香川県のゲーム依存症対策は、本当に「子供のため」を思って考えた条例なのか
著者:ちゃんたく
皆さんは、「ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)」をご存知でしょうか。子供たちをネット・ゲームの依存症から守るためという目的で、香川県議会が4月施行を目指している条例です。
まだ素案の段階ですが、「子どものゲーム利用時間を1日60分に制限する」「全国の事業者も依存症対策に配慮、強力しなければらない」といった内容が盛り込まれていることが明らかとなり、物議を醸しています。
筆者は法や政治に精通しているわけではないので、その観点からの課題や問題について語るつもりはありません。この記事では、1人のゲーマーとして、感じたことを述べたいと思います。
「子供の自由を制限する」という重みを理解しているのか
素案の第18条では、子供の睡眠時間を確保して規則正しい生活習慣を送れるように、「平日のゲームは1日60分(休日は90分)まで」「スマホは午後9時まで」と定めています。
この時点で、本条例に対して懐疑的にならざるを得ません。ゲーム依存症の定義も確立していない状況下で、その対策案として提示されたのは、まるで科学的根拠のない使用時間の制限です。
この60分や午後9時までという数字は、どこから出てきたのでしょうか。子供の権利を一方的に制限する極めて重い条例であるにも関わらず、精査せずに「なんとなく」で決めているのであれば大問題です。
更に「睡眠時間の確保」が目的だとしていますが、ゲームやスマホとだけが問題とは言えません。休日も返上し、毎日夜遅くまで強制的に行なわれる部活動や習い事は、良いこととしてスルーされるのでしょうか。
そもそもそのようなルールは各家庭の事情に合わせて、親子で対話して決めるものです。「テストを頑張ったらいっぱいゲームしていいよ」「宿題終わったらゲームしていいよ」という風に、子供を管理するのは親の領分です。行政が介入して、全ての子供に対して一律に規制するものではありません。はっきり言って大きなお世話です。
頭ごなしに子供を上から抑えつけるようなやり方では子供は納得しません。理由を聞いても「ゲームは1時間と決まってるから」とだけ言われて、納得する子供がいるでしょうか。子供は不公平さと理不尽さには敏感です。反抗心を生むだけです。
行政がゲーム依存対策で本当にやらなければならない事は、子供のゲーム時間を規制する事ではなく、例えば図書館や球技が出来る公園など、「ゲーム以外の場」を子供に提供する事です。それは各家庭が対処できる問題ではないからこそ、行政が取り組むべきなのです。
科学的根拠が揃っていない状態で、ただ規制すれば良いというものではありません。子供の自由を制限する重みを理解しているのか、疑問に思います。
引きこもりや不登校の原因は「ゲーム」にあるのか
もう一つ引っかかるのは、素案の序盤に書かれている「ひきこもり問題」についてです。 ゲーム依存が、引きこもりや不登校の原因となっていると言うのです。
はたしてゲーム依存は引きこもりの一番の原因なのでしょうか。それについては、声を大にして「NO」と言いたいです。
もちろん全く関連がないとは言いませんが、どう考えても家庭環境やいじめの方が深刻な原因です。ゲーム依存よりもはるかに明確で、真っ先に取り組むべき問題です。
ゲームは原因というよりはむしろ、家庭環境やいじめなどの問題で不登校になった子供たちの逃げ道なのです。ゲームが原因で引きこもったのではなく、引きこもった結果ゲームに逃げるしかなかったケースも多いのです。
子供にとって、学校と家庭が世界の大部分です。しかしゲームやネットがあれば、世界中と繋がりを持つことができます。周りの大人が助けてくれなくとも、知らない誰かが支えになってくれることがあります。
逃げた先の一つがゲームであり、それだけが子供を救ってくれる事もあります。それを経て、立ち直りたい、やり直したいと思えるくらいに回復した時、初めて現実と向き合うことができます。
ひきこもりの根本的な原因を放置し、ゲームを規制するための理由にこじつけ、彼らの居場所を取り上げようとしていることに、非常に強い憤りを感じます。教育の責任を全てゲームに押し付けているとしか思えません。
本当に「子供のため」を思って考えた条例なのか
結局筆者がこの素案を読んで最初に思ったのは「これって本当に子供のためを思って考えたの?」という事でした。
子供のためというよりは、最初からゲームを規制するために、無理やり睡眠時間や引きこもり問題を引っ張ってきたように見えます。
県議会の「ゲーム」の認識がいつ頃で止まっているのかは知りませんが、今は多種多様なゲームがあります。もちろん、中には依存性を重視したものや射幸心を煽るものもあり、それらの危険性は規制反対派も十分に留意すべきです。
その一方で、発想力や創造力、思考力を身につける手助けになるゲームもあります。学校では学べないような成功体験や達成感を味わえるゲームもあります。
県議会はそれらのゲームを一括りで考え、「ゲームは全て悪いもの」という偏見や固定観念が根強いように感じます。少しでもゲームについて真剣に、調査と議論を重ねたのであれば、すぐにゲームが一括りに出来るものではないと気づくはずです。
仮にも子供の権利を制限する条例を作成しようとし、これだけ大きな注目と批判を浴びているにも関わらず、1月20日に行われた第6回条例検討委員会は非公開で、議事録すら作成されていません。
パブリックコメントの募集も通常期間の半分で、さらには香川県在住・事業者のみに限定しています。一番の当事者である子供の意見も、取り入れているとは思えません。
「ゲーム規制なら自分たちは痛くも痒くもないし、有権者にもウケが良さそう」とでも言わんばかりの杜撰さです。
生活が破綻するレベルのゲーム依存は問題であり、子供に限らず大人も含めて解決していくべきだと考えます。本当に県が子供のためを思い、丁寧な議論と検討を重ねて取り組もうとしているのであれば、その行為自体を否定する気は全くありません。
しかし子供第一でゲーム依存対策を講じたいと思っているなら、このような条例案にはならないはずです。
「ゲーム依存から子供を守るため」という大義名分のもとに、子供が犠牲になるだけの地獄絵図にならないことを祈るばかりです。