第6回シリアスゲームジャムの最優秀賞はトイレを探すシリアスゲーム「WhereIsTheRestroom」
著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
シリアスゲームという言葉をご存知でしょうか。
日本でゲームといえばエンターテインメントとして楽しむためのゲームを指しますが、シリアスゲームとはエンターテインメントのみを目的とせず、教育や社会問題の解決を目的としたゲームを指し、世界的には一定の市場規模を持ちます。
日本ではまだまだ認知度の低い「シリアスゲーム」。しかし教育、ゲームともに産業としても成熟しており、かつ社会的関心も高い日本においては、今後シリアスゲームが市場として成立する可能性は大いにあるように思われます。
そのような状況にある日本のシリアスゲームですが、2017年12月16日~12月17日の2日間にわたって、東京都千代田区にて「第6回シリアスゲームジャム」が開催されました。
「第6回シリアスゲーム」は日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan)が主催、会場は(株)ジェイ・クリエイションが提供、実行委員は日本大学生産工学部と、産学連携体制にて開催され、更にシリアスゲーム先進国のオランダ在日大使館が後援するなど、広範囲から参加者と支援者が集まって開催され、その意味でも大変興味深いイベントとなりました。
2日間にわたるゲームジャムでの開発を経て、4つのシリアスゲームが開発されました。
この記事ではその4タイトルについてご紹介します。
最優秀賞 :トイレはどこだ!?「WhereIsTheRestroom」
まず最初にご紹介するのは、第6回シリアスゲームジャムの最優秀賞に輝いたチーム「Pee MAX」のトイレ探しゲーム、「WhereIsTheRestroom」。
「WhereIsTheRestroom」はトイレの位置を親が子供に英語やジェスチャーで説明し、その情報をもとに子供がゲーム画面内のカーソルを入力、キャラクターが無事にトイレにたどり着けばステージクリアになるというゲーム。
「海外へ行ったときにまず困るのは、トイレがどこにあるのかという問題」という発想が、「WhereIsTheRestroom」のコンセプトになりました。
確かに筆者も海外に行った際は街中のトイレ事情には大変気をつかいます。あまりトイレがない国、あっても有料の国、清潔な国、そうではない国など、世界のトイレは様々。「海外のトイレ問題」は非常に切実で、「WhereIsTheRestroom」は実用性の高いシリアスゲームといえます。
実用性と共に、子供がネタとして好む「トイレ」というワードの選定も秀逸。この発想と設計の優秀さが受賞の要因となりました。
「WhereIsTheRestroom」は同時に優秀賞の「Excellent Researcher Award」も受賞。シリアスゲームとしての英語学習効果も評価されました。
Pee MAXには最優秀賞の副賞として、メンバー全員にそれぞれ12,000円分の開発支援金が授与されました。
優秀賞:バーチャル空間で英単語を完成させるVRゲーム「発掘でディギン」
優秀賞「Excellent Design Award」を受賞したのはチーム「ディギン」の「発掘でディギン」。
「発掘でディギン」は4タイトルの中の唯一のVRゲームで、その開発負荷が心配されましたが、見事に2日間でプロトタイプを完成させました。
チームディギンは、VRゲームの「ディスプレイモニターとVRゴーグルの2つの視点がある」という特長に注目、
親がディスプレイモニターから支持を出し、
子供がVR内で探索していく
というゲームを考案、このシリアスゲームジャムの1つのテーマであった「コミュニケーションの創出」を鋭い切り口でクリアしました。
ゲームとしては、洞窟内に散らばるアルファベットを親子が協力して探し、単語を完成させていくというもの。ゲーム性の深さに若干の課題が残りましたが、VRへの挑戦が評価され今回の受賞となりました。
特別賞:英語で指示されたアイテムを探す脱出ゲーム「DISCOVERY」
特別賞の「Release and Support Award」を受賞したのはチーム「D-Project」の「DISCOVERY」。
「DISCOVERY」は、学校の教室を舞台とした脱出ゲーム。プレイヤーは黒板に英単語で示されたアイテムを教室内で探して脱出を目指します。
時間が足りずに想定したところまで開発が進まなかったとのことですが、教育性の高い脱出ゲームに着目した点などが評価されての特別賞受賞となりました。
特別賞を受賞したチームD-Projectには、マツソフト社によるゲームリリースのサポートが提供され、シリアスゲームジャム後もリリースを目指して活動していくことになります。
脱出ゲームはSQOOL.NETでも人気のジャンルの一つ。是非期待したいところです。
夢の世界で魔王となった英語のテストを倒すRPG「English Quest」
残念ながら受賞を逃したものの、王道のRPGでゲームジャムに挑んだチームEnglish Quest。
ゲームタイトルもそのまま「English Quest」で、英語テストを控えた少年が夢の世界で勇者となり、魔物になった英単語たちと戦うストーリーのRPG。
ラスボスの魔王は今までの問題の総復習を出題して来るという設定で、冒険の総括であるラスボスバトルをうまく英語学習と組み合わせていました。
勇者なのに英語のテストに挑むストーリーや、総復習問題を出してくる魔王という設定など、コンセプトや世界観はとても秀逸でしたが、王道のRPGであるがゆえに魅力をPRするためにはプロトタイプの品質が重要となってしまい、2日間でのゲームジャムには若干不向だったかもしれません。
筆者としては英語テストの総復習を課して来る魔王は是非見てみたいところですので、何らかの形でゲームが完成すればいいなと思います。
シリアスゲームへの取り組みは始まったばかり
2日間大いに盛り上がったシリアスゲームジャムですが、日本でのシリアスゲームへの取り組みはまだまだ黎明期といえます。
日本人が苦手とする英語学習はシリアスゲームの良いテーマの1つですが、それ以外にも例えば超高齢化社会を見据えての世代間のコミュニケーションへの応用や、自然エネルギーへの理解の促進、起業精神の育成などにもシリアスゲームは応用が可能だと筆者は考えます。
シリアスゲームは今後日本でどのように発展していくのか、その今後に期待したいところです。