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糖鎖の枝分かれ酵素MGAT3の生物種間の違いを解明

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    カエルや魚のMGAT3は低温で糖鎖を作る

    2026年9月25日
    岐阜大学

    糖鎖の枝分かれ酵素MGAT3の生物種間の違いを解明 〜カエルや魚のMGAT3は低温で糖鎖を作る〜

     

     

    本研究のポイント

    ・MGAT3は、N型糖鎖と呼ばれる糖鎖の枝分かれを作る酵素で、脳に豊富に存在します。

    ・ヒトから魚類・両生類まで幅広い生物種のMGAT3を比較した結果、生物種によって大きく異なる2つの領域が存在することを発見しました。

    ・ヒトのMGAT3が37℃付近で高い活性を示す一方、カエルのMGAT3は37℃で活性を完全に失い、25℃で高い活性を示しました。

    ・同じ糖鎖を作る酵素で、全体の立体構造がよく似ていても、生物種によって働く温度が大きく異なることがわかりました。

     

     

    研究概要

     岐阜大学糖鎖生命コア研究所の木塚 康彦教授、鮑 婉雪研究員らの研究グループは、新潟大学、リール大学(フランス)、東北医科薬科大学、岐阜大学応用生物科学部との共同研究で、糖鎖の枝分かれを作るMGAT3と呼ばれる酵素の生物種間における働き方の違いを明らかにしました。

     タンパク質には形の異なる様々な糖鎖が付きます。これら糖鎖は、細胞の中で多くの酵素の働きによって作られ、様々な生命現象や疾患との関わりが報告されています。本研究では、脳などで主に働く酵素MGAT3(別名GnT-III)に着目しました。MGAT3が作る糖鎖の機能や認知症などとの関わりはわかりつつありますが、MGAT3の働きの調節の仕組みや、生物種間での働きの違いなどはわかっていませんでした。

     本研究では、哺乳類、魚類、両生類、爬虫類など様々な生物種のMGAT3の構造や活性を調べました。その結果、糖鎖を作る領域の立体構造は生物種間で極めて類似している一方、立体構造と配列が大きく異なる領域が2箇所存在することがわかりました。また、ヒトの酵素は37℃付近で高い活性を示すのに対し、カエルの酵素は37℃で完全に活性を失い、25℃で高い活性を示すなど、種によって働く温度が大きく異なることがわかりました。本研究は、生物種間における糖鎖合成酵素の働き方の違いを明らかにしたもので、種間で異なる糖鎖が作られる仕組みの解明に繋がることが期待されます。

     本研究成果は、現地時間2026年9月23日にJournal of Biological Chemistry誌のオンライン版で発表されました。

     

    本研究の概要図

     

     

    研究背景

     糖鎖 1)とは、グルコースなどの糖(動物では約10種類の糖が存在)が枝分かれしながら鎖状につながったもので、多くはタンパク質や脂質などに結合した状態で存在します。タンパク質に付いている糖鎖には様々な形のものがあり、タンパク質ごとに糖鎖の形が異なること、また同じタンパク質でも、臓器ごとに糖鎖の形が異なること、健康なときと病気のときとで糖鎖の形が変化することなどが知られています。糖鎖の形が変わることで、タンパク質の機能が変化したり、病気の発症や進行の程度が変化することから、糖鎖の変化や働きの仕組みを理解することは、生命や病気の原因を理解するために重要です。また生物種によっても糖鎖の形は異なり、異なる種の糖鎖が免疫により異物として認識されることもあるため、種間の糖鎖形成機構の違いの理解とその制御は、免疫機構の理解や治療応用においても重要です。

     タンパク質に付く糖鎖は、細胞の中で糖転移酵素 2)(糖鎖合成酵素)と呼ばれる酵素の働きによって作られます。ヒトの体内には、約180種類の糖転移酵素が存在し、それらの働きが厳密に制御されることで膨大な種類の糖鎖が作られます。

     MGAT3 (GnT-IIIとも呼ばれる) 3)は、脳や腎臓に豊富に存在する糖転移酵素で、タンパク質に付いたN型糖鎖 4)と呼ばれる糖鎖に作用して、バイセクト GlcNAc (bisecting GlcNAc) 5) と呼ばれる枝分かれ構造を作る酵素です(図1)。これまでの研究で、MGAT3を欠損したマウスでは、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβ 6)の形成が抑えられ、アルツハイマー病態が軽減することが報告されています。一方で、 MGAT3の働きを調節する仕組みや、ヒト以外の生物種におけるMGAT3の構造や活性についてはよくわかっていませんでした。そこで本研究では、ヒトを含む様々な生物種のMGAT3の構造や活性を調べ ました。

     

    図1 MGAT3が作る糖鎖構造

    MGAT3はタンパク質に付いたN型糖鎖に作用し、バイセクトGlcNAc (bisecting GlcNAc)という枝分かれ構造を作る。

     

     

    研究成果

     まず、ヒトを含む哺乳類、爬虫類、両生類、魚類のMGAT3について、その構造を比較しました。ヒトの MGAT3は、木塚教授らの先行研究で、特定の立体構造を取らない領域が2つ存在し(図2のLoopおよび Tail)、これらの領域は、ヒトのMGAT3の酵素活性に重要であることがわかっています。他の生物種のMGAT3の立体構造を見ると、バイセクトGlcNAcを作る触媒領域 7)(図2のグレーの部分)は、生物種間で極めて類似していた一方で、LoopとTailの長さや形は大きく異なることがわかりました。このことから、生物種間で保存されていないこれらの領域が、生物種特有の酵素の性質を生み出す可能性が示唆されました。

     

    図2 様々な生物種のMGAT3の立体構造

    ヒト、ガーターヘビ、アフリカツメガエルのMGAT3の立体構造を示す。Loop、Tailは、特定の立体構造を取らない領域で、種間で構造が異なる。グレーは糖鎖を作る触媒領域。

     

     続いて、様々な生物種(ヒト、マウス、ヘビ、トカゲ、カエル、ゼブラフィッシュ)由来のMGAT3の活性を調べました。その結果、調べた全ての生物のMGAT3はバイセクトGlcNAcを作る能力を有していました。一方、ヒトやマウスのMGAT3が37℃ 付近で高い活性を示すのに対して、ゼブラフィッシュやアフリカツメガエルのMGAT3は、37℃ではほとんど活性を失っており、 25℃や 30℃など、より低温でのみ高い活性を示すことがわかりました(図3)。

     

    図3 様々な生物種のMGAT3の活性

    ヒト、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエルのMGAT3の酵素活性を、様々な温度で測定した結果を示す。

     

     

    今後の展開

     本研究により、MGAT3は生物種によって働く温度が大きく異なることが明らかになりました。こうした違いは、各生物が生息する環境に適応した結果であると考えられます。一方で、この異なる温度依存性が生み出される詳細なメカニズムはまだ不明であり、今後の解明が期待されます。本成果は、生物種ごとに糖鎖が異なる様式で作られる仕組みの一つを示したものであり、今後、生物種特有の糖鎖形成メカニズムの解明につながることが期待されます。

     

     

    用語解説

    1)糖鎖:グルコース (ブドウ糖) などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。デンプン、グリコーゲンなどの多糖は数多くの糖がつながり、糖鎖だけで遊離の状態で存在する。一方タンパク質に結合したものは、数個から20個程度の糖がつながったものが多い。

     

    2)糖転移酵素:糖鎖を合成する酵素のことで、ヒトでは180種類程度存在することが知られている。主に、細胞の中のゴルジ体と呼ばれる小器官に存在している。

     

    3)MGAT3:糖鎖を合成する酵素(糖転移酵素)の1つ。GnT-IIIとも呼ばれ、バイセクトGlcNAcを細胞内で合成する。体の組織の中では脳にもっとも多く含まれており、アルツハイマー病患者の脳で、MGAT3の量が増加していることが報告されている。

     

    4)N型糖鎖:タンパク質に付く糖鎖の種類の1つで、タンパク質のアスパラギン残基(アミノ酸の1文字表記でN)に結合している。ヒトでは7,000種類以上のタンパク質がN型糖鎖を持つと考えられている。

     

    5)バイセクトGlcNAc:N型糖鎖の枝分かれした構造の一つ。中央部のマンノース(緑丸)に結合したN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)(青四角)のこと。MGAT3の働きによって作られる。

     

    6)アミロイドβ:アルツハイマー病発症の原因と考えられている凝集しやすいペプチドのこと。脳に蓄積する。APPと呼ばれる前駆体タンパク質が2段階の切断を受けることによって作られる。MGAT3が欠損すると、APPを切断する酵素の働きが低下して、アミロイドβの産生が抑えられる。

     

    7)触媒領域:触媒とは、化学反応の速度を高める物質のこと。酵素は生体内の様々な反応を触媒するタンパク質である。触媒領域とは、酵素が持つ複数の領域の中で、触媒反応を行う部分のこと。

     

     

    論文情報

    雑誌名:Journal of Biological Chemistry

    論文タイトル:Species-specific disordered regions and temperature dependence of bisecting GlcNAc-synthetic enzyme MGAT3

    著者:Wanxue Bao, Shunji Natsuka, Anne Harduin-Lepers, Masamichi Nagae, Takahiro Yamasaki, Atsushi Iwasawa, Kyoko Matsuzawa, Yasuhiko Kizuka*

    (*責任著者)

    DOI: 10.1016/j.jbc.2026.113604

     

     

     

     

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