アルツハイマー化が進む東京ゲームショウ!?:黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 第13回

 黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 
  公開日時 

著者:黒川文雄

年号が令和に変わって初めての「東京ゲームショウ2019(以下:TGS2019)」が、9月12日から15日までの4日間、千葉県千葉市の幕張メッセで開催されました。台風17号が直撃したあとだけに、開催が懸念されましたが、平常通り開催されました。未だ停電のままの地域もあり、一日も早い復旧を祈念しております。

アルツハイマー化が進む東京ゲームショウ!?:黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 第13回

さて、今回のTGS2019の開催回数は29回目、この【黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ】では、私がTGS2019の展示とそのテーマ、会場で感じたこと、そして、これからのビデオゲーム産業を支えるeスポーツに関しての課題を考えてみたいと思います。

前年比約12%減少した原因は入場料金の影響か?

業界関係者にとって、東京ゲームショウ会場で知人にあったときの話題は「(今年は)去年よりも来場者が多いね(または少ないね)」というものです。これは一種の挨拶のようなもので、私もそのような一人で、会場で会った知人たちとそんな「今年のゲームショウどうよ?」という話をするのが例年の常です。

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私が率直に感じたのは来場者は昨年よりも少ない…というものです。

とはいえ、それはそれぞれの来場者が観ているもの、観ている場所にもよるので一概には言えません。最終的なCESA(=日経BP)発表によれば、4日間の総来場者数は26万2076人、過去の開催回との比較で言えば歴代5位の入場者数で、悪くない数字です。

しかし過去最多来場者数を記録した2018年の総来場者数29万8690人からは約3万6000人の減少で、割合では約12%の減少となりました。確かに2018年の展示と入場者数はデキすぎという声も聞かれましたが、eスポーツ元年というワードを始めとして、様々な話題が2018年の動員を牽引しました。

直近過去3年の入場者推移

東京ゲームショウ20172017年第27回9月21日―24日609社254,331人
東京ゲームショウ20182018年第28回9月20日―23日668社298,690人
東京ゲームショウ20192019年第29回9月12日―14日655社262,076人

前年比マイナス 36614人(出展社655 内訳:国内は350、海外は305)

前年比マイナス3万6千人、12%減の要因とは

今年の動員のマイナス3万6千人、前年比12%減の実績、これにはいくつか要因が考えられると思いますが、そのひとつの要因は入場料の値上げでしょう。 以下に前年度と比較します。

ビジネス・デー
2018年事前登録料金5,000円(税込)
2019年事前登録料金10,000円(税込)
パブリック・デー
2018年一般前売:1,000円 当日:1.200円(共に税込)
2019年一般前売:1,500円 当日:2,000円(共に税込)

ビジネス・デーの事前登録に関しては、ゲーム系企業を前提としたものです。

前年比2倍の事前登録料の設定は、本来のビジネス(商談)以外の来場者を排除する目的も考えられるものの、強気な設定と言わざるを得ません。さらに不可解な設定はパブリック・デーの大幅な値上げです。パブリック・デーは年末年始商戦に登場するゲームソフトのお披露目の場であり、それを多くの一般来場者に触れてもらうというパブリック・デーの主旨に大きく反する設定の金額ではないでしょうか。

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そして直接ではないにしろ、10月に控えている「消費増税」も来場者への心的障壁があったのではないでしょうか。もちろん、イベント自体の価値が低いと言うつもりはありませんが、入場料値上げ、そのすぐあとに待ち受ける消費増税、そして注目すべきソフトの欠如などの複合的な要因が過去に例を観ない、マイナス12%の動員減をもたらしたのではないでしょうか。

また冒頭に述べた台風被害への懸念もあったのかもしれません。

アルツハイマー化が進行する幕張メッセ会場スペース

先に挙げた来場者数の減少と関連することですが、会場である幕張メッセ自体のスペース配分も「ゆとり」が生まれてきたような印象がありました。

それは出展社それぞれのブースが若干縮小していること、その影響によるブース間のゆとりスペースが前年よりもあるという印象です。

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もちろんビジネス・デーとパブリック・デーにおけるブースの仕様変更や模様替えや、体験試遊のための来場者の導線などの関係もあり、十分な余裕が必要という運営事務局の配慮もあると思いますが、幕張メッセの会場の大きさと比してもブースなどの配置が委縮しているように感じています。

国内企業の出展スペースが萎縮する反面、年々増加する海外の展示が目立ってきています。インディーズゲームブースに関しては、逆に詰め込み過ぎという印象です。

2000年代に入ってからは海外ゲームやインディーズゲームの誘致により、常に右肩上がりの動員を記録してきましたが、出展社数で展示や動員をキープする対策も踊り場に来ている感が否めません。

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つまり、東京ゲームショウの展示について言うならば、会場である幕張メッセのホールのサイズに対しての展示系ブースが委縮しており、それはあたかも正常な脳が委縮してくアルツハイマー病のようにスカスカな状態になりつつあるように思います。

日本はもちろんのこと、アジアを代表するゲーム系展示会を標榜するのであれば、来年以降の開催においては展示系ブースの在り方も含めて見直しを行ってほしいと思うのは筆者だけではないと思います。更に、本年価格が改定された入場料の見直し(値下げ)も視野に入れてほしいと思います。

なんだかよくわからない5Gは、恐れずに言えば単なるインフラ

さて、本来のTGS2019での出展に関して、年末年始商戦を飾る個別のゲームソフトについては専門メディアのレポート記事にそれらは譲りたいと思います。

今回のTGS2019は、次世代通信規格「5G」をテーマにしたものが多く、そのキャッチフレーズは「もっとつながる。もっと楽しい。」でした。

そのため、クラウドゲームやeスポーツのフィーチャーしたものが多くありました。

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しかし実際のところ、「5G」に関しては通信環境の改善というやや目に見えにくいテーマでもあり、正直言うと「だからどうした」「今より良いならば別にどんな方法でも良い」というのが多くの関係者とユーザーの本音なのではないかと思います。

5Gに限らず、このような先進的で便利なインフラは、導入前だからこそ期待値は輝くのであって、導入が終わってしまえばそれはガス、電気、水道のようにあって当たり前、なくてどうするというものに成り下がるのは世の歴史をみれば明らかです。

5G、5Gと騒いでいるのはそのインフラを用いてビジネスを活性化、収益化しようとしている企業や怪しいインフルエンサーであることを忘れてはいけません。

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5Gになると急速に促進されるというクラウドゲームに関しては、すでに株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントはPlayStation Now(PSNow)で展開済みであり、ソニー全体の決算のV字回復の要因の一つであったことも記憶に新しいと思います。未来は気が付いた頃には、すぐそばにあったという実例です。

5Gそのものが今回のTGSでゲームファンの心を大きく捉えたかは微妙と言わざるを得ません。

東京ゲームショウ最中の大きな発表?! eスポーツ頼みのゲーム産業の未来の揺るがす課題

さて、各出展社のもうひとつの大きなテーマはeスポーツです。

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それもそのはず、年末年始商戦を含めて、国内での家庭用ゲームの販売トレンドは逆風です。大手パブリッシャーのなかには海外販売比率が8割を公言するケースもあります。

ゲームショウが始まる2週間ほど前のことですが、ゲーム業界や経済界にネットワークを持つ友人から

「9月の中旬くらいにeスポーツ関係で大きな発表がある。それによって、今までの概念が少し変わるのではないか」

という案内をもらいました。

私としては、おそらくTGSでの何かの発表があるに違いないと思いましたが、案の状それは的中しました。

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それはTGS開催当日の12日に、JeSUから一般とメディアに向けて情報公開された「eスポーツに関する法的課題への取組み状況のご報告」により明らかになりました。

このリリースに関する講演が、同じ12日のe-Sports X RED STAGEで「JeSU活動報告記者発表 AESF戦略発表会」と題して行われました。

JeSUの発表の概要を解説すると以下のようになります。

1.高額な賞金設定と景品表示法について

プロとしての価値のある仕事としての対価高額賞金を支払うことは消費者庁から公式に承認を得ることができました。

しかし過去にJsSUが主張してきたのは、あくまでもJeSU発行のプロライセンスを取得したものにのみに賞金を支払うというものでした。

また、参加費、入場料などが運営費などに適切に充填されていることが前提で、第三者から拠出された賞金であれば常識的な範囲の賞金は提供できるということも公式に発表されました。
ただし、これらに関しては以前から可能と言われていたことであり、発表自体は「今更それを言っても」・・・という感は否めませんでした。

2.プロライセンスがなくても賞金は受け取れる

こちらは上述の1(※JeSU発行のプロライセンスを取得したものにのみに賞金を支払う)に対して、今回のJeSUの行ったノンアクションレター(法令適用事前確認手続)に対する消費者庁の回答はプロライセンス取得者のみの大会、または一定の方法において参加者が限定されている大会においても、賞金を提供しても景品表示法に抵触しないし、プロライセンス非保有者にも賞金は提供できるという発表がなされました。

筆者注※)JeSUはプロライセンスが無いと賞金は提供できないという前提でプロライセンスの必要性を主張してきたが、今回消費者庁へ自ら行ったノンアクションレターで、プロライセンス選手、アマ選手を問わず賞金は提供できるという結論になった。こちらも、一般的にはすでにこのようなプロライセンス保有者以外にも賞金が支払われるケースがあり、SNSなどの世間の反応は、今頃になってそれを言われてもというものがほとんどだった。

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どちらの発表に関してもJeSUサイドは「自分たちが交渉を行ってきた結果」のような発表に終始しましたが、eスポーツに関連する業務に携わってきた関係者からすれば、お粗末な1年半の活動報告と抗弁だったと思っているに違いありません。

今回の発表によって、JeSUが設定してきたプロライセンス制度自体の価値自体が危ういものになってしまったのではないでしょうか。

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おそらく今後は「ある一定の条件のもとに参加者を募る方式で賞金付きeスポーツ大会が開催され、そこにはプロライセンスなき国内外の名もなきチャレンジャーがフェアに競いあう」という本来あるべき競技の姿が実現するのではないでしょうか。

これらに関連してTGSであった事実として、

「パズドラチャンピオンズカップ TGS2019」で優勝した、ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンスを保有する「ゆわ」選手が、中学生だったために500万円の優勝賞金が受け取れない…、

という事案がありました。

これはとても残念な貰い損です。もちろん、ジュニアライセンス(13歳-15歳未満が該当)の規定には、原則として受け取る権利を放棄するという条項があります。

こちらに関しても既にメディアやSNSで意見が噴出していますが、他のプロの将棋や囲碁の試合では、保護者の承諾の下に優勝者に賞金を渡す制度が有ります。2016年、将棋の世界で中学生デビューした藤井聡太(七段)はプロ棋士としての賞金を得ていますし、私が「1」の項目で上げた価値のある仕事の対価としての報酬という意味でも、勝者に賞金を与えるべきではないでしょうか。

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加えて言えば「2」で規定されたように「プロ」「アマ」の区分なく賞金が受け取れるという判断が、12日の開催日に公式に発表されたタインミングであり、フレキシブルに判断すべきだったと思います。極論すれば「年齢」を理由に賞金をケチったといわれてもしかたありません。

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おそらく今後、他のeスポーツでも参加者の低年齢化が進むことでしょうし、そうならないとeスポーツ参加人口は増えません。そのときに先のJeSUの発表のように「場当たり的な見解と発表」を繰り返すのではなく、抜本的にプレイヤーありきの対応策を早く打ちだすことが今求められていることではないでしょうか。

今は、eスポーツに関して今まで以上に一般に理解してもらうことが重要な時期です。今回、仮に「ゆわ」選手が賞金を満額を受け取っていたら、大きな話題になっていたことでしょう。それはeスポーツの前向きな認知向上に役立ったに違いありません。

もうひとつ関連する事実として、「ストリートファイターV アーケードエディション」の世界大会「カプコンプロツアー2019スーパープレミア日本大会」決勝トーナメントで、優勝賞金の500万円を争う大会での賞金問題があります。

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優勝したのは「ももち」選手で、賞金は500万円でしたが、「ももち」選手がJeSU公認のプロライセンスの受け取りを辞退していることから、賞金は10万円、「ももち」選手の行った配信で語った情報に依れば賞金額は副賞のゲーミングモニター39800円相当と、60,200円の合計10万円とのことでした。

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「プロライセンス持っていても、中学生だから優勝賞金をもらえない」、「世界トップクラスのももち選手が優勝しても、JeSUのプロライセンスを持っていないため優勝賞金をもらえない」ような規定のプロライセンスならば持っていても意味がないと私は思います。ライセンス云々ではなく、本当に強いヤツと戦いたいというのはゲーム内のキャラクターのセリフではなく、プレイヤーたちの心の声でしょう。

日本のeスポーツの課題は外的な要因ではなく、業界内に抱える内的な問題ではないかと私は考えています。その意味でもこちらも思考する能力が極端に委縮しているアルツハイマー化が進行しています。

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eスポーツは日本のゲーム産業界の新しい未来の小さな輝きです。これらの課題を早い段階で解決すべきだということは、日本のゲーム産業の発展を望む人々であればよく分かっているはずです。それでもまだ動かないのであれば、せっかく明るい兆しが見えてきたeスポーツという新しいゲーム産業の芽を自らの手で摘み取っていることに等しいのではないでしょうか。

著者:黒川文雄
1960年・東京都出身
音楽や映画映像ビジネスの後に、セガ、コナミDE、ブシロード、NHNJapan(現在のNHNPlayart+LINE)などゲーム関連企業でゲームビジネスに携わるエンタメ界の「グラン ドスラム達成者」。
現在はジェミニエンタテインメント代表取締役と黒川メディアコンテンツ研究所・所長を務め、メディアアコンテンツ研究家としてジャーナリスティックな活動も、さらにエンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰。
プロデュース作品に「ANA747 FOREVER」「ATARI GAME OVER」(映像)「アルテイル」(オンラインゲーム),大手パブリッシャーとの協業コンテンツ等多数。オンラインサロン黒川塾も開設。
著書:プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本