【レポート】黒川塾70「eスポーツの明日はどっちだ VOL.3」

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 著者:岡安 学 

6月25日、デジタルハリウッド大学にて、黒川塾70が開催されました。今回のテーマは「eスポーツのすべてがわかる本」出版記念 「eスポーツの明日はどっちだ VOL.3」です。

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黒川塾では何度かeスポーツをテーマに開催しており、3回目のeスポーツテーマでの開催となりました。今回は、6月20日に発売した「eスポーツのすべてがわかる本」に合わせ、本の執筆に協力した、色摩茂雄氏(浅井企画)、平岩康佑(eスポーツキャスター)、但木一真氏(eスポーツアナリスト)、木曽崇氏(国際カジノ研究家)の4人を迎え、現在のeスポーツ、今後のeスポーツについて語られました。

【レポート】黒川塾70「eスポーツの明日はどっちだ VOL.3」

まず、主催の黒川氏も最近気になっている中国情勢から。ちょうど平岩アナウンサーが3日の強行軍で深圳を中心に中国を巡ったときの話からスタートしました。

元々は平岩アナウンサーの事務所にアニメ歌手が入ったことで、中国へプロモーション活動を行ったのが目的でしたが、その足で中国のeスポーツ事情の視察も行ってきたそうです。

中国ではeスポーツの人気が高く、毎日のように試合が行われているにも関わらず、翌日や翌々日などの試合のチケットを購入することができないほどとのこと。しかもチケットにはプレミアがついており、1万円くらいのチケットが20万円くらいに跳ね上がっていたそう。

それだけ人気のeスポーツなのでeスポーツキャスターの人気も高く、年収5億5000万円くらいは普通に稼いでおり、最高額は7億円を超える人もいると言います。

ただ多少盛っている部分もあるそうで、但木氏によると、同じようにeスポーツキャスターの年収が7億円の人がいるという話は聞いているが、配信動画の視聴者は数千人、数百人クラスがほとんどで、eスポーツチャートを見ても中国はそれほど入っていないので、大げさに言っているかも知れない、とのことでした。

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それに対して平岩アナウンサーも、中国では虎牙というチャートに入らない動画配信サイトがあり、そちらでは260万人くらいの視聴者があり、かなりの人が観ている、と説明。
ただ実際に現場の人に聞いてみると、その数値も水増しされたものらしく、実際はその10分の1くらいの人数ではないという話だったそうです。それでも26万人は観ていることになりますので、日本に比べれば遙かに視聴者数が多いのが分かります。

中国が話題になったところで、日本の新しいeスポーツ団体である日本eスポーツ推進機構(JEF)の話題に。木曽氏によると国内タイトル中心のJeSUでは、中国資本の大会を日本で開くことは難しく、JEFはその中国資本に後押しされているからできることが違うと言います。

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黒川氏もちょうどJEFに取材を行っており、同じような印象を持っていたそうです。

年収5億の話が飛び出した中国eスポーツ事情ですが、日本の芸能界ではトップクラスのタレントでもその年収を得る人は少ないのが実情です。その芸能界でeスポーツに関わっていこうとする浅井企画の色摩氏に話が移りました。

色摩氏曰く、

「今、eスポーツをやってもほとんど儲けることはできない。テレビのeスポーツ関連の番組に主演したり、イベントなどに出演し、これまで通りタレント活動としてギャラを貰うしか手段がない」

とのこと。
しかも、テレビ番組もeスポーツ関連のものは少なく、あったとしてもすでにメンバーは固まっており、ひな壇のような形にもなっていないので、新規で入りにくい。イベントも少なく、その少ないイベントも椿姫彩菜さんだけが重宝されています。

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また浅井企画でゲーム部を作ってみて感じたのは、タレントが自称するゲームのうまさや知識度合いと、番組やイベントで求められるうまさや知識度合いに乖離があるということです。
ゲームがうまいと思っているタレントに実際にプレイしてもらうと実は大したことはないということがあります。それでも仲間内では断然うまいので、自分はゲームがうまいと勘違いしてしまっているわけです。
しかし、eスポーツ番組で求められるレベルはそんなものではありません。eスポーツのトッププレイヤーの実力は段違いなのですが、それを感じられないので、大した腕がなくても強いと思ってしまう、それがタレントにも視聴者にも伝わっていない、のが問題かも知れませんと色摩氏。
つまり、eスポーツのトッププレイヤーの本当の凄さが伝えられていない、ということです。

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更に色摩氏は、eスポーツに携わってみて新たな発見もあったと言います。

それはプレイヤーの成長を見守るという視聴者が少なからずいるということ。ゲームの初心者である奥村芙実のゲーム配信は48回を数え、今では数百人が視聴するコンテンツとなっています。

もともとRAGEのストリートファイターVアーケードエディションの企画に参加した奥村さんでしたが、結局1勝もすることなくイベントは終了しました。ただ、チームは決勝まで残り、どのチームが優勝するということと同時に、

「奥村がいつ勝つのか」

というのが見どころになっていました。

その後、大学対抗戦で念願の1勝をあげることができましたが、その時の盛り上がりは、ただの1勝の盛り上がりではなかったそうです。

「ゲームプレイヤーは強いことが存在価値のひとつではありますが、成長をみせるという別の観点を見つけた好例となった」

と色摩氏は述べていました。

その様子は完成したプロ選手のプレイを観るだけでなく、成長途中である高校野球や箱根駅伝を観るものと通じるものがあるわけです。

また浅井企画以外の芸能事務所もeスポーツに手を出していることについての現状を黒川氏が質問したところ、吉本興業以外は人員を出しておらず、投資をせずになんとかしようとしているのが見て取れるといいます。
当然ながら芸能事務所に所属している人はゲームに詳しくなく、ゲーム会社への就職も考えた色摩氏とは、考えも、知識の質も違うことが露呈してしまっています。

芸能事務所でもまだeスポーツで収入を得ることが難しい現状について、木曽氏は「打開策はスポーツベットしかないと」回答しました。
Jリーグの放送権を購入したDAZNは元々スポーツベットの会社。それだからこそこれまでの10倍の値段を払ってでも放送権を購入しました。

日本ではギャンブルにすることが難しい実情がありますが、なんとか還元できる方法を考えており、今は福引きのシステムを使用し、それを展開することを画策している、と木曽氏。

平岩アナウンサーも、eスポーツに関わるうえで、他の業界からお金が入ってこないと儲かるのはIPを持つゲーム会社だけになると指摘。ゲーム会社もそれ以外のeスポーツに関わる会社も儲かるエコシステムが必要だと訴えました。

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最後に黒川氏が音楽市場の現状と照らし合わせ、

「市場が小さくなっていてもライブイベントは伸びており、eスポーツもその方向を目指すべきてはないだろうか」

と提言し、黒川塾70「eスポーツの明日はどっちだ VOL.3」は閉会となりました。

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著者:岡安学(オカヤスマナブ)
デジタルライター/Allaboutデジカメガイド
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)。
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