90年代風のローポリゴン正統派3Dシューティング「Ex-Zodiac」
著者:シェループ
様々なPCゲームが販売中のプラットフォーム「Steam」には、「早期アクセス(Early Access)」と呼ばれるタイトルが存在する。ものすごく端的に言ってしまうと、完成途上のゲームである。
早期アクセスのゲームは、プレイヤーからの幅広い意見を得て、より良い状態にして完成版を出すことを目的のひとつにしている。プレイヤー視点でも、完成前のゲームを早々と遊べるに限らず、意見を送るという間接的な形で開発に協力できる魅力がある。
この記事では、早期アクセス中のゲームから、完成版の登場が期待される1本を選び、その特徴と見所を紹介していく。今回は2022年7月21日より発売中の「Ex-Zodiac」をピックアップする。
ローポリゴンのグラフィックが特徴の3Dシューティング
「Ex-Zodiac」は、画面の奥へと自動的に進む奥スクロール形式を取り入れた3Dシューティングゲーム。超銀河テロ組織「ゾディアック」の侵略を受けたサンザル星系の惑星を救うため、主人公の「キュウ」が彼らとの戦いを繰り広げていくという内容だ。
早期アクセス期間は約1年間で、完成版は2023年の発売を予定している。価格は税込1,000円だが、完成版の配信開始に合わせて値上げが検討されている。
現段階では、6つのメインステージと6つのスペシャルステージが実装されている。完成版は12ステージ以上の実装を予定しており、複数の分岐ルートやシークレットエリアも用意された盛り沢山な内容になるとのことである。
ちなみに前述にてストーリーを紹介したが、こちらも現段階のバージョンには最低限のものしか実装されていない。そのため、なぜ主人公のキュウはゾディアックに戦いを挑むのかといった経緯や設定に関する説明もない。本編も6つのステージを順に攻略していくだけと、異なる遊びが楽しめるモード分けもされていない。
この辺りは今後、完成版に向けたアップデートで実装される模様で、どのような形にまとまるのかを楽しみにしたいところだ。
そんな本作の大きな特徴がローポリゴンなグラフィックである。
自機や敵といったキャラクター、そびえ立つ建造物などをむき出しのポリゴン(※端的に言うと、四角形や三角形などの図形の集合体)で描写している。具体的には自機を始めとするキャラクター、建造物などはポリゴンで、背景(遠景)や爆発などの一部グラフィックは2Dのドット絵で表現している形だ。
この見た目に既視感を覚える人も少なくないかもしれない。それもそのはずで、本作はポリゴンを採用した3Dシューティングゲーム「スターフォックス」に影響を受けた作品でもある。具体的には1993年発売の初代「スターフォックス」で、対象に応じてグラフィックの描写を分けている点が共通している。
システム面でも、ステージクリア形式で進む本編や敵弾をはじく「ローリング」など、スターフォックスを思い起こさせるものが存在する。完成版では実装予定のルート分岐もそのひとつだ。
ただ戦術面は異なる。それを象徴するのが「マイクロミサイル」で、ショットボタンを押し続けるとミサイル照射モードへと切り替わり、照準を敵に重ねると対象をロックオン。そのままボタンを離せば、ロックした敵を追尾するミサイルが放たれるようになっている。
ロックオンは複数の敵に対して可能で、最大ロック数はミサイルの総弾数によって決まる。ミサイルの弾数は専用のアイテムを取れば増やすこともでき、相応にロック可能な敵も増える。最強状態なら、数発のミサイルが敵を追い回す痛快な光景も繰り広げられる。これと通常攻撃の「レーザー」、そして広範囲かつ有限攻撃の「ボム」を併用するのが本作の基本戦術となっている。
また、全体的なゲームテンポも早い。1990年代のポリゴンシューティングとは異なり、60fpsのフレームレートで描写されるため、スクロールは非常に滑らかだ。敵の出現パターンや総数もそれを前提にしており、素早い判断が求められるバランスに調整されている。
この特徴を踏まえ、戦闘機ではなくバイクを操縦する地上ステージが用意されているというのも大きな見所だ。ちなみにステージ中、「DATA」と記されたチップアイテムを獲得すれば遊べるスペシャルステージでは主人公のキュウ自身を自機として操作するのだが、そのスペシャルステージも既視感バリバリだったりする。
あえてオマージュ元のタイトル名は出さないでおく。
(上記画像から察してください)
注目は正統派3Dシューティングなことに尽きる?
現時点で遊べる本作の見所は、正統派の3Dシューティングをやり切っていることだ。
少々話が脱線するが、本作が影響を受けたスターフォックスは、誕生間もない頃こそ正統派の3Dシューティングゲームだった。
しかしシリーズを重ねるにつれ、シューティングからアクションアドベンチャーへと鞍替えしたり、十字キーとボタンをほぼ使わない特殊な操作を要求するなど、変化球を投げ続けるようになってしまっている。
そのため、正統派の3Dシューティングを求めるファンからすれば「コレジャナイ」な印象が際立つようになってしまった。
そんなスターフォックスの状況が状況だけに、本作の正統派ぶりは特に光っている。バイクで疾走する特殊なステージもあるが、基本は襲い来る敵を撃墜し、攻撃を避け、最後に待ち受けるボスの撃破を目指す。
コントローラを傾けるような特殊な操作を要求されることもなく、コントロールスティックとボタンで完結する。
それもあって、スターフォックスに物申したい思いがある人ほど「これだ!」となる作りになっている。特段珍しくもなければ、斬新さも皆無ではあるのだが、事情が事情だけに……である。いや、本当にそろそろ正統派に回帰する時だと思いますよ。
独り言はさておき。現代の環境で作られた滑らかなスクロール(高いフレームレート)も見所のひとつだ。1990年代は技術的な都合からガクガクになるのが避けられなかったが、現代だとこうなるという歴史の推移を実感させられる。
しかも、オプションでその当時のフレームレートに設定して遊べてしまうのだから面白い。
ただ、ゲームバランスは60fpsを前提に調整しているためか、沢山の敵を相手にしたり、トラップを潜り抜けていく場面の難易度が急上昇する。かえってストレスが溜まることにも繋がりかねないので、変更するならばそのような事態が生じるのを念頭に置くのがいいかもしれない。
さらなる見所となるのはボス戦で、これが非常に面白い。特にボスの攻撃がいい意味でぶっ飛んでいる。巨大な触手を伸ばし、周囲に建てられた風車を倒してこちらを巻き添えにしようとしてきたり、隕石を噛み砕いてその破片をまき散らすなど、見ているだけでも楽しく、気持ちが熱くなるような攻撃を繰り出してくるのだ。それもあって、ステージを進むたびにどんなボスが現れ、どんな攻撃をしてくるのかと楽しみになってくる。そして期待に応じるかのように、後半になるほど攻撃の仰々しさが増す。
個性的なボスというのは、シューティングゲームに限らず、アクションゲームでも先へと進む動機にもなり得るが、本作はそこにかなり力を入れている感じだ。今後のアップデートで追加されるであろう、残り6体(もしくはそれ以上?)にも大きな期待がかかる。
シューティングゲームはボス戦が特に好きという人にとって、本作は相当な満足感を得られるはずだ。興味があればぜひ、その個性的過ぎる攻撃の数々を体験いただきたい。戦闘曲がそれぞれ、固有のものになっているのも要チェックだ。
懐かしさと新しさ、磐石ぶりが光る期待の1作
本作は日本語にも対応しており、日本語の翻訳に関しても全体的に自然で、違和感がない。また、英語でも通じる部分を日本語にしていないのも評価できる部分で、かなりわかったローカライズになっている。
ただ、翻訳は悪くないのだが、肝心のストーリーが追いかけにくい。ステージ攻略中に発生する通信会話で展開されるのだが、ゲーム本編が慌ただしいため、台詞を読む余裕が全くない。読もうとすれば被弾の危険性が増してしまう。
この演出は「スターフォックス64」の手法をオマージュしたのかもしれない。ただ、同作はゲーム本編に集中してしまうデメリットを踏まえ、日本語音声で喋らせるという措置を取っていた。そこから音声を抜き取ったような本作のやり方はその問題点が浮かび上がっている。
正直、これならストーリーはゲーム中に描かず、イベントデモに留める形にした方が良かったような印象だ。
また、それ以外に気になる点として、全体的なテンポの早さも相まって難易度が高めというところだ。本作はダメージ制を採用しているため、被弾しても自機が即撃墜される心配はないのだが、回復アイテムの出現率が全体的に低めに設定されている。難易度の選択機能も現段階ではないため、シューティングに苦手意識のある人には厳しいかもしれない。
最終的に難易度の選択機能が実装されるのか否かは分からないが、実装しないのなら、回復アイテムの出現率は多少上げていいように思うところである。
とは言え、現段階でも相当な完成度であり、正統派3Dシューティングとして押さえる所はちゃんと押さえた良作に仕上げられている。見た目は懐かしさに溢れつつ、高いフレームレートによる滑らかなスクロールといった、現代特有の強みが活かされた作りも本作の個性になっている。シューティングゲーム好きはもちろん、スターフォックスに一家言ある人ならば迷わず挑んでいただきたい1本だ。