ChinaJoy2023は成功だったのか?4年ぶりに参加したChinaJoyの様子と感想
著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
アジア最大級のゲームの展示会、ChinaJoy。中国の上海で7月28日から31日まで開催されたChinaJoyは、コロナ禍前とほぼ同水準の33.8万人の来場者を集め、成功の内に終幕しました。
というのが、公式や各メディアから発表されていますが、果たしてそうだったのでしょうか。
SQOOLはChinaJoyの公式メディアパートナとして8年ChinaJoyの様子を見てきましたが、報道されている状況とは異なる印象を持っています。
長年中国のゲーム業界と世界を繋いでくれているChinaJoyに感謝すると共に、この記事では筆者の率直な感想を述べたいと思います。
日本からの参加者はVISA免除停止が影響
ChinaJoyへの日本からの参加は、元々はそれほど多くはありませんでした。
筆者がChinaJoyに参加し始めたのは2016年からですが、当初は日本人があまりおらず、筆者は台湾人のグループに混ぜてもらって行動していました。ChinaJoyの規模と比べて日本人が少ないのは残念だな、と感じていました。
その後中国のゲーム市場の急激な成長に伴い日本からの参加者も段階的に増え、コロナ禍前の2019年にはかなり多くの日本のゲーム業界関係者がChinaJoyに参加していました。
今年は日本から中国への渡航にはVISA免除が停止されているためVISAの取得が必要ということもあり、またビジネスVISAの取得には中国企業からの招聘状(Invitation letter)が必要と、若干ハードルが高く、日本からの参加は限定出来でした。
それでも中国在住組と合わせて日本からの参加も数十人程度はあったようで、日本人対象のアフターパーティーも開催されていました。
あれ?人が少ない?
コロナ禍前、日本から参加できた最後のChinaJoyは2019年でした。そのChinaJoy2019への来場者数は公式発表で約36.5万人。それに対してChinaJoy2023の来場者数は公式発表で33.8万人。コロナ禍後の開催としては大健闘と言える数字でしょう。
ChinaJoyは新型コロナウイルス蔓延の影響で、2020年、2021年は開催はされたものの、ほぼ中国国内からの参加に限定され、2022年はオフライン開催を断念しオンラインで開催されました。
それを経てのChinaJoy2023でしたが、筆者の第一印象は、
「あれ?ChinaJoyなのに人が少ない」
ChinaJoyといえば、広大な会場に多くの来場者が詰めかけ、人、人、人、というイメージでしたが、今年はそんな様子は見られませんでした。
事前の情報ではBtoCのチケットは前日売り切れている、と聞いていましたので、コロナ禍前と同程度の人波を想像していたのですが、どうも様子が違います。
会場の外は明らかに人が少ない。
上海にはちょうど台風が迫ってきていて、直撃はしなかったものの悪天候下にあり、その影響もあったと思います。
しかしそれにしても、例年なら夕方には入場規制がかかっていたほど混雑する地下鉄にも今年はすんなりと入場できましたし、ゲーム業界関係者の待ち合わせ場所として多くの人で埋め尽くされていたKERRY HOTELも閑散としていました。
BtoBは会場が2ブースに限定され、出展事業者の獲得に苦労したのでは、と感じました。
中国でゲーム事業を営む友人などに聞いたところ、
中国企業は現在決して景気が良いという状況ではなく、経費削減を考えている会社も多く、ChinaJoyへの出展費用を考えるとあまり出展に積極的ではないのではないか。
とのことでした。同様の感想は複数の中国ゲーム関係者からも聞かれました。
中国は不動産から端を発した不景気の雰囲気が、IT業界、ゲーム業界にも波及しており、実際にゲーム業界でも失業率が上昇し、職を探しているエンジニアが増えている、とのことです。
この景況感は今回のChinaJoyにも少なからず影響したでしょう。
海外からの出展については、中国の国内ゲーム市場への規制強化などが影響したのかもしれません。あるいはイベントが世界的にオフラインからオンラインに移行する流れに中国も乗っているのか。
会場外の広告
ちょっと変わったところで筆者が気になったのは、最寄りの地下鉄駅や会場外にゲームの広告が見当たらなかった。筆者が確認した範囲では1つも広告を見かけませんでした。
屋外の広告については2019年時点で少しずつ減ってはきていました。これはオンラインの広告へ移行していったり、ということが考えられます。しかし今年の会場外の広告の無さはかなり極端で、ゲームの広告に対してなんらか規制が入ったのかと考え、中国ゲーム関係者複数人に聞いてみたところ、
他の駅などには広告もあるし、規制が入ったとは聞いていない。単純にゲーム会社が予算を絞っているか、あるいは、会場が広告の募集をしなかったのではないか。
とのことでした。
中国はゲームに対する規制が強化されているので、外に広告を出さずにこっそりと開催したかったのでは?
という業界関係者もいました。
いずれにしても、コロナ禍前には華やかに掲示されていた会場周りの広告は今年はありませんでした。
BtoCの様子
全体として人が少なく感じたChinaJoyでしたが、BtoCはそこそこ人が入っており、盛り上がっている、といっても良い状況でした。とはいえ、以前と比べるとやはりそこまでの熱狂感はないと感じました。
原因としては前述の中国経済の景況感や会期中の悪天候もあると思いますが、中国のゲーム仲間が教えてくれたのは、ChinaJoyの直前に上海で開催されたCCG Expo(7月13日〜16日)やBilibili World(7月21日〜23日)の影響でした。
若いゲームファンはCCG Expoや、Bilibili Worldに参加した方も多く、そちらに来場者を取られてしまったのでは、という意見は、複数の中国ゲーム業界関係者から聞かれました。
しかし冒頭でも述べた通り、BtoCのチケットは事前に完売していることを考えると、コロナ禍明け、ということもあって運営がチケットの枚数を制限したのかもしれません。
一方で、中国のネット上のフリーマーケットにはChinaJoyのBtoCのチケットが多く出回っていたようで、転売されたチケットの枚数は不明ですが、いわゆる転売ヤーによって正しくチケットが行き渡らなかった可能性もあります。
いずれにしても、2019年まで感じていたChinaJoy会場からの底知れない熱気や活力、といったものは今年に関しては少し減退したのではないか、と筆者は感じました。
それでもChinaJoyは重要なイベント
ではChinaJoyは衰退しているのか、と言われれば、筆者は明確にNo、という回答です。
20周年を迎えるChinaJoyが、中国のゲーム業界とゲーム市場の黎明期からそれを引っ張ってきたことに間違いはありません。
SQOOLのような小さな媒体が公式として遇されているのも、ChinaJoyの公平な運営姿勢があってこそですし、日本からの参加を歓迎し丁寧にサポートする姿勢はゲーム市場の国際化を見据えた、先見性のあるものだったと思います。
ChinaJoyのその理念は、実際に今年ChinaJoyの会場に行って広報担当者やその他運営の関係者、プレスルームの記者の方々と交流などを経てみれば、今なお続いているものと確信します。
海外からのメディアの参加を歓迎し、そして発信する情報の規制や内容への圧力、要望などは一切ありません。むしろ、様々な視点で海外のメディアがChinaJoyを論じることに感謝している風ですらあります。
中国のゲームは今や一部では日本を超えるほどの品質のものが出てきています。その実力はほとんど日本と同等か、ジャンルによっては日本を超えているものもあります。
また中国ゲーマーの中には日本ゲームファンも多くおり、以前のような違法ダウンロードではなく、ストアからきちんと購入し、その収益は日本のゲーム業界にとって大きなものになりました。
ここに至るまでには、ChinaJoyのような中国国内での継続的な取り組みが大きな意味を持ってきたことでしょう。
今年は少し熱が冷めたようなChinaJoyに感じましたが、それでも海外からの参加が全くできなかった2020年、2021年に比べるとかなり盛り上がってきている、と聞いています。
来年は願わくば、日中間の関係がより改善し、日本からの渡航にVISA免除が再開され、多くの日本人がChinaJoyに参加できれば、と思っています。