【レポート】黒川塾63「海外eスポーツ事情とeスポーツの未来に向けて」
著者:岡安 学
東京ゲームショウ開幕前日となる9月19日、東京都内にて「黒川塾六十三」が開催されました。
今回の黒川塾は「海外eスポーツ事情とeスポーツの未来に向けて」と第して、主宰の黒川文雄氏、ゲームエバジェリストの谷口純也氏、プロゲーミングチームDeToNator代表江尻勝氏、カジノ研究家の木曽崇氏の4人が登壇し、それぞれの立場から海外のeスポーツ事情について語られました。
まずは『カウンターストライク』で世界トップレベルのプレイヤーとして活躍し、現在ゲームエバジェリストとしてNVIDIA eSportsに所属する谷口氏が自らの経験を紹介しました。
谷口氏はまだeスポーツという言葉が浸透するずっと前から、ゲームプレイヤーとして海外で活動した経験を持つ先駆者的存在です。
谷口:カウンターストライクは2003年からプレイし始めました。当初はeスポーツとしてプレイするつもりではなく、純粋にゲームを楽しみたかったという感じです。
高校を卒業してからスウェーデンにゲーム留学のような形で渡航し、eスポーツプレイヤーとして活動し始めていました。
その頃は日本と世界のレベルの差がありすぎて、日本でやっていては勝てないと思いました。日本でチームを組もうとしても、チームの5人が5人とも世界を相手にしても勝つという高いモチベーションを持った人を集めるのは至難の業でした。
その高いモチベーションを元に練習できるメンバーは、結局日本にいませんでした。
そこからもう他人をあてにせず、そういったレベルの人たちがたくさんいる土地として、その時一番カウンターストライクが強かったスウェーデンへの留学を決めたわけです。
スウェーデンの留学も難しいものでしたが、なんとか学生ビザで留学できました。
現在でもゲームで留学をする環境が整っているとは言えませんが、谷口氏が渡航した当時はさらに苦労が多かったといいます。
谷口:スウェーデンでの生活は非常に大変でした。移民が多い土地柄で、国民は高い税金を移民対策に使っていました。そのため私も移民と見られることが多く、スウェーデンの人たちからヘイトっぽいことを言われることもありました。
国としても厳しく、国民番号が無いとなにもすることができません。学校に頼るしかなく寮に入ってそこを頼り切っていました。
日本が好きなスウェーデン人とIRCチャットで仲良くなり、空港まで迎えに来てもらって、チームを紹介してもらってなんとか活動することができていました。
それだけ厳しい環境にありながらも、現地に行って活動することには大きな意味があると谷口氏は言います。
また木曽氏は、日本のネットワーク対戦におけるユーザー数の問題を指摘しました。
木曽:世界と同質的な展開をする必要はないと思います。eスポーツの展開が日本独自でも問題ないと思います。ただ日本はコンソールゲームが中心なので、(eスポーツタイトルにおいて)世界とクロスオーバーしにくい。(eスポーツは)ネットワーク対戦が中心なので、マッチングできないと廃れてしまう。日本ではプレイ人口が少ないので、世界的に見るとこの環境は不利と言えるでしょう。
また江尻氏も同様の問題を指摘し、日本のプレイヤーが海外へ出ていくことの重要性について述べます。
江尻:(日本の)ネットワークの問題は難しい。日本で強くなっても練習相手が見つからない。強い対戦相手を求めて海外のプレイヤーと対戦しようとしても、ネットワークの都合上それも難しいわけです。そうなるともはや日本人プレイヤーに残された道は海外に出て行くことしかない。日本の代表になって世界に行くということではなく、世界に行くというのは世界の中で戦うということなんです。
結局谷口氏は日本ではプレイ環境が無く対戦相手がいないとこから海外に行く以外の選択肢はなかったわけです。
当時はネット環境が今よりもかなり悪く、メインの回線は光回線ではなくADSLでした。日本以外の国との接続だと韓国の一部のサーバーがギリギリ通信品質上の許容範囲内という状況で、その他の国との接続ではラグ(時間差)が発生してしまい、まともに対戦することは不可能でした。
谷口氏が留学先として選んだスウェーデンは北欧に位置し、ヨーロッパなどの他の国と陸続きであったため国境をまたいでの移動も比較的容易で、様々な国のプレイヤーと対戦することができたという事情もありました。
反面、日本は島国であるため海外からの対戦相手に恵まれておらず、世界水準のプレイ環境を得るには、海外を活動の拠点とする以外の選択肢がなかったとも言えます。
日本のゲームメーカーがリリースするタイトルの世界展開に関しても、日本のeスポーツの現状による課題があると言えます。
江尻:eスポーツは競技としては海外が中心。日本ではストリーマーが中心ととなってゲームを紹介していく展開です。日本の独自のeスポーツの動きと言えますが、これでも良いのではないでしょうか。今の動きは自然だと思います。
また司会の黒川氏は、日本のeスポーツの展開として、プロライセンスの発行がプレイ人口を減らしているのではないかと指摘し、更にスポーツ大会を開催するハードルの高さにも言及。
黒川:例えばゲーム大会を開こうとしてもパブリッシャーに許諾を取る必要があり、それが叶わず開催できないことがあります。許諾が取れたとしても高額な許諾料が待っていることもあります。この状況はいわゆる野良大会の開催を難しくし、結果的にeスポーツのプレイ人口を減らしてしまっているのではないでしょうか。
木曽氏もこの問題について次のように語りました。
木曽:許諾は必要であることは確かです。ただJeSU(日本eスポーツ連合)は野良大会を誰でも簡単にやれるように働きかけをすると名言していたのに、それがまだできていません。現在はオリンピックへの参加など門外漢のことをやっていて、本来得意な方ができなくなっています。
JeSUがなすべき役割はそこ(野良大会の開催支援)ではないでしょうか。ただ、汗かき役で実りが少ないのも事実なのが痛いところです。
続いて、eスポーツ大会の開催運営についても、記録を保全したりそれを閲覧できるといった仕組みが無いのではないかという問題が指摘されました。
江尻:eスポーツのチームを運営する側は、数字の重要性は理解しています。2014年頃から取り始めています。ただ全てのチームやプレイヤーがデータを用意しているかというと、ほとんどは用意しておらず、彼らを支援する、支援しようとしている企業側から苦情が出ています。
そういった状況なので、大会の運営側に数字を出すように聞いても用意することができないんです。数字は出せないですけどお金をください、というのがほとんど。
今はeスポーツがブーム的に持てはやされていますが、それでも企業はそう簡単にお金は出すことはできないんです。数字もビジョンもなく、スポンサー待っています、ではすぐにそっぽを向かれてしまいます。
江尻氏は更にプレイヤー側の問題について次のように語ります。
江尻:選手側からゲーミングハウスの用意や給料の有無に関してよく要望が出ます。環境を整え、ゲーミングハウスを用意し、給料を出してもさらに文句は出てきます。挙句の果てにはセカンドキャリアの用意まで要望してきます。
それらの要望はしてきますが、では結果を残せているかというと残せていません。海外のようなもっと良い環境にすれば勝てるという言い分もありますが、結果を出すかどうかは未知数です。
海外の環境を羨むのであれば、個人で海外へ打って出るしかないわけです。もしくは勝てるというデータを用意して、投資してくれる側が納得するだけの数字を出す必要があります。それができずにいるのが現状です。
「投資しても結果を出せないのはプロではない」と江尻氏は語気を荒げていました。自ら道を切り開いてきた江尻氏だからこそ言えることでしょう。
更に江尻氏は、遅れていると言われている日本のeスポーツ事情についても言及しました。
江尻:日本はeスポーツが遅れていると言ってもそれは全てではなく、進んでいる部分もあると思います。RAGEはエンターテイメントとして最高峰と言って良く、シャドウバースは世界規模の大会としてもトップクラスの1億円の賞金を出しています。DMMはPUBGで3部リーグまであり、1部リーグはファイトマネーも出し、オフラインで80台のPCを用意して大会を行っています。全般的に遅れている部分もありますが、一概に遅れていると言うのはおかしいでしょう。
アジアに目を向けてみると事情もまた関わってくると木曽氏。アジア大会ではほとんどのタイトルはテンセントの関わっているタイトルであることを指摘します。
木曽:自国が得意な競技を入れるのは当然の流れ。今度冬季オリンピックで麻雀を入れると言っていましたが、それも同じ流れです。(リアルな)スポーツでも自国の有利な競技を選ぶ、日本の空手とか野球とかも同じです。
一方で国際統一ルールも必要です。それを管理する団体を作らなければなりません。ただゲームはIPホルダーがいるので、そこは難しい。そのあたりはオリンピックに究極的に合わないと思います。その問題で放映ができません。アジア競技大会でウイイレだけが放映できたのは、コナミが日本企業だったからです。
関連して、オリンピックの競技としてeスポーツが採用されるかどうかという話に移ります。
江尻:オリンピックやアジア競技大会、国体をやるのは盛り上がるのは分かりますが、そこは通過点であって、そこを目指すものではありません。
木曽:IOCのバッハ会長もeスポーツには懐疑的で、特にキラーゲーム(人を殺すアクションがあるゲーム)の採用はありえないと発言しています。さらに(女性キャラなどの)性的表現の問題も考えると、それこそ『ハイパーオリンピック』で争うしかないとの意見もあります。
既存のタイトルの中にはeスポーツとして扱うのが難しいものもある以上、今後はeスポーツを見据えたタイトルの開発をするゲームメーカーも出てくるのではないか、と木曽氏は締めました。
今回の話から見えてきたのは、eスポーツは選手側、投資する側のどちらの立場に立ってもビジネスモデルが確立しているわけでは無いということです。eスポーツの選手になれば、投資を行えば、それだけ安泰になったり、濡れ手に粟で儲かるものではないということです。
オリンピックの競技となる可能性についても、オリンピック側とIPホルダーのビジネスモデルとの相性が悪いという大きな問題の存在のも明確になりました。現在ブーム的に注目されていますが、eスポーツを事業として継続していくには相応の努力や投資、ビジネスとしての設計が必要であるわけです。どの立場にあったとしても、eスポーツに携わりそして継続していくには、世界を見据えることを含めて如何に本気であるかが重要なのかもしれません。