【レポート】松戸市コンテンツ事業者連絡協議会開催「VRの向こう側 MRのあるべき姿を求めて」
著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
VR元年と呼ばれた2016年。その後AR(拡張現実)、MR(複合現実)とより発展的な技術も登場し、ゲームの世界で一気に普及するかと思われました。しかし実際にはそうはならず家庭への普及は一旦踊り場を迎え、「VR ZONE SHINJUKU」のような一部のロケーションベースVR(施設型VR)がビジネスベースに乗るに留まっています。
VRは終わった、と思っていませんか?
実はVRから発展したMRは、ゲーム分野で培った技術やノウハウと共に、ゲームとは違う分野で急速にその可能性を拡大させつつあります。
この記事では本日開催されたトークイベント、「VRの向こう側 MRのあるべき姿を求めて」から一部を抜粋して、MRの可能性について皆様にお伝えします。
トークイベントは、ゲストに株式会社ポケット・クエリーズ代表取締役の佐々木宣彦氏(右)、司会に黒川塾でおなじみのメディアコンテンツ研究家、黒川文雄氏、の2人で実施されました。
まずはイベントの冒頭でも語られた、佐々木氏がMR事業に至るまでの経緯を、ここではかなり圧縮してご案内します。
佐々木氏がポケット・クエリーズ社で起業したのは2010年。三菱ふそうという大会社からの転身でしたが、「特に強い思いや勝算があったというわけではない」と言います。
「飽き性だったのもあり、飛び込んだのがソフトウェアだった」
というところからポケット・クエリーズ社は出発し、創業間も無くしてUNITYの存在を知ります。
2013年にはVR用ヘッドマウントディスプレイ、「Oculus Rift」が登場。かつて自動車会社と共にVR事業を経験したことがある佐々木氏は、
「前は数億かかっていたことが数万円でできるのか!」
と、衝撃を覚えます。
「これはなにかやるしかない」
更に2015年頃にARという言葉が世に出てきて、マイクロソフトのホロレンズがもうすぐ出るという情報が界隈に流れると、
「次はこれじゃないかなと考え出した」
と佐々木氏。
まだホロレンズが販売されておらず現物が無い中で、なんと自分で「Oculus Rift」と連動するロボットを作成、VRの中に擬似的にARを映し出す手法でMRっぽいインベーダーゲームを開発してしまいます。これは2015年の東京ゲームショウにも出展され話題を呼びました。
そのような経緯を経て、佐々木氏のポケット・クエリーズ社は現在、MRの開発技術を通して東京電力やJAXAなどと提携、様々なMRコンテンツの提案や開発を行っています。
さて、では現在佐々木氏のポケット・クエリーズ社はどのようなMRコンテンツの開発を行っているのでしょうか。トークセッションで紹介されたものの一部をご案内しましょう。
こちらの動画はポケット・クエリーズが東京電力と共同で開発した、「QuantuMR」というMRソリューションの紹介動画です。
「QuantuMR」を用いることで、例えば発電所の施設内での作業などにMRを応用し、より生産性の高い作業を実施することができます。
具体的にどういうことかというと、
遠隔で様々な情報を作業員のゴーグルに表示させ、効率的に作業指示を実施したり、
危険区域へ立ち入ろうとした場合にゴーグルにアラームを出すことで安全性を確保する、
というようなことができるわけです。
その他、アナログのメーターやスイッチをカメラで読み取りデジタルデータとして利用したり、ホロレンズでMR空間を共有することで異なる空間にいても同じ空間にいるかのように作業を共有する、などが可能になるそうです。
「設備保全系の会社の課題としては、これから人が減っていく中、将来に向けてその対応をなんとかしないといけないというのがあります」
と佐々木氏。
少ない人数でも設備のオペレーションを実施するための現場のツールとして、或いは技術を継承するための教育のツールとしての利用など、設備保全系の業務にとってMRは非常に可能性を持ったソリューションと言えます。
現在は様々な検証が実施されている段階とのことで、今年から本格導入を開始する企業が出て来るのではないかと思われます。
続いてもう1つの例をご紹介します。
こちらはつい先日、1月18日に打ち上げられたJAXAのロケットに積まれていた衛星の3Dモデルです。
これは昨年12月のJAXAの記者発表で用いられたもので、10台のホロレンズを用意して記者の方にこの衛星の3Dモデルを見てもらったそうです。
本物の衛星は他のところにあるため通常は写真などで見せることになりますが、このようにMRで見てもらうことでより多くの情報を伝えることができるというわけです。
例えばこの3Dモデルの衛星の場合、実際には開けられないところを開けて見てもらうことも可能とのことです。
このように、実物が見せられないもの、見せるのが困難であるものを見せるツールとして、MRは多様な可能性が感じられます。
上記の2つの例以外にも多くのMRコンテンツ開発を手がけているポケット・クエリーズ社ですが、技術の面や、また運用の面でも、ゲーム開発で得た技術やノウハウが生きているそうです。
例えば技術的な面では、UI(ユーザーインターフェース)や、MR内に出てくる指示表示などをゲーム的にすることで、分かりやすく直感的な操作が可能になります。
「数年前まではゲーム要素という話をするとネガティブな反応が多かったのですが、最近はゲーム的な要素があったほうがいいよね、というような反応になって来ました」
と、佐々木氏。
また運用面でも、例えば研修トレーニング用のMRコンテンツでは、同僚と点数を競い合うといったゲーム的なシステムを導入することで継続しやすくするなど、「モバイルゲームのソシャゲの仕組みも参考になる」と言います。
ヘッドマウントディスプレイの大きさや重さ、バッテリー駆動時間の問題など、普及にはまだまだ課題があるのも事実ですが、それらはハードの進化やソフトウェアの工夫によって徐々に取り除かれつつあります。
ゲームでの爆発的な普及とはならなかったVR、AR、MRですが、実用業務分野では既に普及の一歩手前、と感じられます。