海底の舞台設定を活かした独特な操作感と極める楽しさが魅力の探索型アクション「深世海 Into the Depth」
著者:シェループ
カプコンと言えば、近年は「モンスターハンター」に「バイオハザード」、「ストリートファイター」、そして「ロックマン」の印象が強いゲーム会社だ。
そんなカプコンは時折、シリーズ作ではない意欲的な完全新作を唐突に出してくることがある。大抵は1作限りで終わってしまうのだが、中には「逆転裁判」のように後々の看板タイトルへと発展したものもある。
プレイヤーから熱烈な支持を得ることも多く、発売から10年以上が経過した後でも愛され続けているタイトルも少なくない。
「ガチャフォース」、「エクストルーパーズ」はその一例と言えるだろう。
今回取り上げる「深世海 Into the Depth」も、唐突に現れた完全新作のひとつ。2019年に「Apple Arcade」でiOS用ゲームアプリとして配信されたタイトルだ。
翌2020年にはNintendo Switch用ダウンロードソフトとしても発売。
本レビューは、このNintendo Switch版を元に記述する。
海底世界の最果てを目指す、独特のスリル満載の探索型アクション
ーー地表が氷に覆われ、人々が海中で暮らすことを余儀なくされた世界。だが、長き年月が経った今も氷は広がり続け、文明は崩壊の一途を辿っていた。
ーーそんな海中でひとり生き続けていた主人公「潜海者(せんかいしゃ)」。ある日、彼は偶然にも未知の機械「潜導(せんどう)」と巡り会う。その出会いをきっかけに、彼は広く深い海の底を目指すことになる。一体、その先には何が待つのか。
このような物語と共に幕を開ける本作は、横視点で展開されるアクションゲーム。プレイヤーは主人公の「潜海者」に扮し、舞台となる海底世界、その名も「世海」の探索に挑む。
アクションゲームとしては探索型に属するもので、迷路のように広大なマップを潜行しながら進めていく。進むべき目的地はゲーム側がガイドマーカーで教えてくれる仕組みで、基本的にはそれが示す場所を目指して探索していく形だ。
だが、その道のりは一筋縄ではいかない。舞台となる海底世界では危険な海洋生物たちのほか、世界を蝕む「氷」に代表される多数の障害がプレイヤーを待ち受ける。
探索を続けていくと、まるで血のように赤く染まった区域も出現する。
この赤い区域は高水圧であることを示す危険地帯で、潜ると潜水服とボンベが水圧に耐えられず徐々に消耗していき、そのままゲームオーバーになってしまう。
赤い区域より下に潜りたい場合は、潜水服の強化が不可欠。強化は地面などに埋まった「資源」のアイテムを一定量回収すると、実施と同時に赤い区域より下にある区域の探索が可能になり行動できる範囲が拡大するのである。
このため、潜水服の強化と並行しながらマーカーが示す目的地を目指す、というのがこのゲームの主な流れとなる。海の奥深くを目指す(潜っていく)というストーリー、およびその設定に準じた、独特かつ特徴的な構成にまとめられているのだ。
主人公もそんな一連の設定に準拠した個性付けが図られている。分かりやすいものでは「酸素」。曲がりなりにも主人公は人間。海底世界を探索し、生き延びるに当たっては「酸素」が必要不可欠にして生命線である。
それゆえに本作では探索中から何らかのアクションを行う時も含めて常に「酸素」を消耗する。酸素が全て尽きてしまえば溺死(という名のゲームオーバー)確定である。
また、酸素の最大量は道中にて「酸素ボンベ」を回収すれば拡張可能。だが、酸素ボンベは敵の海洋生物からの攻撃を受けたり、高所から落下するなどのミスをするとヒビが入った状態になってしまう。そのまま何回か攻撃などを受け続けるとボンベは大破し、酸素の最大値も減少してしまうのだ。
まさに酸素は生命線であり、主人公の耐久力という設定。2つの概念[a]を持ち合わせた独特な仕組みで、地上が舞台になりがちな一般的なアクションゲームとはひと味異なる管理と気配りが試されてくるようになっているのである。
他には、海底世界だけに、移動やジャンプを始めとするアクションの挙動も水の抵抗がかかるため大変独特。悪く言えばプレイヤーの思い通りの動きをしてくれないので、細かく制御するスキルが試される。さらに探索中には海洋生物との戦闘も発生。その際には近接用の「ギャフ」、様々な銛(もり)を射出する水中銃を用いて対抗する。
ずっと一人淡々と探索し続ける訳ではなく、ゲームが進むと「潜水艦」も登場。広範囲への移動、装備された「ドリル」を用いた進路確保も可能になったりと、それまでとは一風変わった探索が楽しめるようになる工夫も万全だ。
このように全体としては海底が舞台という設定を効果的に活かした、独特な癖と遊び心地が特徴の探索型のアクションゲームに仕上がっている。探索型のアクションゲームは陸地が舞台との印象が強いが、その意味でも珍しく、これだけでも体験する価値がある。
設定特有の癖のあるアクションと、それを極める面白さ
本作の魅力は前述の通りである。
海底世界が舞台との設定を活かした各種システムと制約、そしてよくも悪くも”じゃじゃ馬”なアクション。そのどれもがこの作品でしか味わえない楽しさ、いい意味での嫌らしさを醸し出している。
特に秀逸なのはアクションの”じゃじゃ馬”ぶり。常に水の抵抗を受け続けるので、本当に思い通りに動いてくれない。どうしても抵抗がもたらす”間”を挟んでしまう。それら一連のハンデを背負いながら探索と戦闘をこなしていく過程が、まさに本作特有の手応えに満ちており、よくも悪くも印象に残る体験を提供してくれる。
アクション自体の豊富さも見所。移動にジャンプのほか、「ブースト」による水中の浮遊、その状態からの高速移動こと「ブーストジャンプ」、壁などを掴んで昇るなど、意外に縦横無尽な行動が取れるようになっている。
武器もゲームの進行に合わせて異なる特徴を持つ銃が手に入り、様々な攻撃が可能になっていくのが楽しい。
銃は戦闘のみならず、スイッチに引っ掛けて起動させるなど探索でも活躍する。とりわけ天井に銛を突き刺して宙吊り状態になった後、身体を動かして勢いをつけ横方向に飛ぶというワイヤーアクションは、古くからのカプコンファンなら、ニヤッとしてしまうこと請け合いだ。
操作があまり煩雑ではないのも嬉しい。コントローラのボタンからスティックまで幅広く使うものの、複雑な組み合わせはなく、直感的に操作できる。操作方法を教えてくれるチュートリアルも万全。段階的に各アクションを覚えていく構成を徹底しているので、ゲームの進行に沿っていけば自然に身に付くようにもなっている。
だが前述の通りに水の抵抗を受ける影響のため、主に移動絡みのアクションは”じゃじゃ馬”。微調整が試される作りで、この点には煩わしさとストレスを抱いてしまうかもしれない。
しかし裏を返せば慣れれば慣れるほど、縦横無尽に海底世界を駆け巡る楽しさが底上げされていく。そして、”じゃじゃ馬”ゆえにプレイヤーの上達具合もとても分かりやすい形で返ってくる。敵との戦闘で機敏に動けた時、ブーストを駆使した素早い移動と共に探索をこなせた時はその最たる例で、後々に「序盤もこの動きならもっと早く進めたのでは?」との周回プレイへの意欲も刺激されるのだ。
こうしたアクションを極める楽しさがしっかりしているのが大変素晴らしい。何よりこの手応えと楽しさに、カプコンが過去に発売した癖の強さが特徴のアクションゲームの醍醐味が詰まっているのが面白い限りだ。
主に1980年代にアーケード向けに発売されたカプコンのアクションゲームには、動きに癖のある作品も多々存在した。いずれも操作技術も試される硬派な内容ではあった。しかし、やりこんでいく度に華麗な動きができるようになる魅力があり、ゲームが終わりに差し掛かる頃にはプレイヤー自身の腕前が見違えるほど成長している。
そんな成長する喜びの大きなゲームとして、ひとつの象徴になっていたのが「バイオニックコマンドー(トップシークレット)」だった。
本作にはそんな往年のアクションゲームの持つ醍醐味が、海底という舞台設定を用いる形で描かれている。初めはもどかしいが、段々と思い通りに動かせるようになって、最終的には見違えるほど上手くなっている。そのような歴史ある面白さと快感が詰まっているのだ。”じゃじゃ馬”なりに上手く動かせない時のストレスが大きいのも否定しないが、それを乗り越えるだけの価値がある。
そのため、アクションゲームにおいて極める楽しさを求める人ほど本作は強く推せる。合わせて、その上手くなっていく過程に魅了されるだろう。
一連の特徴にアクションゲームが苦手な人には厳しそうと思うかもしれないが、前述の通り操作はそこまで難しくない。また、序盤は操作に慣れることに集中してもらうため、マップの構成や敵の配置なども神経を尖らせて設計されている。セーブポイントも道中には豊富に設置されているので、ゆっくり自分のペースで進めていける。
癖はあるものの、その手触りは唯一無二であり、これらを駆使して広大な海底世界を探索するという内容も臨場感抜群。前述の繰り返しになるが、本当に陸地が舞台のアクションゲームにはない手応えがあるので、気になればすぐにでも挑戦いただきたいところだ。
冒険心をくすぐる世界観とこだわりのサウンドにも注目の良作
アクションに焦点を当てたが、探索面の出来も非常によい。目的地が常に示されるほか、高水圧域の配置によって行動範囲を限定させ、導線を明確に示す工夫を凝らしている。そのため、不思議と迷うことなく進めていける。
マップ自体も地形から敵配置共に適切。さらに廃墟と化した文明社会という舞台設定に基づいた世界観が冒険心を大いにくすぐる。
ストーリーも台詞などの文字情報が一切なく、キャラクターたちの動作や探索中に手に入る資料を元に紐解くという考察し甲斐のある作りがユニークだ。海の底を目指すという目的も分かりやすいのに加え、終盤には意表を突く展開も待っている。どんな展開が待つかは見てのお楽しみだが、冒険の始まりからは想像も付かない”壮大さ”に魅了されるだろう。
グラフィック、音楽も海底世界特有の神秘的な雰囲気を見事に表現。とりわけ音楽は曲から効果音まで、本当に水中にいるかのような籠った感じになっている。
それだけにヘッドホンを着用してプレイすれば、本当に海中にいるかのような臨場感も堪能できる。実際にゲーム開始前には「有線イヤホン、又はヘッドホンを着用して水中サウンドをお楽しみ下さい(原文ママ)」との案内が出るほど。そうもお薦めするなりの圧巻の出来栄えなので、ぜひヘッドホンを用意した上で遊んでみていただきたいところだ。
ボリュームもエンディングまではおよそ5~6時間と、短すぎず長すぎずの丁度よさ。隠された収集物の回収、クリア後に解禁されるセーブ無しのタイムアタックなど、やり込み要素も豊富で遊び応えは抜群だ。
全編良い部分しかない訳ではなく、ゲームオーバーからのリトライ時でも一部のムービーデモがスキップできない、弾数制限がない銛を射出する武器の使い勝手の悪さ、大型ボス戦の難易度など、難点も少なからず存在する。
特に大型ボスは最初の1体目を除き、効果的な倒し方に気付くまでは一方的に追い込まれやすく、ゲームオーバーの連発になりやすいのが結構なストレス。最終ボスはその点が群を抜いており、倒し方も含めて一考の余地があったように思える。
射出する銛の切り替えボタンがLボタンというのも筆者個人としては違和感があった。右スティックで狙いを付けて発射する仕組みから、Rボタンに置いてくれればと思った次第だ。キー設定の変更ができないのも残念だ。
ただそれらの難点を覆い隠してしまう程度に本編の面白さと独自性は頭ひとつ抜けている。往年のカプコンのアクションゲームを想起させる極める面白さもあることから、どこか懐かしく感じてしまうところもある本作。アクションゲーム好き、中でも探索型が好きであれば、ぜひともプレイいただきたい珠玉の良作だ。海底世界が舞台という設定が面白そうという、ゲーム以外の部分に興味を抱いた人もそのまま飛び込んでみて大丈夫。陸地が舞台のアクションゲームでは味わえない冒険を満喫してみよう。