Nordic Game 2018から見えてきたEUゲームディベロッパーの実情と、中国・インド・日本のゲーム市場
著者:Tetsu Kamoshima
モバイルゲームビジネスを考えるときに、海外展開という選択肢は無視できないものになっています。それは日本のモバイルゲームデベロッパーだけではなく、海外のデベロッパーにとっても同様です。
この記事ではスウェーデンで開催された「Nordic Game 2018」に参加・出展していた、EU圏を中心とした海外のゲームデベロッパーが、ゲーム業界をどのように見ているのか、またアジア市場および日本はどのように捉えられているのか、このような視点でのイベントレポートをお届けします。
Nordic Gameとは?
Nordic Gameは年に1度スウェーデンで開催される、北欧最大級のゲームイベントです。オープン性、革新性、多様性を基盤に、強力で統一されたゲームコミュニティを作るというビジョンを掲げて開催されており、毎年多くのゲーム関係者が世界中から集まって来ます。
2018年のNordic Game は、5月23日〜25日に渡って、マルメ※にある” Slagthuset”で開催されました。
イベント開催中は、いくつかのパネルに分かれた100以上のセッションが用意されており、北欧のトップを走るスタジオが中心となって、ゲーム業界の重要な課題や今後の展望について議論が交わされていました。
※マルメとは…スカンジナビアの産業都市として古くから栄えていた地域ですが、近年は脱工業化社会への適応に苦しんでいました。しかし、ここ数年の都市開発によって、バイオテック企業やIT企業、また多くのゲーム会社の誘致に成功し、その姿を変貌させています。
Nordic Gameのイベント規模
来場者数:2000人以上
登壇者:160人以上
商談:700以上
Nordic Game出展者のデバイス比率
PC/コンソールゲーム開発者:62%
モバイルゲーム開発者:25%
その他(PR企業、ソフトウェア開発会社など):13%
Nordic Gameは、様々なデバイスのゲーム開発会社が出展していますが、今年はPCゲームやSwitch、Steamなどのコンソールゲーム開発者の出展者が目立ちました。
モバイルゲーム開発者も全体の25%ほどを占めていましたが、Steamなどのモバイル以外の領域に優先度を高めて持っていると説明をする開発者が多くいました。
EU圏のポピュラーなゲームは?
市場調査会社のNewzooによると、EU圏のゲーム市場は年々成長を続けています。特に大きく伸びているのはモバイルゲームで、コンソール・PCはその後を追いかける形となっています。
モバイルゲーム、PCゲームの人気ランキングは上図の通りです。
FIFAのようなサッカーゲームが欧州では特に好調で、FIFA 18は2017年のチャートを上回っています。その他にもForza Motor sports/マリオカードのようなモータースポーツ(レーシングゲーム)やFPS/TPSカテゴリのゲームも非常によく遊ばれています。この傾向はアメリカとよくに似ています。
フォートナイトやモンスターハンターのようなオープンワールド系のタイトルも好調で、世界で最も大きなゲームイベントE3でも、このカテゴリは今後もトレンドが続くだろうと発表されています。
しかし上記のような傾向とは裏腹に、今回のNordic GameではPCゲームの出展がモバイルゲームのタイトル数を大幅に上回っていました。
その理由はモバイル疲れでした。
経験豊富な開発者の多くは、App StoreとGooglePlayでのユーザーへの露出を十分に機能させることが難しかったと指摘しています。彼らからすれば、PC用に開発してSteamに公開する方がずっと簡単だったようです。
欧州ゲームディベロッパーはどこを次なる金脈と見ているのか
トークセッションのプラグラムの様子(アジアマーケットも1つのトピックとして取り上げられている)
セッションでは、多くのディベロッパーを含む参加者がEU市場を非常に重要視していることが伺えました。
ロシア、ドイツ、スペイン、スウェーデン(特に北欧諸国)を中心に、ゲーム市場は依然として成長しています。
その一方、イギリスは国民投票の結果EUからの脱退が決まり、将来自由貿易が廃止となることから、今後注力エリアからは外されていくだろうという見方が強いことも印象的でした。モバイルゲームも同様に成長を続けているものの、King、Supercell、Machine Zoneといった大企業の持つロングタイトルや、彼らのリリースするカジュアルゲームが5年前からチャートを占め続けている現状もあります。
その流れを受けて、インディーゲームディベロッパーたちはコンソールへの回帰を見せ始めています。
任天堂が発表するSwitchの売れ行きが好調な事、そして誰もが利用可能なプラットフォームの公開によって数年前よりもユーザーとの接触を容易にさせたことが大きな要因となっています。
それはSwitchにとどまらず、XboxやPS4についても同様です。
PCもコンソールと同様に、Steamプラットフォームのおかげで非常に人気があり、Eストアへのアクセスを容易にさせています。 ブラウザゲームは、Imperium、Vikings、World of Tanks、Warships of World、WarframeのようなF2P(Free to Play)ゲームにとって特に有利です。
VR領域においては、ゲーム開発は積極的には取り入れられておらず、芸術作品や映像作品のタイトルに偏っていた印象を受けます。モバイルのVRについて皆関心を寄せているものの、技術的な制約が強いことも理由としてあげられます。
EU圏が捉える戦うデバイス領域と開発サイクルとは?
「モバイルゲームの業界は疲弊している」という感覚は、私がNordic Game 2018で話した多くのディベロッパーが持っていました。彼らは同様のタイトルをプレミアムモデルかPC領域で展開しようと試みようとしているようです。
そのような方向転換を強いられた大きな理由は、モバイル領域においてユーザーへ情報を発信する機会が少なく、満足する集客が見込まれなかったことにあります。
モバイルでは、例えばイベントやバージョンアップなど継続的なコンテンツの制作を続けることが求められますが、中小のスタジオには大きな負担となっているようです。
EU圏のディベロッパーたちはGIG※のような「インキュベーター」と呼ばれる組織を非常にありがたがっています。「インキュベーター」はワークスペースの提供や開発機器の提供、開発におけるアドバイス、さらには彼ら以外の企業から客観的なフィードバックを提供するなど、開発全般のサポートをしているからです。
※Global Innovation Gathering (https://www.globalinnovationgathering.org/)
政府が提供するこのプログラムは、国内外のビジネスにおいて、教育機関および開発者の両方を巧妙な投資サイクルで結びつけています。
EU圏のゲームディベロッパーは日本市場をどのようにとらえているか
EU圏のゲームディベロッパーはアジアを注力すべきエリアと考えており、日本もその中の1つでした。しかし、実現に至るケースは稀だと言います。
その要因は、圧倒的な情報不足と多大なコストにあります。
アプリの改修で重視しなければならないポイントや集客の方法における情報が少ないため、具体的な対策を講じることが難しいこと、改修や集客を行う際に発生する多大なコストが彼らの日本進出にブレーキを掛けています。
実際に、今回のNordic Gameに出展していたRPGゲームを例にあげると、日本の一般的なRPGとは異なり、ノベライズ形式で自らの選択が冒険を左右するタイプが中心となっていました。このようにユーザーが好むアプリの傾向にも違いが表れており、その差を埋めるための情報源を熱望していました。
彼らから見たアウトバウンドの取組に対してインバウンドの捉え方を見てみると、「日本のゲームアプリはもっとEU圏に進出したほうが良い」と口を揃えていたことが強く印象に残っています。日本デベロッパーの開発するアプリの質の高さは彼らにも認識されていて、EU圏でも存在感を示せるはずだ、というのが彼らの考えです。
またその他のアジア地域で言えば、中国とインドも同様に注目されており、すべてのデベロッパーが中国に対して大きな関心を寄せていました。日本に対する課題は、非常に感覚的で目に見えにくい部分もあるなかで、中国・インドは取り掛かりやすい明確な課題があるようです。
ただ、その課題解決は容易なものではありません。
EU圏からみた中国市場の課題とは
前提として中国でアプリゲームを展開するには、その前にその他のアジア市場で成功していなければならないという考えが欧州にはあります。
そして、中国市場への展開には以下の問題をクリアしなければならないと彼らは捉えています。
- 現地法人とのパートナーシップが必要:そうでなければ実現自体が難しいのが実情です。しかもパートナーシップによって50%~70%のレベニューシェアの配分が求められます。
- 制約の多さ:中国政府は彼らの文化・歴史に対する表現において政府や法律の両面から多くの制約を敷いており、現地パートナーによる情報共有がなければその制約をクリアすることが非常に困難な状況です。
- 複雑なストア事情:AndroidにおいてはGoogle Playが締め出しを受けていることで、実に200を超えるアプリストアが存在しており、成功を収めるためにはその中から20以上のストアに対して展開することが推奨されています(これも現地パートナーのサポートが必須)。
- 言語以外のローカライズとカルチャライズ:UI、グラフィック、ゲームの仕組み、マネタイズの仕組みなどがそれに該当します。ユーザーのゲームに対する姿勢がEU圏のユーザーと大きく異なっているため、大きく見直していく必要があります。
- ビジネス展開およびパートナーシップの締結には現地法人が必要である:法人化には長い年月を要します(2年近く要することも)。
彼が捉えている問題の多くは、日本から中国に展開する際に注意しなければいけない点と大きな違いはありません。重要なのは政治的・法的な部分の解決です。
しかし、欧州のデベロッパーの場合は言語化以外のローカライズ、カルチャライズにおいて苦戦を強いられているようです。日本の文化が中国にも浸透している背景を含めると、日本発のアプリのほうが中国展開に関しては優位に働きそうです。また日本のデベロッパーの場合はiOSを中心に開発される傾向にありますので、その側面から見ても中国への展開を後押しするでしょう。
多くの課題がある中国ゲーム市場ですが、Steamプラットフォームに注目が集まっているなどの良い点もあります。Steamプラットフォームに関しては、中国のファイアウォールの制限を現時点では受けていません。
EU圏からみたインド市場とは
インドは2番目に多く話題に上がった市場でした。
しかし、インドもまた、取り組むべき課題を多く抱えています。
- インフラ整備の遅れ:4G回線が整備され始めているものの、まだインフラが十分に整っていない。4Gであっても3Gに同等なケースが依然として多いためです。
- スマートフォンが十分に行きわたっていない:インドで最も人気のある端末は日本でのガラパゴス携帯のような4Gに対応したフィーチャーフォンで、スマートフォンではありません。実に人口の35%ものユーザーがそれを利用しています。当然モバイルゲームには対応していません。
- ビジネスへの貢献度が低い:インドには階級制度が根強く残っており、その中には非常に小さな中産階級が存在しています。ただその中産階級でさえも、ビジネスを展開するうえで十分なユーザーとはいえず、アプリ内課金や広告収益のeCPMに対しての貢献は期待できません。
- アクティブユーザーが少ない:巨大な人口にもかかわらず、実際のインドの携帯電話の市場規模は約3,000万です。期待される活動的な消費者に至っては、おそらく300万〜400万人程度となるでしょう。
- 利用態度の違い:ユーザーのスマートフォンに対する利用シーンが大きく異なります。例えば電車などの交通機関を利用している最中は人口密度が高いこと、またそれによって回線が混雑し通信速度が非常に遅くなることから、ユーザーは基本的にスマートフォンを触りません。トイレの数が少ないこと、洋式のものが非常に少ないことからトイレでの利用に関しても期待できません。基本的には彼らは家の中でしかスマートフォンを触る時間を確保していません。
- ゲームデザイナーの不足:インドには非常に優秀な技術者が多く存在していますが、大半がサービス指向であり、デザイン指向ではありません。現地でのゲームデザインに対する知見が非常に不足しています。
- 自国内の展開が活発でない:インドのゲームディベロッパーの大半が国外への展開を行っています。
- ローカライズの難しさ:ローカライズはインド現地のディベロッパーでさえも非常に難しいと言われています。なぜなら、インドでは20を超える言語が存在しているためです。
アジア圏に対して欧州のゲームデベロッパーが捉えている課題点、またそれに対する熱量からも、ゲーム開発・ビジネス交流の需要が高まってきていることが伺えます。なぜならこのような国での展開は、文化・人口などの要素も決定的な要因になりえるためです。
しかし中国やインドに対しては問題点が明らかになっているものの、日本においては情報不足と言っていたように、日本市場に関しては明確な問題点などはあがっていなかったことも興味深い点です。
Nordic Game 2018の受賞作品・出展作品など
最後に、Nordic Game 2018で発表された優秀作品や筆者が気になったゲームについていくつかピックアップしたいと思います。
Passportout
Nordic Gamesアワード2018の優勝者はFlamebaitのPassportoutでした。
その他にも興味深いタイトルが多数ありましたので、ご紹介いたします
Puzzle third person(PC)
3D platform(PC)
Point and Click(PC)
FPV action escape(PC)
puzzle platformer(Mobile)
上記以外にも、以下のようなトップダウンアクションシューティング(俯瞰的な視点でキャラクターを操作するシューティングゲーム)がこのイベントには非常に多く出展されていました。
Nex Machina
Nordic Game 2018の総括
いかがでしたでしょうか。viidleではモバイルアプリのマネタイズプラットフォームの支援をしていますが、今回のNordic game 2018では、モバイルにとどまらず幅広いデバイスの可能性について聞く事が出来ました。特にアジア圏に対するとらえ方などは新しい見方が出来たのではないかと思います。昨今GDPRへの対応など大きく状況が変わりつつあるゲーム業界ですが、viidleはグローバルへ展開したいと考えている開発者様のお力になれるよう、サポートもしております。
EU圏、中国・インドを次なる一手としてご検討されてみてはいかがでしょうか。
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