「ゲームパブリッシャーって何やってるの?」勉強会レポート、 日本の賈船と中国のJoyPac2社が懇切丁寧に解説!

 取材 
 海外展開 
  公開日時 

 著者:岡安 学 

Unity(ユニティ)やUnreal engine(アンリアルエンジン)など、ゲームの開発環境が整っている昨今、小規模なデベロッパーでもゲームの開発が以前よりも容易にできるようになりました。

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しかしながら、完成したゲームを販売するノウハウはゲームの開発とは別のところにあり、販売で苦労しているデベロッパーも多く見受けられます。そこでデベロッパーの変わりにゲームを売る、しかも海外や、或いは様々なプラットフォームで売ることができるパブリッシャーの存在が、これまで以上に必要となってきています。

せっかく作ったゲームを売り方が分からないために埋もれさせるのはもったいないことで、パブリッシャーの力を借りてゲームをリリースするというのが現実的な手段としてあるわけです。ただそのパブリッシャーの存在や役割を、ゲームデベロッパーもあまり分かっていなかったりします。

そこで今回はゲーム開発を生業とする人たちに向けて、パブリッシャーとはなんぞやというテーマで勉強会を開催しました。

弊サイト加藤より概要を説明

まず冒頭の挨拶として、このイベントを企画した弊サイトSQOOL.NET代表である加藤より、ざっとパブリッシャーとは何かについての説明がありました。

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デベロッパーはゲームを開発することに関しては長けた人材が揃っていますが、それを売るということに関してはそこまでうまく立ち回れていない、というケースが多く見られます。特に海外でゲームをリリースしようという場合、その国で発売するためのルールや法律がわからないため諦めてしまうことも少なくありません。

そこで登場するのがゲームパブリッシャーです。

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ゲームデベロッパーはパブリッシャーと組むことで、ゲームの販売に関するあらゆることをアウトソーシングすることができます。当然販仕事をしてもらうわけですから、コストはかかります。

デベロッパーとパブリッシャーの収益配分は50:50が基本となっています。
※モバイルアプリゲームなどのオンライン販売ゲームの場合

一見半分も持って行かれるのか、とも思いますが、もともと海外での販売ルートがなく、そこでの販売を諦めていたことを考えると、例え1本でも売れれば単純売上げが加算されるわけです。ゲーム自体は完成しているので、ゲームデベロッパーにはリスクがほとんどありません。

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パブリッシャーはゲームを販売するだけでなく、海外で販売する為に必要なことをほぼ全て請け負ってくれます。

ではゲームパブリッシャーは何をやってくれるのでしょうか。

まず、ローカライズです。
いわゆる販売する国に合わせた仕様への改造です。
言語であったり、文化であったり、日本でしか通用しないものを海外でも受け入れられるようにしてくれます。

次にストアへの展開と管理です。どのプラットフォームでリリースするかもよりますが、ダウンロード販売でもパッケージ販売でも商品やストアの管理をしてくれます。

更にPRや広告出稿もパブリッシャーの領域です。初期の広告費などの初期経費をパブリッシャーが負担しますので、金銭的な負担はパブリッシャーが負うことになります。そう考えると、50:50の収益分配はデベロッパーから見たときにむしろ安いと感じるのではないでしょうか。
このPRや広告出稿は、パブリッシャーの資本で行いますから、中小のデベロッパーにとっては自身ではできない大きなビジネス展開ができる可能性もあります。

その他、イベントの開催やユーザー対応などもパブリッシャーが行いますので、デベロッパーはゲームを開発した後の管理はほぼ任せることができ、デベロッパーは次のタイトルの開発のみに注力できるわけです。

つまりデベロッパーがパブリッシャーと組むことにより、

・低負荷で展開可能
・金銭的リスクが低い
・自分たちよりも大きな資本による大きなビジネスが展開できる
・収益の拡大がみこめる

という利点が発生します。

デメリットといえば、デベロッパーが自ら販売まで手がけることができれば、その分のコストが浮くということでしょう。しかしそこにはローカライズコストや販促費が発生するため、販売に失敗した際にはそれが回収できないという金銭的なリスクが発生します。その意味でもパブリッシャーと組む意味はあるといえるでしょう。

では、パブリッシャーであればどんなところとでも組めば良いのかというと、やはりパブリッシャーにも優劣がありますから、できるだけ良いパブリッシャーと組みたいところです。
パブリッシャーと組む際に注意すべきことは、

・契約書をよく確認する
・著作権周りの管理を明確にする
・業務の分担を明確にする
・支払いサイクルを確認する

などですが、その上でデベロッパーにとって厳しい条件であれば、手を組まないという判断も必要となります。

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条件が叶わない場合は、契約を即座に破棄するのではなく、納得いかなければ交渉しつづけることが重要です。日本のゲームデベロッパーの中には条件面の要求を強く行うには苦手という方も多いと思いますが、交渉は失礼なことではなくビジネス上当然の行為なのでしっかりと行うべきでしょう。パブリッシャーとしてもデベロッパーが何を望んでいるかを知ることに繋がります。

その他には、パブリッシャーが過去に扱ったタイトルを確認することで、そのパブリッシャーが得意なゲーム分野を知ることができます。単純に条件だけでパブリッシャーを決めてしまうと、毎回パブリッシャーを変えることとなります。そうではなくて、自身のタイトルや方針に合ったパブリッシャーを選ぶことが肝要です。
できるだけ長い付き合いになった方が、ビジネスとしてやりやすくなってきます。

デベロッパーが気づきにくい指摘をしてくれる

続いて登壇したのは、日本のパブリッシャー、 賈船(こせん)代表取締役社長の西貝翼氏。

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これまでパブリッシャーとして世に出したタイトルは、「パンティパーティー」「僕の彼女は人魚姫」など、Switchなどのコンソールゲームが中心。「パンティパーティー」は販売だけでなく開発も行っており、どちらかというとIPの許諾を得て開発している感じです。

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賈船はゲームの自主制作、共同製作、パブリッシングのみの3つの業態で展開しており、その中でもメインとなるのがパブリッシング事業です。

西貝氏の講演は「そもそもパブリッシャーが必要か?」という問いかけから始まりました。
ゲームパブリッシャーを出版業として捉えたとき、パブリッシャーは出版社となり、デベロッパーは作家となるわけです。そこで、電子書籍時代の今、出版社が必要であるかと考えてみます。

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出版社は、編集、校閲、製作・製造、営業・出荷、宣伝・広報、読者対応が主な仕事となります。電子書籍の場合は、紙の本がないので製作・製造、営業・出荷を省くことは可能です。さらに校閲にあたる部分は電子なので、誤植があれば後から簡単に直すことができます。問題があれば、都度対応できるので読者対応もそこまで必要でなくなります。

広報・宣伝はSNSやブログなど、宣伝する手段はあるので、これも必要ないかもしれません。編集に関してもセルフプロデュースできれば問題ありません。

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そう考えるとパブリッシャーは不要なのではないかと言うのが西貝氏からの問いかけになります。

ただ面倒であったり、人員的な問題でにパブリッシャー業務ができない人もいます。できない場合は外注するかパブリッシャーに任せるしかないわけです。

パブリッシャーに任せるとリスクは減りますが、大ヒットすると利益が減ってしまいます。 ただヒットした前提での利益だけ考えるとそういうことになりますが、利害を共有する仲間を増やすのが大きな利点といえるわけです。専門的な知識を持つ仲間がいることはビジネスを展開する上で心強いでしょう。

また、デベロッパーが気づかない点も指摘するのがパブリッシャーです。

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賈船が担当した「パンティパーティー」の場合は、元のゲームに対して、対戦モードの追加、声優の起用、主題歌の採用、キービジュアルの作成など、デベロッパーが行わなかった要素をプロデュースしています。

売り切りタイトルの場合、販売に特殊なスキルはあまり必要ないですが、スマホのアプリの場合はさまざまなマネタイズ方法が存在し、きちんとマネタイズをして収益を出すには相応のスキルと知識が必要です。そのあたりのノウハウを持っているのもパブリッシャーであり、このあたりを任せることができるのもパブリッシャーを頼るメリットの1つでしょう。

さらに、パブリッシャーのブランディングのベースを利用できるのもメリットです。デベロッパーのは大企業でない限り、通常は年に何タイトルもリリースするのは難しいでしょう。数年に1タイトルしかリリースできない場合もあります。そうなると販売戦略はどうしても単体売りにしかなりません。

しかしパブリッシャーは年間に扱うタイトル数が多く、過去に関わったタイトルも多いので、同じターゲット同士のゲームを組み合わせて販売するセット戦略やコンテンツの交流などで、タイトル間でPRし合うこともできます。

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パッケージ版の場合は販売に関する仕事の負担も大きく、更に、在庫リスクや製造費のキャッシュフローなど、デジタルにない負担やリスクが多くあります。デベロッパーの規模によっては耐えがたいリスクを背負うことになります。適したパブリッシャーと組むことでこのリスクをかなりの程度低減させることができます。

特殊な中国市場に対応してくれる

次に中国パブリッシャー「JoyPac」の日本担当、リュウ氏が登壇です。

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JoyPacは、日本を中心とした世界の26本のモバイルタイトルを中国に展開しています。

「ゲームパブリッシャーって何やってるの?」勉強会レポート、 日本の賈船と中国のJoyPac2社が懇切丁寧に解説!中国のゲーム市場は非常に大きく、日本のゲームデベロッパーにとって大変魅力的です。しかし、中国でゲームをリリースするにはいくつか知っておくべきポイントがあります。

まず把握しておくべき点としては、中国では政府が発行するラインセンスを取得しないとゲームビジネスを行うことできないという点です。JoyPacは扱っている全てのタイトルにおいて、中国での必要なライセンスを取得しています。日本のデベロッパーが同様にライセンスを取得するのは非常に難しく、ものによっては日本企業では取得できないライセンスもあります。中国でゲームビジネスを行うには、JoyPacの様な中国パブリッシャーと組むのが必須なのです。

「ゲームパブリッシャーって何やってるの?」勉強会レポート、 日本の賈船と中国のJoyPac2社が懇切丁寧に解説!

このように中国には特殊なルールや法律がある為、他の国よりもパブリッシャーの存在が大きいと言えます。例えば「PUBG」は「版号(はんごう)」と呼ばれる課金機能実装のためのライセンスが取得できず、約1年間無料で運営されているそうです。

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更に中国のAndroid市場にはGooglePlayストアがなく独自のアプリストアが乱立している状況です。モバイルアプリゲームをリリースする際にはこのアプリストアそれぞれへのアプローチが必要で、ストアごとに専用のSDKを組むなどの対応が必要になります。この対応はこの辺りの事情に詳しい中国パブリッシャーでなければ難しいでしょう。

中国ゲーム市場においてはパブリッシャーは使った方が便利というレベルではなく、必須です。中国パブリッシャーの、技術サポート、運営サポート、法律サポートがあり、初めて中国でゲームがリリースできると言えます。

「ゲームパブリッシャーって何やってるの?」勉強会レポート、 日本の賈船と中国のJoyPac2社が懇切丁寧に解説!

上記のようないくつかの違いはありますが、パブリッシャーの役割は他の地域と同じです。
翻訳やローカライズ、各プラットフォームへのアプローチ、PR、マーケティング、そしてリリース後のサポート対応などはパブリッシャーであるJoyPacが行います。

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ちなみに、JoyPacが手がけるタイトルの中では、日本っぽいデザインのカジュアルゲームが成功を収めており、リリースから数ヶ月たった今もTikTokで継続的に動画が再生され、その再生回数は累計約2000万回にもなるそうです。
中国にはTikTok、WeChat、QQ、weiboなどの独自のSNSがあり、それらを用いたPRもJoyPacが担当します。

中国ならではのマーケティング戦略をパブリッシャーに一任できるのは、日本のゲームデベロッパーにとって大きなメリットになるでしょう。

質疑応答

最後に質疑応答があり、パブリッシャーについての疑問点に答えていただきました。

パブリッシャーは、どうやってデベロッパーやパブリッシングすべきタイトルを見つけてくるのか?という質問です。

これについて賈船は、最近は開発段階でパブリッシャーと組むことが多いとのことです。テストプロモーション段階でタイトルの判断をします。つまり、開発段階でいかにパブリッシャーの目につくような動きをしているかが重要というわけです。実際にどうすればよいのかは明確に正解があるわけではありませんが、現時点でパブリッシャーとのコネクションが無ければ、パブリッシャーが訪れるTokyo SandboxやBitSummitなどのゲームイベントに参加するのが手っ取り早いかも知れません。実際パブリッシャーとしては、デベロッパーと直接会って判断することが多いそうです。

もちろん狙ったゲームの1本釣りもあります。ゲームの1本釣りの場合は、他のパブリッシャーが狙わないようなものを選び、やらないような展開を考えるそうです。例えば、「パンティパーティー」をNintendo Switchでリリースするというのは賈船以外ではあまり考えられなかっただろうと言います。

この講演を聞いて感じたのは、パブリッシャーは出版社でもありますが、商社的でもあると言うことです。海外で直接売買ができないものを買い付けてきて、現地で販売します。ただそれだけだと並行輸入業者になってしまいますが、ラベルや但し書きを販売する国の言葉に変え、何か不具合が生じたら商品の交換や返品に応じ、現地との折衝をするわけです。いわゆる物を売っているのではなく、サービスを売っているわけです。ただの仲介業者とは違うのはそこなのではないでしょうか。

著者:岡安学(オカヤスマナブ)
デジタルライター/Allaboutデジカメガイド
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)。
Twtter:@digiyas