ゲームの世界展開の簡単さと難しさ

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 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

筆者はゲームは世界展開すべき派です。特に小さなゲームスタジオは、特定の国で勝ち切る戦略を立てることが難しく、「小規模インディーこそ海外展開せよ」と唱え続けています。

さて、筆者は「ゲームの世界展開は難しくない」と考えています。パッケージでの流通が必須であった昔ならともかく、今はスマホもPCも据え置きゲーム機も、ゲームをストアで購入してすぐにダウンロードすることができます。これはインターネットが普及したからであって、ゲーム開発者にとって、そしてゲームファンにとってこの恩恵は計り知れません。

ゲームの世界展開の簡単さと難しさ

ゲームは、読める言語に対応してさえいれば、そしてストアにありさえすれば、あとはお金があれば、いつでもすぐに購入してプレイできるコンテンツになったのです。

しかし、当然日本のストアなのに英語にしか対応していなければ購入する人は激減するでしょうし、そもそも日本のストアに置かれていなければ日本人は購入できません。逆も然りで、海外それぞれの国でも同じことがいえます。
日本のインディーゲームは、日本のストアに日本語でのみ置かれている、ということも多く、もったいないな、と常々感じます。

ゲームの世界展開の簡単さと難しさ

まずは英訳して、できれば中国語(簡体字と繁体字)くらいには対応して世界でリリースをするだけで、売り上げの上限値は大きく上がります。実際に日本ではあまり振るわなかったゲームが、例えば台湾で何故か人気が出た、という例もあります。

とはいっても、英語が苦手、中国語なんて無理、という方も多いでしょう。大手であれば専門の翻訳会社を使えますが、中小にとってはかなり大きなコストになります。
しかし、翻訳だけであれば今や無料の翻訳ツールでもかなりの精度で訳してくれるようになりました。もちろんその翻訳は不完全で不自然な点が多くありますが、それでもゲームをプレイするくらいであれば十分に通じることが多いのです。
日本のゲームスタジオは、不完全な翻訳のままゲームを海外でリリースすることに抵抗感を持つことが多いのですが、海外のものでも怪しげな日本語のゲームが多々あり、そしてそれらも内容が面白ければ日本でも人気になるように、今やゲーマーはちょっとした言葉の不自然さを気にしたりはしません。

ゲームの世界展開の簡単さと難しさ

絵柄についても同じで、以前は洋風の絵柄のゲームは日本では一部のマニアにのみ好まれていましたが、人によって尚好き嫌いはあるものの今ではそれほど気にされていないように思います。

SNSの発達によって海外のコンテンツを目にする機会が多い若年層は、外国人の拙い日本語、あるいは機械翻訳された日本語に相当に慣れています。海外の絵柄を含めたコンテンツそのものに慣れています。
海外でも同じ状況です。
物語を軸にしたゲームでないのであれば、翻訳はある程度のものでも問題のないことが多いでしょう。

ゲームの世界展開の簡単さと難しさ

ユーザー対応も同じです。
海外のユーザーに何かゲームの中でトラブルが起きた場合、十分に対応できるかどうかというのは確かに心配ですが、これも翻訳ツールのやり取りでかなりの部分が巻き取れるようになりました。もちろん金銭に絡む部分など重要な問題については翻訳ツールではなく必ずネイティブレベルのスタッフが対応する必要がありますが、そうではないやりとりは、少なくともインディーのような小規模なゲームスタジオは過度に心配しなくて良いのではと筆者は考えています。

この考え方に基づけは、ゲームの海外展開は難しくありません。むしろインディーのゲームスタジオこそ簡単に海外展開が可能と言っても良いくらいです。

しかし、一方で、じゃあ適当に翻訳して海外展開しようか、というのはお勧めできません。完璧主義な日本人にとって思ったよりは簡単だというだけで、海外展開する負荷がゼロということはないのです。

筆者が思う、ゲームの海外展開の最も難しいところは、海外の文化のタブーに触れてしまわないか、ということです。
これはとても難しいのですが、例えばあるスマホゲームで7月7日に七夕イベントをやっていたとして、中国でそれが大炎上する、ということがあったらどうでしょうか。
日本ではめでたい日として親しまれている7月7日ですが、中国では日中戦争の発端となった盧溝橋事変の日であり、戦争を戒める日となっています。そんな日にゲームの中で何かやろうとすると、ちょっとした表現が中国のタブーに触れてしまう、というのは実際に起こり得ることです。

ゲームの世界展開の簡単さと難しさ

海外でエンターテインメントコンテンツを展開しようとする時に、このような文化的タブーに触れないかどうかというのは、気を使うべきところであり、そして外国人にはなかなかわからないことでもあります。

東南アジアなどの地域は、国によっては未だに日本より物価が低いところもあり、例えば課金トラブルが起きた際、その地域の物価に照らすととても大きな金額だったということがあるかもしれません。

さらには単純に時差の問題などもあり、地域によってはユーザーのサポートが半日ずつ遅れてしまう、ということも考慮する必要があるでしょう。

それでも筆者は、小規模なインディーゲームスタジオこそ、グローバル展開をすべきだと思っています。それは単純に対象の市場が増えれば売り上げの上限が上がるからであり、海外にファンを作れる可能性があるからです。日本だけで勝負するより、世界中の市場に広くリーチした方が勝率は高いでしょう。
海外展開には上述のリスクもありますが、是非リスクのみを大きく捉えるのではなく、可能性を信じで海外展開にチャレンジしていただきたいと思います。

ゲームの世界展開の簡単さと難しさ

筆者は仕事で海外によく行きますが、ゼルダの伝説の話をよくされます。これはゼルダの伝説が世界中にローカライズされて売られていたからです。例えば日本のインディーゲームが、これから世界に出て、世界中の人が知るゲームになる可能性は本当に、本当に大いにあり得るのです。
繰り返しますが、是非日本のゲームスタジオには、海外展開にチャレンジしていただければと思います。

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著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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