ゲーム事業で独立する大変さは、お金もあるが、独立した時の理念にあるという話

 コラム 
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 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

ゲーム開発で独立して生きていきたい。
その夢を実現する人が増えてきました。

インディーゲームという言葉が一般的にになり、そしてその土台には、ゲーム開発の環境が個人にとっても整いやすくなったということがあります。UnityやUnreal Engineなど、無料から使えるゲーム開発ツールが普及し、そしてスマートフォンのストアや、StamなどのPCゲームのプラットフォームが拡大したことで販路も整ってきました。

ゲーム事業で独立する大変さは、お金もあるが、独立した時の理念にあるという話

誰でも実行力さえあればゲームを開発して世に出せるようになりました。
しかし、ゲーム開発者として独立してやっていくのは実際は大変で、筆者がこれまで多くの開発者さんと話してきた経験によるとそれはどうもお金の問題がメインではないという気がしています。

これはお金は重要ではない、ということでは決してありません。問題はそのお金の稼ぎ方にあるのです。

極論を言ってしまえば、ゲームを開発して完成しリリースして売り上げを上げる力のある方であれば、誰でもゲーム開発で独立することは可能だと思います。
しかし、実際にはそれはとても難しいのです。

なぜか。

それはゲームはインディーゲーム開発者にとって一つの表現の場として成立するからです。
漫画や小説と同じように、ゲームも作品として自身の想いを込めることが可能です。多くのインディーゲーム開発者は、何らかのビジョンがあってゲームを開発していますが、しかしそれは必ずしもそのゲームがビジネスとして成功することを意味しません。

例えば自身が子供の頃にプレイした思い出深いゲームに似たゲームを作りたいと考えていた場合、多くのケースにおいてそのゲームは既に作りが古く、今そのようなゲームをリリースするのであれば、売るためにある程度のカスタムが必要になることが多いでしょう。
しかし、開発者の想いが昔風のゲームにある場合は、今風にカスタムすることは不可能でしょう。

昔風のゲームでなくても、インディーゲームは大手にない自由な作風や尖った発想が持ち味であり強みですが、であればこそ万人に受け入れられるものになっていないことが多く、むしろ受け入れられる層が極めて少ないことも珍しくありません。

生きていくためのビジネスとして考えた場合、ゲームは商品であり、現在のトレンドに合わせて儲かりやすいゲームを作っていくことが、独立してうまくゲーム開発で稼いで生きていくには効率の良い方法ですが、しかし、インディーゲームの開発者の多くはそれを良しとしないがために、独立して自身でゲームを開発しているのです。

他にも、チーム運営や、外注業者への発注について、ビジネスとは違う観点が持ち込まれていることも多くみられます。
例えば、すべて自分でやろうとしているが故に膨大に開発期間を要しているとか、
外注単価が高すぎたり安すぎたりと適切でないために、期待した成果物を受け取れずに開発が進んでいないとか、
会社にいた頃のようにチームメンバーが自動的にいろいろなことをやってくれると過度に期待していたり、
といった問題もインディーゲーム開発では起きやすいのです。

1つ目のタイトルがうまくいって、2つ目のタイトルの開発に進んだ時にこのような問題が起きることも多く、これはクリエイターとしての芸術的な能力とは完全に異なるビジネスセンスを求められるからであって、ここもまさに、このような面倒なことから解き放たれたいからこそインディーゲーム開発者として独立したはず、という想いが根底にあることが多いように思われます。

ゲーム事業で独立する大変さは、お金もあるが、独立した時の理念にあるという話

昨今、インディーゲーム開発者への支援は色々な会社や政府関連団体が名乗りをあげて行なっています。
これはとても良いことだと思いますし、一部には地味ではあるもののじわっと成果を上げつつあるプロジェクトもあります。
一人や少人数で運営されるインディーゲーム開発チームにとって、資金面での援助や組織的なアドバイスを得られるのは大きな力になるでしょう。

一方で、そこにも構造的な問題があります。
特に企業からの支援である場合、最終的にはその企業の何らかの利益になる必要があります。直接的に売上としての利益ではなくても、例えば社会貢献活動としての認知向上や、業界貢献としてのゲーム業界内での立ち位置の確立ですが、上でも述べた通り、インディーゲーム開発者はそういった事情から自由になりたくて独立をしている、好きにゲーム開発を進めたいという気持ちを持っている方が多く、支援における出口戦略が難しいのが実情です。

インディーゲーム開発者への支援は色々なやり方が考えられますが、最終的にはその開発者が自分の理想とするやり方でゲーム開発を続けられる力をつけるための支援、である必要があると筆者は考えています。
自分の作りたいゲームを今の世でうまく売っていくには、それも世に媚びるのではなく、ファンを集める方法でどうやっていくのか。パブリッシャーとはどのように付き合うのが良いか。ゲームに対する理想と、生活をしていくという現実をどう精神的に折り合いをつけて生きていくのか。

これは明確な答えがなく、それぞれにやり方を見つけるしかない問題ですが、この面での理解者が社会に広がると良いなと常々感じます。
支援という言葉は難しく、多くの場合、ゲーム開発についてはそのゲーム開発者の方がよく知っています。それを市場性に合うように変容させるようなことは支援ではなく、かといってただやりたいことを漫然と見つめていくのも支援とはいえません。

日本のインディーゲーム界隈は少しずつ色々な形を模索しつつあります。この動きが地味にしっかりと継続して、日本風の土壌が出来上がってくると良いなと思っています。

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著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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