ゲームライターになるには?昔のことをよく知っている方が良い?
著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
かつてほどではないにせよ、ゲームライターになりたい、という方はまだ一定数いらっしゃるようで、たまに「ゲームライターになりたいのですが」と言われます。
私にそのように言ってくる方の多くは若い方で、要するに、ゲームライターという何かふわっとした職業に憧憬があるけれども、具体的にその仕事がなんなのか、どんなスキルが必要なのか、どうすればなれるのかがよくわからないといったところでしょう。
ゲームライターはフリーランスみたいなものなので、なり方というのは具体的には存在していなくて、自分はゲームライターであると名乗ればその日からゲームライターなのですが、そういうことではなくて、どうすればそれを生業として食べていけるのですか、というのが問いかけの真意だと思いますので、この記事ではその辺りについて少しだけ考えていることを書いてみたいと思います。
ゲームライターになりたいのですが、と言われた時にほぼ必ずセットになるのが、ゲーム業界の知識が必要ですよね、ということですが、さてこれについては私はあまり賛同していません。
ゲーム業界について色々な知識を持っていることは物を書く上で確かに有利に働くかもしれません。プロとして物を書くには、その対象に対する広く深い知識が必要です。
しかしその業界の歴史を知らなければダメだということはないのではないかと考えています。
というのも、例えば私はあまり昔のことに詳しくありませんし、それを掘り下げようとする情熱もそこまでありません。
レトロゲームは好きで、今でもファミコンやスーパーファミコンはプレイするので一般の方よりは詳しいと思いますが、誇れるほどに詳しいかというと全くそうではありません。YouTubeやネット上のブログを見ると、私より詳しい人は山ほどいます。
また私はゲームのプロデューサーやプランナーの名前にはあまり興味がありません。誰が作ったか、その人が、どのスタジオ出身か、過去作にどのようなものがあるかなどは私にとってはどうでもよくて、失礼かもしれませんが、そのゲームがどんなふうに面白いかの方が一大事なのです。
ただ全てにおいてこの調子であれば当然書けることなどなくなってしまうわけで、何かの領域で深く書ける必要はあります。逆にいうと、何かの領域で深く書けるのであればそれで成り立ち得るのであって、例えば業界の歴史について詳しくなくてもゲーム業界のこれからについて魅力的に論じる力が圧倒的であれば、ゲームライターとして成り立ち得るでしょう。
ここで大事なのは、成り立ち得るという点で、それでも必ずゲームライターになれるわけではないということです。
ゲームライターを職業としてやっていくのは本当に大変です。私の知る限り、ゲームライターだけで収入を全て賄っている人は日本に数人しかいないのではないかと思います。多くのゲームライターは副業を持っており、というよりはむしろゲームライターが副業であり、本業をこなしながらゲームライターをやっているというケースが多いのではないでしょうか。ゲームライターを本業としてやっていくのは並大抵のことではありません。
ゲームライターに限らず、何かを書くことで食っていくには、何かの領域に詳しいのはもちろん、その上で文章力であったり、目線の斬新さであったり、人を惹きつける思考の展開力であったり、どこかの点でプロとしての魅力が必要になります。
詳しい、というそれだけでは十分ではありません。
ですので、「ゲームライターになりたいが、ゲーム業界の昔のことを勉強した方が良いのか」という問いに対しては、
しても良いがしなくても良い。私ならしない。興味のあるところをより掘り下げて誰にも負けない知識と情熱を持って、そしてそれを文章として書き表せる力を持った方が良い。それに達する戦略の一つとして業界の過去を学ぶ方が良いと思えば学べば良いのではないか。
という感じで答えています。
具体策を聞いたら、心を鍛えよ、みたいに言われた、と感じるかもしれませんが、実際のところここが大事で、ゲームライターという響きは若者にとって何か甘美なものがあるのか、どうも本質を置き去りにしてその肩書き、というか響きに酔ってしまうところがあるように感じます。
起業家とかもそいう感じがある気がしますが、何かそういう力を持った肩書きの集団があるのでしょうか。
ライター志望の方に、最近何か文章を書きましたか、と聞くと、何も書いていない方がほとんどです。
毎日ツイートしています、というような方も結構います。冗談のような話ですが本当です。
最近本は読みましたか、と聞くと、これも何も読んでいない方がほとんどです。毎日Yahooニュースを読んでいます、という方は多いです。Yahooニュースは私も読みますし悪くない媒体ですが、ライターになるのに十分かと言われると、よほど才能のある方を除いて、量的に足りないと思います。
どのような知識を得ると有利かというよりも、物を書くことに、ゲームライターであればゲームというテーマで誰かに何かを伝えることに情熱を燃やせるかどうかの方が大事で、その目標を達成せんがための手段として必然的に知識を身につけるのではないかと思います。物書きになりたい人が毎日モノを読み物を書いているのは当たり前です。が、なぜかそこがまずない。
ゲームという業界は歴史が浅く、技術の発展に伴って在り方が大きく変わります。更に、最近では表現力が向上するにつれ思想を込めることができるようになったことから、その思想が社会的に適しているか否かという対象にもなってきました。
ゲームという未熟な土壌は、ただ面白いものとして論じるだけでは危うく、時として確かに非人道的な表現も取り得ることから、正しい洞察で論陣を張れるメディアの責任は軽くありません。
とまあここまで書くのはちょっと大袈裟かという気もしますが、ゲームライターになるにあたって、これを知っていれば、これを知らないと、という絶対の分野はないと思いますので、興味のあるところから掘り下げて色々な文章を読んで書いてみると良いのではないでしょうか。
どんな方でも最初は下手から始まります。文字の媒体は動画の媒体に押され気味でシェアを奪われつつありますが、文字の媒体がなくなることはありませんし、長い期間をかけて論調を持つという点では文字の媒体の方が有利です。
これからも若く新しい才能を持ったゲームライターが日本から多く出てくることを期待しています。