Tencentゲーミングセミナー第1回「5Gとクラウドによる新しいゲーム体験!テンセントクラウドがもたらすクラウドゲーミングの成功事例」レポート(後編)
著者:シェループ
2019年11月19日、東京・渋谷の「TECH PLAY SHIBUYA」にてTencentゲーミングセミナー第1回「5Gとクラウドによる新しいゲーム体験!テンセントクラウドがもたらすクラウドゲーミングの成功事例」が開催されました。前編のレポートはこちら。
◆3:「OOParts」が拓く日本流クラウドゲーミングの未来
続いてBlack.Inc代表取締役の小川楓太氏が登壇。「OOPartsが拓く日本流クラウドゲーミングの未来」と題した、日本のクラウドゲーミングプラットフォームに関する講演が行われました。
「OOParts(オーパーツ)」に関して簡単に紹介すると、主にアドベンチャー、ノベルゲームを月額定額でPC、スマートフォンなどのデバイスで遊べるクラウドゲーミングプラットフォームになります。
2019年8月30日に一部法人向けのクローズドアルファ版、一般ユーザー向けベータ版の事前受付を開始。本セミナーの後日、11月22日からは一般ユーザー向けベータ版の提供が開始されました。正式なサービス開始は年内の冬頃を予定していて、公式Twitterでは、正式版に追加して欲しいタイトルの募集も行われています。
何故、「OOParts」を始めたのか。きっかけは2019年3月の「Google Stadia」の発表でした。また、Stadia以外にもマイクロソフトの「Project xCloud」、「GeForce NOW」などのプラットフォームが発表され、時は”クラウドゲーミング2.0”とも言える状況になりつつあるのも、きっかけになったようです。
その前に当たる”クラウドゲーミング1.0”、黎明期は2010年頃。当時のSCE、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現SIE、ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が海外のクラウドゲーミングの企業を買収し、「PlayStation Now」のプラットフォームを作ったり、国内初のクラウドゲーム専用機「G-cluster」が展開されるなど、様々なサービスが怒涛の勢いで立ち上がる出来事がありました。
ですが、アイディアとしては面白いものの、技術的なハードルから使えないと言った課題が露わになり、その勢いは衰え、停滞期に突入。具体的には2015年から2017年当たりに空白期間が生じました。
ただ、技術的なブレイクスルーの発生で状況は一変。”クラウドゲーミング2.0”とも言える状況に進展しました。そのようになったポイントとして、1つにユーザー側のハードウェアが専用端末から、あらゆる端末を対象にできるようになったこと。2つにサーバー側のハードウェアをクラウドでできるようになったのがあります。
特に「WEBRTC」、Googleが開発していたWEBブラウザ上で遅延の少ないビデオカンファレンスを可能にする技術が一般化したのが、今日の進展に大きく寄与したとのことです。
かくしてStadiaを始め、クラウドゲーミングのプラットフォームが続々と発表される状況になりました。
そんな中、「OOParts」のサービスはそれらとは正反対のプラットフォームとして誕生。なぜ、正反対の方向性に決めたのか?
それは自分たちのようなスタートアップがGoogleのような巨大なプラットフォームに正面から戦っても勝てるはずがないこと、それらのサービスがAAA級のタイトル、分かりやすく例えるならPlayStation 4などで遊べるゲームにだけフォーカスしているのがあります。
実際にゲームメーカーからも、Stadiaのプラットフォームに対応させるのは困難を伴うとの声が出ており、適度な技術力で実装でき、コストも低めに抑えられるものはないかとの考えから、「OOParts」へと行き着く形となりました。
先の通り、「OOParts」はアドベンチャー、ノベルゲームにフォーカスしています。作品は主に美少女系、2000年代前半に盛り上がっていたものになります。この頃のゲームが対象としていたOSはWindows XPや2000。
Windows 10を始めとする最新のOSでは動かせないものがほとんどです。そのような昔のOSでしか遊べないタイトルをあらゆるデバイスで遊べるようにする。それが「OOParts」の目指す所となっています。
また、コスト削減の観点から、基本的に既存で販売されているゲームを動かすことに特化。コンバートや変換の必要はなく、人件費などの金銭的なコストもかからないようにしています。
また、利益に関しても売れた分だけがそのまま利益になるシステム。主にスマートフォンの市場で出す際、ストアを運営するAppleやGoogleに30%ほど持っていかれるようなこともありません。
さらにクリエイターの表現の自由を大事にする姿勢から、表現面での制約もなし。これもスマートフォンで出す場合ですと、ストアごとに審査を通す必要がありますが、クラウドゲーミングの仕組みを用いることで、審査なしの規制なしのバージョンで遊べる環境を作り上げています。
配信の流れに関しても、基本的にディスク、ダウンロード共にゲームのデータを頂き、契約書を書くだけで終了。クラウドゲーミングへの変換はBlack.Inc側で行うという形になっています。
配信にはWEBRTCの技術が用いられており、基本的にユーザーがWEBブラウザからゲームを起動すると、対象としているOSに準じたWindowsサーバーがクラウド上で起動。新しいOSという壁を飛び越え、現行の端末で昔の作品がそのまま遊べるようになります。
実際にこの流れを紹介する実演も行われ、PCとスマートフォン、それぞれで性能の差を感じさせることなく遊べる様子を確かめられました。スマートフォンでプレイする場合、WindowsのゲームをiOSでプレイするという形になり、メニュー表示などのGUI環境の面で大きな違いが生じますが、この点に関してもズーム機能を搭載するなどの改良を加えるなど、極力不便を感じさせることなく遊べるための取り組みが行われているようです。
8月に行われた法人向けクローズドアルファでは、OSの壁、ストアごとの審査による規制などの制約もなく、そのままの状態でゲームが遊べることに感銘を受ける声もメーカーからあがったようですが、一方で課題も。
1つにサーバーの費用と同時プレイのユーザー数。現状、サーバーはクラウドを使っている関係でAWSで動いていますが、その費用をどうするのか。どうやって1万人、10万人のユーザーが同時に同じゲームを遊べるようにし、起動時間を短縮できるか。中でも後者は同時起動の数に制限があるため、極めて困難な課題です。
現状は使っていないサーバーをあらかじめ起動しておく手段を用いているとのことですが、その分、費用がかかってしまいます。それをいかに抑え込んでバランスを取れるかが難しいと語られていました。
ゲーミングサーバーの基盤技術もクラウドゲーミングにおける最大の課題です。Windowsのゲームであれば、Windowsに詳しいエンジニアが居れば何とかなりますが、GPU……ハイエンドの技術、それを仮想化させる技術を持つエンジニアはあまりにも稀です。
そう言ったWindowsとGPUと仮想技術の双方に長けたスペシャリストをどう確保するのか。率直に言って、リソースの少ないスタートアップには困難を極める話です。
そのため、他社のサービスがあれば、それを用いる手法も取っており、先に講演されたTencent Cloudのサービスも現状、先行体験の形でテストしているとのこと。
自社の独自エンジンとの比較も行っていて、現状、レイテンシー周りに関しては圧倒的にTencent Cloudが強いとのこと。反面、ゲームを起動するに当たってWindowsのデスクトップが表示されてしまうなど、独自エンジンが勝っている部分も一部ある模様。
テスト環境としての提供のため、非公表の部分など検証できてない点もあるようです。ただ、話し合いの中でカスタマイズできれば、異なる道が見えてくるかもしれないとのことで、現状は独自エンジンのまま進めるか、Tencentさんと組むか、いずれか2つのプランを基に実装と経営を考え、試し続けているとのことです。
最後にBlack.Incでは新たな仲間も募集中とのこと。いわゆるStadiaとは正反対の方向で攻めたクラウドゲーミングの可能性を追い求めたい、古き名作たちを現代のハードウェアでも末永く遊べるようにしたい強い思いをお持ちなら、門を叩いてみるといいかもしれません。それを締めに講演は終了となりました。
◆4:大成功したゲーム「PUBG Mobile」裏技術の解説
最後の講演となったのが「大成功したゲーム「PUBG Mobile」裏技術の解説」。Tencent Japanのソリューション・アーキテクト裘彬濱氏が登壇し、ゲーマーすぎる自己紹介を最初に挟みつつ、「PUBG Mobile」の裏側を支える技術の解説が行われました。
バトルロイヤルゲーム「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」のスマートフォン・タブレット版に当たる「PUBG Mobile」は、日本では2018年5月16日からiOS、Android向けに配信が始まりました。
本作はオリジナル版の開発元「PUBG Corporation」と、Tencent Gamesの5大ゲームスタジオのひとつ「Lightspeed & Quantum」の共同開発で制作され、配信から8ヶ月ほどで全世界2億ダウンロードを達成する快挙を成し遂げています。
そんな大ヒット作の裏側、アーキテクチャ周りの詳細を紹介するのが本講演のトピックですが……諸々の事情からそのまま外でお披露目するのは難しいとのこと。
そのため、ザックリ全体の概略を見せ、各部分でどのようなプロダクトを用いているのかを説明する形で紹介が行われました。
上記のスライドに表示されたものが、「PUBG Mobile」のアーキテクチャの概略図となります。見たままの印象では混沌としていますが、システム構成はシンプルで、2つのアーキテクチャ、そして4つのデプロイメントに集約されています。
また、複数あるプロダクトの一つ、ゲーム内データベースに用いられている「TcaplusDB」はTencent Gamesのもので、非SQL文で構築された作りになっているとのこと。また、各種サーバーはゲーム用、チャット用など、それぞれの役割を与えたものを適切な箇所へと配置しています。
また、管理用のサーバーをアメリカのシリコンバレーに設置。ゲームプレイ時は、プレイヤーが今いる国に最も近いゲームサーバーにアクセスして対戦する分散形式となりますが、主にロビー、マッチングなどの対戦に直結しないパートは、シリコンバレーの管理サーバー群へとイントラネット通信でアクセスするようにし、ユーザー関連情報の保護やリアルタイム同期を図るようにしています。
そんなネットワーク周りも含めた、「PUBG Mobile」のテクノロジーの概略へと話題は移行。4つのテクノロジーに分ける形で紹介されました。
まずインフラ周り。先ほどのTencent Cloudの黎國龍氏の講演でも紹介されましたが、グローバルに25個のリージョンと53個のアベイラビリティーゾーン……通称AZこと物理データセンターを設置し、プレイヤーの国籍に応じた管理が行われています。
昨今、リージョンとAZの数は増大傾向にあり、2017年頃は1年1リージョンだったのが、最近は1ヶ月に1AZというハイペースになっているとのこと。東京に関しても現時点では1個だけですが、来年には2つ目が出てくる可能性があるようです。
次にネットワーク全般。「PUBG Mobile」のみならず、オリジナルのPUBGもですが、ゲーム中ではアイテム、マップが頻繁に更新が行われます。そんな更新されたパッケージは世界各地に1100個以上置かれた「Content Delivery Network(CDN)」のノードとそのサービスを用い、プレイヤーへの迅速な配信を実施しています。
帯域幅も10テラ以上を確保、さらに2Tbpsの自動防御力を要しており、単一のシリアルノードも100ギガの防御能力を要しているとのことで、個々のユーザーに快適なゲームプレイを提供するための技術面の惜しみない総投入がうかがえます。
続くセキュリティ周りに関しても、徹底した防御態勢を構築。特にPUBGに限らず、ネットワークを介したゲームにおいて問題として上がるのが、大量のPCから1つのサービスへDoS攻撃(※大量のリクエストや大容量データの送り付け、脆弱性を突いての処理改ざん)を一斉に仕掛ける「DDos攻撃」です。
Tencentのエンジニアに訊いたところによれば、100Gレベルのものは現時点でないようですが、それでも頻繁に攻撃は受けている模様。ただ、いずれの攻撃も「Anti-DDos」と呼ばれるプロダクトで防いでいるとのこと。
どのように守っているのか、簡単に紹介するとユーザーへ行くトラフィックをスクレイピングセンターへとミラーリング。トラフィックの検査が行われます。そこで万が一、異常なトラフィックを検知した時は、スクレイピングセンターにてクレンジングを実施。そして正常なトラフィックだけを戻し、ユーザーのシステムに行くようにしています。
異常トラフィックの検知率は99.995%と非常に高く、2018年4月3日、とあるカードゲームで37分間に渡って実施されたDDos攻撃(※ピーク値は1.23Tbpsで、中国のゲーム業界においては史上最大規模)も防御。その信頼性の高さが察せる実例です。
最後に取り上げられたのがゲーム音声。ゲームプレイ中、仲間と共に話したくなった際、これまでの場合はSkype、LINEなどのソフトウェアを使うことがほとんどでしたが、Tencent Gamesが要するプロダクト「Game Multimedia Engine(GME)」を用いると、ゲーム内でオンラインのボイスチャット機能を実行できます。
このテクノロジーはiOS、Androidもサポートしているほか、ゲームエンジンも「Unity」、「Unreal Engine」を始めとする著名なものを網羅。50%ほどのパケットロスが生じても流ちょうに通話が行えるよう、システム周りの工夫も行われているとのことです。
「PUBG Mobile」のテクノロジーに関する紹介はここまでとなります。最後に裘氏から、
現状、70%以上の会社がTencent Cloudのサービスを利用しており、日本のゲーム会社さんにも機能面、品質面でお薦めでき、Tencent全体としても中国のゲーム市場においては企画に開発、運営はもちろん、色んなサービスを提供できるほか、IPの育成、プロモーション、周辺ビジネスのノウハウも多く持っているので、必ず何かしら皆さんの心を掴めるものがあるはずとコメント。
弊社の話を聞いていただき、クラウドに限らず、全体のビジネスを捉えてくれると嬉しいと思うことを話されました。
そして、「ゲームから生まれ、ゲームを極めていく」のキャッチフレーズが載ったスライドが表示され、講演は終了となりました。
5Gに関しては、今年度の「東京ゲームショウ」でもトピックの一つに取り上げられていました。しかしながら、ゲームと5Gの繋がりに関し、主にユーザー間においてはSQOOL代表の加藤の講演でもありました「何が起きているのかよく分からない」のが実情です。筆者も正直なところ、ピンと来ていないところがあります。
ですが、「Google Stadia」を始めとするクラウドゲーミングプラットフォームの本格的な台頭、Tencent Gamesが今、取り組んでいる仮想化技術の発展と普及によって、より分かりやすい変化を感じられる時は迫りつつある印象です。
数年前までは、「まだ早い」「普及するとは思えない」との見方も少なくなかったクラウドゲーミング。同じような見方をされながらも、今や大きな市場を形成するに至ったアプリゲームに続く例になるのか。特に来年以降は一連の動向から目が離せません。