ゲームの品質へのこだわり、日本ならではのプロ意識と時代の変遷について考える

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 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

粗製濫造を良しとしない、日本の価値観はゲームにも大きな影響を与えています。
ファミコン、スーパーファミコンなどのテレビゲーム黎明期から、PS3、PS4などの表現力の拡張機においても、随所にその価値観が表れており、この時代にここまで!というタイトルは、今見返してみると本当に多くあります。

ゲームの品質へのこだわり、日本ならではのプロ意識と時代の変遷について考える

私は海外でもゲームの開発を行っていますが、日本人のものづくりへのこだわりとの差を感じることがよくあります。
これは日本人の方が優れているということではなく、単に気質とか性格とか民族性の差というだけですが、こと、何かを作るということに関して、その丁寧さと質へのこだわりは世界一ではないかと思います。

私は海外の開発チームを教育するときに、日本の昔のゲーム作りのYouTube動画を見せることがありますが、それを見せたあと

They made Japan great.

と言われたことがあります。日本のプロ意識の高さは、海外でも人の心を打つのです。

ゲームの品質へのこだわり、日本ならではのプロ意識と時代の変遷について考える

それは今でも脈々と受け継がれていて、例えばインディーゲームの品質でいうとやはり日本のものは質が高いなぁと思うことが多くあります。

しかし、我々の言う質と、ゲームの価値、そして経済的な成功とは必ずしもイコールではありません。
インターネットがなく、まだ世界の動きが今より緩やかであった時代は、丁寧に時間をかけ、満を持して世にリリースすることが大きな力を持っていました。
しかしインターネットの普及により、情報の格差が縮小し、世界がより速く動き出してからは、じっくり丁寧という日本の姿勢が、ゲームの世界においても必ずしも有利ではないと感じることがあります。

今やゲームの開発とリリースにおいてはスピードは昔よりもはるかに重要であり、スピードのなさ故に、品質は良いものの日の目を見ない日本のタイトルが非常に多くなっていると感じます。
これは難しい命題で、スピードのみを重視した商業性に特化したゲームは、それ以外の多様なゲームがあって初めて成り立ちます。すなわち、品質や開発スタイル、開発やリリースのスピードにおいて、さまざまなグラデーションが許容されているからこそ、ゲームという文化はジャンルとしての成長を継続しているという側面があります。

ゲームの品質へのこだわり、日本ならではのプロ意識と時代の変遷について考える

しかし、そこを考慮しても日本のものづくりは、現代的なスピード感に少し遅れをとっているのではないかと思います。
ここは今後改善して行きたいところですが、しかしゲームの領域に関しては最近少し風向きが変わってきました。

今までスマートフォン市場一辺倒だった日本のゲーム市場に、Steamという新たなパソコンゲーム市場が育ってきました。
Steamではスマートフォンと異なり、商業的に計算されたゲームの仕組みよりも、特徴のあるスタイルや、しっかりと作り込まれたストーリーが好まれやすいという特性があります。
もちろんスマートフォンにもそのような作り込まれたゲームが存在し愛されていますが、Steamはパソコンでゲームをする前提であることから、大きな画面に耐えられる設計であったり、じっくり遊べる内容の深さが必然的に求められ、そのため、特にインディーゲームクリエイターにとっては、表現の場として適したものになりました。

ゲームの品質へのこだわり、日本ならではのプロ意識と時代の変遷について考える

この新しい流れは、スマートフォン的な、計算された商業性から、表現の場としてのゲームに時代を引き戻す力を生みました。必ずしも素早く開発することが全てではない、という雰囲気が確かに最近は強くなってきていると感じます。

筆者はインディーゲーム開発者に対しては、開発はなるべく短期に終えた方がよいと日々説いていますが、そしてそれは心からの本音ですが、しかし、開発者のスタイルや規格によっては時間をじっくりかけるべきものもあり、それがあり得るという風潮ができてきました。

この流れは、ものづくりにおいて品質を重視する日本にとってとても良いことです。ゲームファンにとっても素晴らしいことです。

今後もこの流れに乗って、素晴らしいタイトルの出現に期待したいですね。ただ少し時間がかかると思うのですが。

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著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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