日本に集まりつつある投資資金、コンテンツの作り手と買い手という側面から見るゲームコンテンツ界隈の考察

 コラム 
  公開日時 

 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

コロナ禍前、中国企業から「日本のゲームスタジオ」に投資したい、という話をよく聞きました。急速に成長した中国ゲーム市場と、それに反して強まる中国政府の規制強化が背景にあり、つまり中国企業には今後難しくなっていく自国市場を見据えて「今ある現金を海外に投資しておきたい」という事情がありました。

日本に集まりつつある投資資金、コンテンツの作り手と買い手という側面から見るゲームコンテンツ界隈の考察

中国企業から見ると、日本のゲーム産業は強いIPと高い品質を持ち、そこに投資するのは手堅い投資の1つという判断もあったようです。

その後コロナ禍や景気動向を含む様々な動きがあり、中国からのそう言った打診は現在はかなり少なくなりましたが、代わりに他の地域や国からの打診が増えてきました。

具体的にはアメリカやヨーロッパの企業が多いのですが、最近は中東の投資家からの引き合いが多くなってきました。中東はサウジアラビアに代表されるように、日本のエンタメ産業と繋がりが深い国もあり、石油に次ぐ産業の軸としてゲームを含むエンタメ産業を候補の一つに数えている節があります。

現在の日本の株高は外国人投資家の影響が大きいとされていますが、株式市場以外での日本への投資も進みつつあります。
特にIT分野に関してはグローバル企業の工場やデータセンターが日本に新設されるというニュースに代表されるように、巨額の投資がされつつあります。これは日本が割安になってきているという側面もありますが、安定した社会が評価されているからでもあります。
ゲーム分野で見られる海外からの様々な打診は、このような日本への投資増加の流れの一環と言えるでしょう。

さて、この海外からの投資の増加自体はとても良いことだと思います。円安の良し悪しについては専門家に評価を任せるとして、相対的に安い円が海外からの投資の呼び水になっている側面は否定できません。
もともと質が高く良質なIPを多数持つ日本のエンタメ、ゲーム産業にとって、海外からの投資を得て飛躍するチャンスと言えるでしょう。日本に集まりつつある投資資金、コンテンツの作り手と買い手という側面から見るゲームコンテンツ界隈の考察

一方で、この海外からの投資の増加には気をつけるべき側面も含んでいます。そればビジネスにおいて利益を最も多く得るのはつくり手ではなく、投資家だということです。ビジネスとは、お金を出すリスクを取る者が最も強い立場に立てます。
海外からの投資によって得た日本のゲーム関連の利益は、主に海外の投資家に還元されます。これは正しい流れですが、日本のクリエイターが本質的に経済的な安寧を得られるかについては若干の不安があります。日本に集まりつつある投資資金、コンテンツの作り手と買い手という側面から見るゲームコンテンツ界隈の考察

日本のエンタメ産業は、日本という独自の文化や社会を背景に独自に進化してきた歴史があります。そのユニークな表現が無二のものとして評価されているわけですが、その発生は経済的合理性の外にあります。
そのあたりのことを、海外の投資家が理解してくれるかという点については筆者は少し不安を覚えています。
日本のエンタメ産業の競争力の根幹は、経済的な合理性というところにはなく、特に投資対象になるような中小のゲームスタジオやIPについては、そこで勝負をしてしまうと本来の価値を喪失してしまうのではと考えています。人の本質に訴える力がゲームを含めた日本のエンタメ産業の強みですが、これは文化の醸成を必要とするため、海外の投資家が考えているよりも投資の回収には時間がかかるでしょう。

彼らと話すと、日本の質の高さと、彼らの商売の能力を融合させればうまくいくはず、ということをよく言われますが、それは実際にはなかなかうまく機能しません。
文化的背景と価値観が異なる場合、その間に立つ緩衝役が必要ですが、その役割を果たせる人物や企業が日本には圧倒的に不足しているからではないかと考えています。

現状が日本のゲーム産業にとってチャンスであるかピンチであるかは様々な見方がありますが、先にも述べた通り、投資資金が集まろうとしていること自体は良いことだと思います。
この状況をうまく利用して日本の持つ優れたものを世界に広げ、つくり手が経済的な懸念を持つことなくコンテンツを作り続けられるようになれば、と筆者は願っています。

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著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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