スカラー制度、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING:JPMJSP2125)

     

     

    論文情報

    雑誌名:Nature Communications

    論文タイトル:Protein-based pan-RAS inhibitor induces tumor regression in female mice via IFNγ and CD8+ T cell-dependent tumor necrosis

    著者:Teiko Komori Nomura, Kazuki Heishima, Hidefumi Mukai, Kosuke Arai, Abdelazim Elsayed Elhelaly, Hirobumi Fuchigami, Shota Warashina, Tsuyoshi Tahara, Fuminori Hyodo, Masayuki Matsuo, Masahiro Yasunaga, Kazunori Aoki, and Ryo Honda

    DOI:10.1038/s41467-026-73300-z

     

     

    コメント

    コメントを書く

    記事の感想や追加情報など、お気軽にお書きください。メールアドレスは公開されません。


    おすすめ記事

    編集部PICK

    トップ特集ヒーロー

    新着記事