【フィンランドゲーム会社探訪記】「オウルゲームラボ(OGL)」を軸に企業や学校が緊密に連携するオウル市のゲーム業界
著者:小野 憲史
人口約20万人に対して大学生の数が約2万5千人を数えるフィンランドのオウル市。
「ポーラー・ベア・ピッチング」をはじめとした自治体の支援策もあり、スタートアップの集積が進んでいます。
※2018/03/27 11:22、いくつかの表現を修正しました。
ゲーム業界でも同様で、オウル市にはパブリッシャーからインディまでさまざまな規模の企業が存在。
スーパーセル、ロビオに続く国内第3位のゲーム事業者で、オウルに本社をかまえるFINGERSOFT(フィンガーソフト)を訪問しました。
オウル市最大のゲーム会社「FINGERSOFT」社内にはサウナ室も
モバイルゲーム『HILL CLIMB RACING』シリーズで大ヒットを記録し、急成長を果たした同社。
案内してくれたのはパブリッシングバイスプレジデントの肩書きを持つDaniel Rantala氏です。
社屋を移転したばかりで、工事中のところもありましたが、いたるところがピカピカと輝いていました。
約50名の社員数をかぞえ、将来的に社員数300名を目指している、オウルで最大規模のゲーム会社である同社。
広い玄関ホールに、社内セミナーなどが開ける巨大なセミナールーム、そして地下にはストレス解消と体力作りに役立つジムとバーコーナーなど、社内設備の充実ぶりはピカイチです。
フィンランドの企業らしく、社内にサウナ室もあります。
日本に留学経験があるDanielをはじめ、経営陣に親日派が多い同社。
棚には初音ミクの縫いぐるみも飾られていました。
東京ゲームショウをはじめ、定期的に訪日して日本の事業者とミーティングも行っているそうです。
一方、オウル市にはFINGERSOFT以外にもさまざまなインディゲーム会社が育っています。
次のFINGERSOFTを目指すオウル市のデベロッパー
ビルの地下にスタジオを構え、秘密基地の様相を呈するのがKaamos Games(カーモスゲーム)です。
Kaamosとはスカンジナビア半島北部に住む先住民サーミ族の言葉で、極夜(白夜の反意語で、日中でも太陽が沈んだ状態のこと)を意味しています。
オウルは世界中でオーロラが見える最南端の街としても知られています。
入り口にも日本語で「オーロラの下でクールなゲームが産まれる」と記されていました。
同じフロアに入居するインディゲーム4社のまとめ役もしているKaamos Games。
必要に応じて連携し補い合うなど、ゆるやかなネットワークを築いています。
CEOのVille Helttunen氏は国際ゲーム開発者協会(IGDA)オウル支部の世話人も務めています。Kaamos Gamesがオウルゲームラボ発のスタートアップ企業ということもあり、Ville Helttunen氏はオウルのゲーム開発者コミュニティにおけるキーマンの一人だといえるでしょう。
ローグライクなツインスティックシューター『GERTY』を開発中のGARTY GAMES。
森の動物たちが主役のシミュレーションRPG『Army of Squirrels』を開発中のSpawn Point。
インディゲームのデジタルマーケティングに特化したKuvion。
こうしたインディから、明日のFINGERSOFTが生まれてくることが期待されています。
オウル市の特徴的な産学官連携施設「オウルゲームラボ(OGL)」
冒頭で記したとおり、人口の約1割を大学生が占めるオウル市。
その中でもゲーム開発者教育に特化しており、世界的に見てもユニークな教育機関がオウルゲームラボ(OGL)です。
オウル応用科学大学の専門プログラムの一つで、学生は半年から1年をかけてチームでゲーム開発について学びます。
もともとOGLは2012年に産学官連携によりスタートした経緯があり、地元企業との結びつきが非常に強い点が特徴です。
GlobalGameJam2018ではオウル会場としても活躍。
FINGERSOFTがOGLと同じ敷地内にオフィスを移転したことで、その連携はさらに緊密なものになりました。
学生数は約40名で、半年を1ターンとしており、はじめに2人1組のチームを作ってゲームの企画書をプレゼンテーションします。
その中から優秀な企画が半分選ばれ、選考に漏れた学生が残ったチームに振り分けられて、次のステップに進みます。
このような選考を数回繰り返して、最終的に3本のゲームが選ばれます。
その一方でプログラムやゲームデザインといった座学が行われ、学生は必要に応じて授業を受ける仕組みです。
スタッフは常勤講師が2名、非常勤講師が6名で、プログラムやアートなどの各分野を担当します。
非常勤講師はFINGERSOFTをはじめ、産業界のプロが直接指導します。
ちなみに業界就業率は100%なのだとか。
1学期(4~5ヶ月)で30単位、2学期で60単位を取得でき大学院に進学する場合は、単位に当てることもできるとのことでした。
ゲームを遊びながら学生同士で交流するスペースもありました。
授業はすべて英語で行われ、EU圏内からの留学生が1割程度いる他、その他の地域からの留学生も参加しています。
ちなみに半数以上はプログラミングやデザインのスキルを持っており、そのうえでゲームビジネスを学んでいます。
横の繋がりが強いフィンランドのゲーム開発者コミュニティ。
オウルでも同様で、IGDAを中心にさまざまなイベントが開催されています。
筆者が訪問した2018年2月6日も、ネットワークパーティが開催されました。
OGLからも開発中のゲームが出展され、多くの人々に遊ばれていました。