フィンランドにて開催された世界最大規模のド派手な起業フェス「Slush 17」 熱気に包まれた会場の様子をレポート
著者:篭谷千穂
2017年11月30日(木)〜12月1日(金)、フィンランド・ヘルシンキにて世界最大級のスタートアップ・フェスティバル「Slush 2017」が開催されました。
※この記事はvsmediaの取材協力を得て掲載しています。
Slushとは、フィンランドをはじめとする世界各国から起業家や投資家、メディア、果ては政府要人や王室までが集う非営利のビジネスカンファレンス&出展イベント。
普通、ビジネス系のイベントというと堅苦しいスーツを着て会議室みたいなところでカンファレンスが行われ…という光景を思い浮かべがちですが、Slushの雰囲気はこんなのです↓
どこを見てもド派手な演出だらけで、会場内はまるで巨大なクラブのよう!このイベントはまさに『フェス』なのです。
Slushは2008年に初めて開催され、当時はフィンランド現地の参加者を中心に300名ほどが集う小規模なコミュニティイベントでした。その後2011年に運営主体が起業を志すアールト大学の学生団体に移ってから一気に開催規模が拡大し、今ではアーティストの代わりに起業家がステージに立つ巨大フェスへと変貌しました。
もちろんこんな演出をしているのには理由があります。それは「起業家はロックスターみたいにカッコ良い存在なんだ!」
「自分の会社を興すって超クール!」
「バンドを組む感覚で会社を作れ!」
と参加者に目に見える形で示し、起業志望の人たちを鼓舞するというもの。
こんな雰囲気なので、会場内には所謂『意識高い系』な空気は一切なく、むしろ意識が低かろうが起業志望でなかろうが
「とりあえずその場にいるだけでなんだか楽しい」
気分になってしまううベントです。
こうしたところもまさにフェスなんですよね。
場内には豊富にミーティングスペースが設けられていますが、このように席がブランコになっていたりと遊び心いっぱい。
いい大人(しかもビジネスマン)がみんなでブランコに乗っている光景はかなり面白いですが、そんな場所で話し合えばよりクリエイティブな会話になるかもしれません。
Tシャツにニット帽、水筒、スマホケースetc...場内にはSlushのロゴをあしらったオフィシャルグッズショップも設けられていました。こういうところまでフェスっぽい!
講演者が登壇するステージだけでも4ヵ所あり、全てのセッションが同時進行して敢えて全てをチェックできないようになっている進行もフェス的でした。こちらはステージの上で本物の焚火が燃えているその名もズバリ「Fireside Stage」。日本の消防法では実現不可能なステージです。
会場内を歩いていると、普段はニュースでしか見られないとんでもない人や物に出会えることもあります。これは電気自動車で知られるテスラ(Tesla)のブース。試乗もできる同社の車の周りにはいつも人だかりができていました。
こちらはフィンランド・オウル市に拠点を置くモバイルゲームディベロッパーのKoukoi Gamesの出展ブースです。同社はRovioやNokia、IBMの元スタッフによって2015年に設立されたスタートアップで、今回はSlushの開催に合わせ、同社の最新作で、20世紀FOXの新作アニメ映画「FERDINAND」の公式スマートフォン向けパズルゲーム「Ferdinand: Unstoppabull」をリリース&出展。日本での映画公開についてはまだ未定ですが、ゲーム自体は日本からもダウンロード可能なので興味のある方は是非プレイしてみて下さい。
こちらはフィギュアやコントローラーと連動した子供用の教育向けモバイルゲーム&IoTガジェット「TOYji」。Bluetooth接続された専用のベースの上で実物のフィギュアを動かすと、タブレットの画面内でもフィギュアと同じ動物が動いてアクションを起こします。昔ながらの人形遊びにデジタルの要素を加えたような内容で、ゲームの種類も謎解きや脳トレ、想像力・創造力を育む教育的なものが取り揃えられており、家族みんなで安心してプレイできるよう配慮されています。
今回のSlushはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった「XR」系の出展が非常に多かったのですが、それと関連してか、このように実際に体を動かしてプレイするゲームの出展がいくつかありました。この「Playpulse」は、2対2のチームに分かれて実際にサイクリングマシンを漕ぐことでゲーム内の戦車を動かし、相手チームの戦車を攻撃して勝利を目指す対戦ゲーム。日本人の感覚だと「ゲーセンに置かれていたら人気になりそう」と思ってしまいますが、実際は運動不足解消を狙ったフィットネス・シリアスゲームとのことで、ジムへの導入をすすめているそうです。
それにしてもなぜフィンランドでこんなにも起業熱が高まっているのでしょうか?
その背景には、同国がかつて誇っていた世界一の携帯電話メーカーであるNokiaの凋落があります。
Nokiaは長年世界の携帯電話市場で首位を独走していたものの、スマートフォンの波に乗り遅れて低迷し、遂に2013年に携帯電話事業がマイクロソフトに買収され、その後の大規模レイオフによりフィンランドには大量の失業者が溢れました。普通ならこの時点で同国の経済そのものも大きく傾くはずです。
ところが、同国の各地域もNokia自身も「再就職先を探すのではなく自分の会社を作ろう!」と起業支援に乗り出し、インキュベータープログラムを立ち上げて出資するなど具体的な援助を行いました。
その結果、それまでNokiaでグローバルな事業に携わり豊富な経験とノウハウを有していた多くの元スタッフがTech系のスタートアップを立ち上げ、現在同国のスタートアップ業界はゲームやアプリ、Webサービス、IoTガジェット、新型スマートフォン、XRなど百花繚乱状態となっています。国を代表する大企業が傾いてしまうのは確かにネガティブな出来事ですが、それを逆手に取ってすぐに新たなムーヴメントを生み出したフィンランドの例には日本人も大いに学ぶことができるのではないでしょうか。
Slushに参加してみたい!でもフィンランドまでは行けない!という方、ご安心下さい。日本でも毎年春に”ご当地版”Slushである「Slush Tokyo」が開催されています。規模こそ本家Slushの半分くらいですが会場内の雰囲気は本家さながらで日本独自規の企画も行われています。次回は2018年3月28日~29日に東京ビッグサイトにて開催される予定なので、まずはSlush Tokyoに参加してみませんか?