コロナ禍の2020年で露呈したゲームの真価とその向き合い方
著者:シェループ
2020年は大変ネガティブな1年になってしまった。
全ては年始から世界中へ拡大し、人々の生活様式を一変させるほど、甚大な影響を及ぼした新型コロナウィルスの出現と蔓延に由来する。
ゲーム界隈にもその影響は及び、予定されていた大規模イベントの数々が感染拡大への懸念から相次いで現地開催をキャンセル。オンライン上で開催する形式への変更、最悪の場合は完全中止を余儀なくされた。
新作タイトルも開発環境などの急激な変化に伴い、一部は年内発売を見送る事態にも発展。4月に緊急事態宣言が発令された時には、ゲームの表現審査が一時中断される事態も起き、多少の延期が生じることもあった。
次世代機のPlayStation 5、Xbox Series X/Sの発売で、大きな盛り上がりが期待された2020年。どのゲーム機も年内に発売されはしたものの、それ以上にネガティブムードが勝る1年になるとは、誰が予想しただろう。
本当に辛く、重苦しい1年だった。
一方で、ゲーム本来の真価が露呈した1年でもあったように思える。
インドア系の娯楽ゆえの強みが活きた1年
特に自宅待機が叫ばれた緊急事態宣言下では、その底力がひと際発揮された感じだった。どちらかというと、ゲームはインドア系の娯楽。それもあって、退屈しのぎにはこれ以上ないほど適している。
そんな本来の強みが、この新型コロナウィルスが猛威を振るった1年で発揮されていた。現にゲーム界隈はネガティブな話題ばかりではない。ポジティブな話題も多かった。3月に発売された「あつまれ どうぶつの森」の空前絶後の大ヒット、それに起因する長期に及ぶNintendo Switch本体の品薄は象徴的な一例だ。
「あつまれ どうぶつの森」に限らず、他の新作タイトルでも売上の面で景気の良い話題が続出した。直近では「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!」の大ヒットが取り分け象徴的だ。家族に限らず、オンラインで遠く離れた友人、知人と繋がって多人数で遊べる特徴は、まさにこの外出の自粛が推奨される状況下では存分に発揮されたと言っていいだろう。同じくオンラインで自分が作った島を公開し、他のプレイヤーを招待できる「あつまれ どうぶつの森」も、現在の情勢がプラスに働いた例と言える。その特徴を活かし、ゲーム内でイベントを開催すると言った、この最中だからこそできる試みも行われた。
「フォートナイト」もその一例だ。中でも話題を呼んだのは8月7日に開催された「米津玄師スペシャルイベント」だろう。ゲーム内の「パーティロイヤル・モード」を会場に、メインステージの大型スクリーン上に3Dアバターの米津玄師氏本人が登場し、「パプリカ」を始めとする楽曲がお披露目された。他にも海外アーティストのライブも多数開催され、あるアーティストは売上が日本円にして約21億円に及んだとの発表もあった。例え外の現地会場ができない状況に追い込まれても、ゲームの世界がその代わりとなり、やり方次第では驚くべき成果も上げられる。まだ、日本人アーティストの参加例は僅かなものの、こう言ったイベント会場としてのゲームの可能性を示した点でも非常に意義ある試みだったと言える。
自宅でひとり黙々と遊ぶスタイルのゲームでも「Ghost of Tsushima」のヒットは特に印象的だ。海外のスタジオ製作のタイトルながら、実在の歴史を尊重しつつ独自のアレンジを施した対馬の大地とそこで描かれる重厚な物語、往年の名作時代劇作品への敬意を表した剣戟アクションと細かいネタの数々で日本でも大きなヒットとなった。また、実在する土地が舞台となり、かつゲームが面白ければ、最高の観光招致にもなり得ると示したモデルケースにもなった。
実際に対馬への注目度は急激に上昇し、その影響が9月7日の台風10号により倒壊した和多都美神神社の平成の大鳥居再建を目指すクラウドファンディングの驚異的な成果、クイズバラエティ番組「世界!ふしぎ発見」での特集に表れている。これで新型コロナウィルスの存在さえなければ、いわゆる”聖地巡礼”をするプレイヤーも相当数に上ったのかもしれない。情勢が収束した後、どのようなことが起きるのかが楽しみである。ゲームの方も発売当初は存在しなかったオンライン対応のマルチプレイモードがアップデートで実装されるなど、未だその話題性を維持し続けているだけに見逃せないところだ。
他に11月に発売されたPlayStation 5、Xbox Series X/Sも情勢的な制約は受けつつも大きく注目され、特に前者は未だ品薄が続く状況だ。インドア系の娯楽ゆえにこそ、外出できない状況下においてゲームは強い。よい気晴らしになってくれる。そんな本来の真価が露呈し、再認識された点でも2020年はゲームにとって意義ある1年になったと言えるだろう。
ゲームとの向き合い方を考えさせられる機会も多々あった
しかし、手放しに喜んでいい話ではないのも事実。
世界的に不幸な出来事を機に真価が見出されたのだ。
それに、この影響で年内発売の予定を成し遂げられなかったゲームも出ている。そのいずれかに期待を寄せていた人にとっては、辛い日々の中の生きる糧、最大の楽しみを奪われたも同然で、本当に新型コロナウィルス憎しの極みだったことだろう。
筆者もそれを奪われ、辛い日々を送った一人である。
2020年の新作ゲームの中で、取り分け楽しみにしていたのがNintendo Switchの「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者/うしろに立つ少女」だった。前に本コラムでも取り上げたことがあるが、30年以上前にファミコンディスクシステム向けに発売された任天堂制作のアドベンチャーゲームで、特に「消えた後継者」は、初のリメイクだけあって様々な意味で注目の1本だった。
2020年内の発売と詳細な時期は明言されてなく、年明け後すぐ続報が来るものと思われたのだが音沙汰はなく、間もなく新型コロナウィルスが国内でも猛威を振るう事態に。そして緊急事態宣言の発令、それに伴う開発環境の変化が生じた話も飛び交うようになり、動向への懸念が深まっていった。結果的にそれは的中してしまい、延期が確定。発売中止という最悪の事態こそ免れたものの、最大の楽しみを失った絶望感は相当なものだった。
▲突然発表された「ゼルダ無双 厄災の黙示録」
しかも、任天堂はその情報を明かす前まで、事前の予告なしに数多くの新作を突然発表し、年内に発売することを繰り返していた。
寝耳に水なやり方ゆえ、どの新作も大きな注目を集め、歓迎されたが、発表済みの新作に期待を寄せ、その情報を待ち望んでいた人間の視点からは、気を病むやり方でしかなかった。何度、「なんで情報を出さないの?」と言いたくなったことだろう。しかも、前述の通り発表されたのは10月、下半期に入ってから。ギリギリまで開発を粘った結果なのかもしれないが、年内発売の雲行きが怪しくなったのなら、もっと早い内に発表して欲しかったというのが素直な思いだ。
結局、2020年は筆者にとっては日常のみならず、ゲームにも精神的に翻弄される1年となってしまった。ただ、裏を返せば、それだけ辛い中でもゲームは自らにとって、生きる糧でもあると再認識させられる1年でもあった。そして、時には前向きな気持ちにさせてくれる存在であることも。
現に自宅待機が叫ばれた最中でも、買って積みっぱなしのゲームをやればいいだけのことと前向きに捉えられたし、発売が楽しみな新作が1本でも存在していれば、それまで何が何でも生き抜かねばとの原動力にもなった。改めて考えると、今の歳になるまでゲームの趣味を持ち続けたことを、誇りと感じられたのは生まれて初めてだったように思える。
もっと前向きに考えれば、2021年も楽しみなゲームの発売は続くということだ。これから発売予定の新作の発表は、このような厳しい情勢下でも続いており、中には筆者にとっての新たな生きる糧になってくれた存在もある。視野を広げれば、新作ゲームはそれこそ毎日のように出ている。それらを全て追いかける心持ちなら、絶望しているどころじゃないだろう。さすがに余すことなく追いかけるのは、時間的なこともあって無理が過ぎる話だが。
そう言った自分にとってのゲームの価値、存在意義について考え、これからどう寄り添っていくかのきっかけもこの1年は与えてくれたのではないだろうか。例え楽しみな作品が発売せずとも、新しい糧を見つけ出せばいいという、辛い日々を少しでも和らげるための発想の転換の重要性についても再認識させられたのではないだろうか。
少なくとも筆者はそれらをひと際考えさせられたように思える。
故にこそ、これからもゲームの趣味は続けていきたいし、生きるための糧として寄り添っていきたい。そして、発売された時には目いっぱい楽しむ。そんな心構えを持って、2021年は迎えるようにしたいと思うばかりだ。
2021年のゲーム界隈は時空が歪む?
最後に気になる2021年のゲーム界隈だが、何だか時空が歪む1年になりそうな雲行きである。というのも、延期した「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者/うしろに立つ少女」に限らず、約30年ほど前に好評を博したタイトルの復活が相次ぐのだ。
既に発表されているものでは、2月21日にNintendo Switch向けに発売予定の「帰ってきた 魔界村」。元は30年以上も前にアーケードゲームとして誕生したアクションゲームで、後にシリーズ化を遂げるも、2006年と2007年に発売された「極魔界村」と「極魔界村・改」以来、かれこれ13~14年も動きがなかった。そんな作品がまさかの復活である。それも最初期の「魔界村」とその続編「大魔界村」を元にした、30年前の作品を今風に解釈した内容になるという。
さらに2月には「コットンリブート!」なるシューティングゲームもPlayStation 4とNintendo Switchで発売される。これも30年ほど前に誕生したゲームの復刻作である。
他にも「ワンダーボーイ アーシャ・イン・モンスターワールド」、「奇々怪界 黒マントの謎(仮)」、「R-TYPE FINAL2」、「サガ フロンティア リマスター」、「プリンス オブ ペルシャ 時間の砂リメイク」などの何十年もの空白を経て発売される新作にリマスター、リメイクタイトルがある。
前述の「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者/うしろに立つ少女」にしたって30年以上前のタイトルだ。
こうしたスケジュールもあって、いつになく時空が歪んだ1年になりそうで、年齢層の高いゲームファンが賑わう1年になるような予感がする。もちろん、新作も「ブレイブリーデフォルトII」、「モンスターハンターライズ」などの話題作が多数控えており、大きな賑わいを呼ぶことが期待される。静かなスタートになったPlayStation 5、Xbox Series X/Sの次世代機も年明けからは確実に攻勢を強めてくると思われるので楽しみだ。
色々とネガティブ尽くしの1年ではあったが、2021年もゲームに関しては明るい話題を沢山届けてくれそうではある。肝心の新型コロナウィルスの動向も影響は継続されそうだが、ワクチンの完成や治療薬開発の進展など、明るい兆しも出始めている。変異株の確認という大変気がかりな情報もあるが、いずれ人類側の本格的な反撃が開始されると思いたいところだ。
最後にこの一言を大声で叫ぶように書き殴って締めたい。
来年こそ、明るく楽しい1年になりますように。