ファミコンウォーズの新作は日本で出るのか?Ninetendo Direct E3から見る日本と海外での評価の差
著者:シェループ
メトロイドシリーズ最新作「メトロイド ドレッド」の発表、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド続編(仮)」の詳細が公開されるなど、前回の2019年から約2年ぶりの「Nintendo Direct E3 2021」は、国内国外ともに大きな賑わいを見せた。
しかし今回のNintendo Direct E3の内容には日本と海外とで決定的な違いがあった。
とある任天堂発売の新作ゲームが日本では発表されなかったのである。
そのゲームとは、「ファミコンウォーズ」のシリーズ最新作「Advance Wars 1+2: Re-Boot Camp」だ。
日本では2004年にゲームボーイアドバンス向けに発売された「ゲームボーイウォーズアドバンス1+2」のフルリメイク作品だった。
海外では2021年12月の発売が報じられたこのゲーム。日本ではNintendo Direct E3で紹介されなかったばかりか、任天堂の公式WEBサイト、Twitterでも一切触れられず、現時点でも日本国内で発売されるかは不明だ。
何故、日本側の発表がないのか?
推察するに、背景にはこのシリーズの辿った歴史が影響していると思われる。
親しみやすさを売りに誕生した「ファミコンウォーズ」とその奇特な歴史
「ファミコンウォーズ」はその名の通り、ファミリーコンピュータ向けタイトルとして発売された戦略(戦術級)シミュレーションゲーム。見下ろし視点(トップビュー)のマップ上で歩兵、戦車などの駒(ユニット)を生産して動かし、都市を占領しながら軍資金を稼いで、敵勢力のせん滅と本拠地制圧を目指す、というのが主な内容だ。
特徴はゲーム性の分かりやすさと親しみやすさ。ファミコンウォーズが発売された1980年代当時、似た仕組みのゲームとしては、パソコン向けの「大戦略」というシリーズ作品が存在した。「ファミコンウォーズ」は極端に言えば、「大戦略」のオマージュ作品でもある。
だがファミコンウォーズはいわゆる本格派である大戦略とは異なる方向性を追求している。プレイヤーが操作するユニットの名前を簡素にしたり、マップ上のアイコンを見やすいデザインにしたりと、戦略シミュレーションを全く遊んだことがないプレイヤーにも優しい作りになっている。さらにマップのマス目も六角形ではなく四角形にするなど、「将棋」に近い遊び心地を実現。全体的に家庭用ゲーム機、低年齢層も遊ぶことを想定したゲームデザインが徹底されており、個性を持った作品として完成していた。
本作は当時放送されたテレビコマーシャルも大変個性的だった。兵士たちがランニングをしながら「♪ファミコンウォーズが出ーるぞ!」「♪母ちゃんたちには内緒だぞ!」と歌うという、映画「フルメタルジャケット」のパロディを描いた内容だ。あまりに耳に残る歌詞だったことから、ファミコン世代の読者の中には、ゲームは遊んだことがないけどコマーシャルは知っている、という人も少なくないかもしれない。
「ファミコンウォーズ」は大ヒットとまではいかなかったが、親しみやすい作りから一定のファンを獲得し、2年後の1990年にはゲームボーイウォーズ向けの新作「ゲームボーイウォーズ」が発売され、シリーズ化を遂げた。
しかし、そこから先の歴史はあまりに奇特なものだった。
「ゲームボーイウォーズ」の続編は任天堂ではなく、ハドソン(現KONAMI)から発売されたのだ。これはハドソンが事実上の凍結状態となっていたこのシリーズに目を付け、任天堂から権利の快諾を得て作られたことに由来する。
任天堂も1998年には新作「スーパーファミコンウォーズ」を発売している。しかし、パッケージタイトルではなく、コンビニエンスストア「ローソン」のゲームソフト書き換えサービス「NINTENDO POWER」向けの専用タイトルで、ほぼ世の潮流に隠れる形での発売だった。
そして、2001年に「スーパーファミコンウォーズ」の流れを汲む新作「ゲームボーイウォーズアドバンス」が発表。以降のシリーズはすべて任天堂から発売されるようになった。また、この「ゲームボーイウォーズアドバンス」を機に海外展開も開始。それまでは日本独占のゲームで、1本も発売されていなかったのだ。
こうしてシリーズは事実上再始動となったのだが、2008年発売のWii用ゲームソフト「突撃!!ファミコンウォーズVS」のリリースの後シリーズは再び中断。
また、ニンテンドーDS向けの「ファミコンウォーズDS」の続編が海外限定で発売され、日本では発売されることなく終わるという出来事もあった。厳密には日本では「突撃!!ファミコンウォーズVS」から5年後の2013年、当時任天堂が運営していた会員制サービス「クラブニンテンドー」の特典ソフトとして限定的に配信された。
だが、後にこの「ファミコンウォーズDS 失われた光」は配信が終了。
2021年現在、遊ぶことはできなくなっている。
そして13年近くが経って、今回の「Advance Wars 1+2: Re-Boot Camp」の海外限定発表、並びに日本市場への発売未発表である。
一連の動向が示す通り、このシリーズは年々、海外市場向けに売ることに偏っていったのである。なぜ、このようなことになったのか。
その答えは2001年発売の「ゲームボーイウォーズアドバンス」にあると推察される。
「ゲームボーイウォーズアドバンス」が海外で圧倒的と言って良いほどの高評価を得たことだ。
「ゲームボーイウォーズアドバンス」という大きな分岐点
「ゲームボーイウォーズアドバンス」こと海外名「Advance Wars」は発売後、海外メディアで称賛の嵐が巻き起こった。多くのメディアがレビューで90点以上、所によっては100点満点を与えたのである。その結果、海外のレビュー収集サイト「Metacritic」で算出された平均値は92という、ゲームボーイアドバンス高評価タイトルの上位5本の1本に選ばれるほどの驚異的な値を叩き出している。
さらに2001年の最も優れたゲームボーイアドバンスタイトルに与えられる「Best Game Boy Advance Game of 2001」のほか、「Most Discussed Game Boy Advance Game of 2001」、「Most Shared Game Boy Advance Game of 2001」の3つの賞も獲得。シリーズにとってはまさに快挙としか表し様がない結果を残したのだ。
一方で日本はというと発売されなかった。実は2001年の秋(10~11月頃)の発売が予定されていたが、無期限延期になったのである。
その理由は公式には明らかにされていない。ただ考えられる可能性のひとつが2001年9月11日に起きた「アメリカ同時多発テロ」だ。史上最悪のテロ事件とも言われたこの出来事によって、世界は戦争への機運が高まるなど、情勢が著しく変化してしまった。そんな中、現代戦をテーマにした「ゲームボーイウォーズアドバンス」を発売するのは望ましくなく、不謹慎なゲームとして、世間から厳しい視線を注がれかねない。繰り返しになるが、公式には同時多発テロが原因になったかは明言されていないものの、あの当時の空気を考えれば、出すのが相当難しい状況だったのは容易に想像がつく。
かくして日本のユーザーはお預け状態になってしまったのである。
なのに何故、海外では発売されたのかと言えば、テロが起きる前だったからだ。
しかもその発売日は2001年9月10日。直前も直前だったのである。
結果、作品の評価は海外に集中する格好となり、日本との急激な温度差が生まれてしまった。
さらに翌年には好評を受け、続編「Advance Wars 2: Black Hole Rising」が海外向けに発表。対する日本は前作の新たな発売日すら決まらず、続編の公式発表も何ひとつなく、完全に取り残される格好となった。極め付けに「Advance Wars 2: Black Hole Rising」も海外メディアでは大絶賛され、2003年度の携帯ゲーム機部門の「Game of the Year」を受賞するなど、著名な賞を獲得するに至っている。
一応この後、2004年に日本でも続編と前作を1本にした「ゲームボーイウォーズアドバンス1+2」は発売された。また、2005年以降は日本での展開にも積極的になり、「ファミコンウォーズDS」と外伝の「突撃!!ファミコンウォーズ」がほぼスケジュール通り発売されている。後にそれら2作の続編も発表され、日本での発売も予告された。だが、どのような経緯を辿ったのかは前述の通りである。
こうした流れを見れば、「Advance Wars 1+2: Re-Boot Camp」が日本で発表されないのにも腑に落ちる。販売の主戦場は海外であり、日本は眼中にないためだ。そのことは初めて海外向けに展開された「ゲームボーイウォーズアドバンス」以降のシリーズの高評価、日本との温度差から見ても明らかで、偏重するのも至って自然なことと言える。
さらに現代戦というテーマだ。剣と魔法のファンタジー世界が舞台の戦争を描いた「ファイアーエムブレム」シリーズと違い、銃火器を始めとする現代の武器で人間同士が殺し合いをする内容は、幾らコミカル調でも、日本の国柄を考えれば神経を尖らせざるを得ない。任天堂のような世界のみならず、日本でも名の知れた企業となっては、殊更意識する必要があるのだろう。
改めて考えても、日本と海外とでは人気、知名度の温度差が激しい。初代「ファミコンウォーズ」の知名度も日本ではコマーシャルのこともあって相応だが、海外は前述の実績もあって、目玉タイトル扱いである。件の動画再生数も高い値が記録されている。
さらに題材的にも文化の違い、扱いにくさなどのハードルを上げる要素が揃っている。
それらが積み重なった結果と思えば、止むなき展開と言わざるを得ないだろう。
例え日本未発売に終わっても、様々な望みがある
正直なところ、「Advance Wars 1+2: Re-Boot Camp」が日本で発売される可能性は低いと筆者は見ている。決してゼロとは言えないが、作品の題材なども踏まえるとかなり厳しい。
現代戦をテーマにしたゲームが日本で禁じられている訳ではない。FPS「コールオブデューティ」シリーズは日本国内でも大ヒットを記録しており、一定の地位を獲得している。近年eスポーツ界隈で圧倒的な人気を誇る「レインボーシックス シージ」もそのひとつだ。
しかし幾らそのような実情があっても、任天堂という会社としての心情はどうなのか、だ。もし好ましくない、売りたくないとの消極的な思いが強いなら、かなり厳しいだろう。
結局日本での発売はシリーズのファン、遊びたいユーザーが任天堂に直接声を届けることしかないのかもしれない。待っている人がそれなりに居るとあれば、心情の変化にも期待できるだろう。
現に「Advance Wars 1+2: Re-Boot Camp」が発表された時、Twitter上では「なぜ出さないんだ」との声が飛び交った。「ゲームボーイウォーズアドバンス1+2」はゲームボーイアドバンスの成熟期、「ファミコンウォーズDS」はニンテンドーDSの黎明期に発売されたのもあって、丁度幼い頃に遊んだ人も相応にいるだろう。
そういったファンの声が沢山届くならば、望みはゼロではない。
それでもパッケージソフトとして出すのは難しい、という場合でも、ダウンロード専売にする方法がある。現に海外ではパッケージが発売されず、ダウンロード専売となったNintendo Switch版「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女」の例がある。海外はパッケージを出すが、日本は逆に専売にする、という形で十分だとは思うのだがどうだろうか。
これでもやっぱり出せない、となればもはや海外版を買うしかないだろう。
幸い2001~2004年当時と比べ、輸入版のゲームは日本のAmazonでも販売されるようになり、現在の入手難易度は大きく下がっている。Nintendo Switchにもリージョン制限はないので、パッケージ版は問題なく遊べるし、海外アカウントを作ればダウンロード版を買うことも可能だ。
仮に日本未発売になっても、これらの選択肢が残されるのはせめてもの救いと言える。
筆者も仮に日本語版が出ないと決まったのなら、こちらを買おうと考えている。
とはいえ、日本版を求めているファンがいるのも事実。その声が少しでも任天堂に届き、何らかの形で発売される動きへと繋がってくれることを僅かな可能性に賭けて願いたいものである。
そしてゆくゆくは、シリーズが日本でも再始動するきっかけになればと思う。
もちろん、その暁にはあのコマーシャルと主題歌もお願いしたいところだ。