【レポート】第7回シリアスゲームジャム「シリアス・ギルダーズ奮戦記」

 イベント取材 
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著者:小野 憲史

日本デジタルゲーム学会教育SIGが2018年12月9日・16日・17日に国立情報学研究所で開催した「第7回シリアスゲームジャム」。シリアスゲームジャムは専門家とゲーム開発者と学生が力を結集し、3日間でシリアスゲームを制作するゲーム開発イベントですが、筆者も開発チームの一員としてガッツリ、シリアスゲーム作りに挑戦しました。
すでに9日に行われた開会式の模様はレポートされているので、ここでは参加者の視点で16日と17日の開発の模様を報告します。

【レポート】第7回シリアスゲームジャム「シリアス・ギルダーズ奮戦記」

今回のシリアスゲームジャムのテーマは「障がい者と健常者が同じ土俵で戦えるゲームづくり」で、約30名の社会人と学生が参加。合計6チームに分かれて、約30時間でゲーム作りが行われました。

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その中でも筆者が参加したチーム「シリアス・ギルダーズ」は、オランダのインディゲーム開発者で2Dアーティストのモーリー・キャロルさん(右端)を含む5名によるチーム。英語と日本語がチャンポンで飛び交う国際色豊かな開発シーンとなりました。

以下、リーダー兼プログラマーをつとめたのは、唯一の学生参加者となった西澤洸紀君(左から2番目)。リサーチャーの青木一晃氏(左端)、3Dアーティストの三代大氏(右から2番目)、そして筆者となります。

視覚障がい者も聴覚障がい者も片麻痺も健常者もみんなまとめて競えるゲームを作る!

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開会式に続いて行われた企画会議では、基調講演をつとめた濱田隆史氏(ギフトインダストリ)が明かした「視覚障がい者と聴覚障がい者が共に競えるゲーム作りは難しい」という一言がテーマになりました。

であれば、音と振動で情報を伝え、目をつぶっても遊べるリズムゲームであれば問題が解決するのではないか……。そこから「タブレットを上下分割してプレイする対戦ランゲーム」というアイディアへと展開していきました。

また、せっかく2Dアーティストと3Dアーティストがいるので、背景は3D、キャラは2Dの2.5Dスタイル風のゲームにしていくことになりました。

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上記は開会式終了後に企画会議の内容をまとめて、筆者が描いたラフスケッチです。これをメンバーで共有し、各自がアイディアを練ったり、リサーチを進めたりすることにしました。

その間に西澤君がUnityでプロトタイプを開発するという快挙を達成してくれました。ラフスケッチがそのまま形になっています。ゲームジャムの開会前にプロトタイプができているなんて、なんて素晴らしい進捗なんでしょうか。これがあったおかげで、ずいぶんと以後の開発が楽になりました。

手練れの開発陣による素晴らしいチームワークで開発が進行

さて12月16日、いよいよ開発がスタートです。といっても、プロトタイプはすでにできているので、世界観とゲームデザインの調整となります。打ち合わせの結果、「悪魔城ドラキュラ」風の屋敷というキーワードが登場しました。

ここでモリーさんから「視覚障がい者を想起させるような、点字風のキャラクターはどうでしょう?」というアイディアが飛び出しました。
そこでいったん三代氏が3DCGで背景を、モリーさんが2Dでキャラクターを仮に作成し合わせてみることにしました。
ゲームジャムで開発中にテストができるなんて、聞いたことがない!これだけでも期待が高まります。

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一方で青木氏はシリアスゲームジャムの課題の一つである、リサーチシートの作成を行いました。リサーチャーはシリアスゲームジャムならではの役職で、解決すべき社会の課題と、それをどのようにゲームで解決するのかをまとめるなどを担当します。青木氏は聴覚と触覚でプレイするゲームとして、「Feelif」や「風のリグレット」などをチームに紹介してくれました。

順調に見えた開発も徐々に問題が発生、それをどのように乗り越える……?

スタートから数時間が経ち、モリーさんが描いた2Dキャラクターが動くテスト版が完成しました。さっそくプレイするチームメンバーたち。たしかに動いているけど、何か物足りない。そもそも、なんでこのキャラクターは洋館内を走るのか? ゲームの目的は何?皆の手が止まってしまいました。

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ところがここで打開策となるアイディアを提供したのもモリーさんでした。
自キャラをコウモリの兄弟にするというものです。コウモリなら、洋館内を跳び回っていても不自然ではありません。コウモリは赤外線をレーダーのように放射することで、暗闇の中でも自由に飛び回るため、シリアスゲームのイメージにも最適です。

これでゲームの方向性が決定しました。モリーさんにコウモリのキャラクターを描いてもらい、三代氏にスタート画面を作成してもらうことになりました。

ところが、ここで再び問題が発生しました。当初は障害物が中央にあり、コウモリが上下にひらひらと避けていく仕様が想定されていました。ところが3Dの背景と2DのキャラクターをUnity上で混在させたことで、当たり判定の取り方が難しくなってしまったのです。

ここで西澤君から「地面に燭台のような障害物を置き、キー入力でコウモリがジャンプする。燭台の上に当たり判定となるマーカーをおいて、それにうまくコウモリが接触したらOK、接触しなければミス」という打開策の提案がありました。

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これにより、コウモリは「上下にひらひら」ではなく、マリオのように「障害物を飛び越える」ように進むことになります。

もっとも、この軌道修正もゲームの世界観をそこまで壊すものではないと判断されました。また、これにより障害物のイメージが燭台に決定。モリーさんに描いて貰うことになりました。

中間発表から二日目、そして最終発表へ……何が変わった?

そんなこんなで迎えた中間発表。当たり判定が入り、スコアが加算され、簡単なBGMとSEを追加。一通り通して遊べるものを作れました。
もっとも運営委員からは「成功した時と失敗したときの違いが分かりにくい」という指摘がありました。
また「対戦するだけでなく、協力して進むステージなどがあっても良いのではないか」というアドバイスもありました。

そんなこんなで開発初日は終了。西澤君はスクリプトの調整を行うために会場に残りましたが、筆者を含む他のメンバーは21時過ぎには帰宅することにしました。今にして思えばここで、余裕をぶっこいてしまったことが、最終的な完成度に反映されてしまったような気が、しないでもないのですが……

二日目は進捗の確認と仕上げに向かってタスクの確認から始まりました。ここで改めて重要になったのがサウンドです。素材自体はWebのフリー音源から探すことにしましたが、ゴシックファンタジー風の世界観と、リズムゲームとしての遊びやすさを兼ね備えた音源を探すことに、かなり難航しました。

また、視覚障がい者向けに音声でゲームの遊び方を伝えるというアイディアも、当初から存在しました。そこで青木氏が音声合成エンジンをリサーチしましたが、規約面で判断が難しく、断念することに。かわって運営委員の一人で、チリ人の大学院生に英語でモノローグを読み上げてもらい、それを録音して使用することにしました。

ところが、Unityに組み込んだところ、謎のノイズが発生し、とても聞ける代物にはなりませんでした。西澤君と相談し、サウンドの不具合を修正するよりは、素材の組み込みや調整に集中してもらった方が良いということになり、音声ガイダンスのアイディアは断念することに。

こんなふうに順調だった初日に比べて、二日目は細かい問題が次々に発生し、進捗が遅れ気味になりました。ただひとつ、確実だった成果といえば、タイトルが「B.A.T. Castle of Rhythm」に決定したことだったでしょうか。

そして迎えた最終発表、シリアス・ギルダーズの結果は?

一見すると長いようで、始まってしまえばあっという間だったシリアスゲームジャムも、いよいよ最終発表となりました。他のチームの発表を見ながら、リサーチャーの青木氏が資料をまとめていきます。なお、今回プレゼンはすべて青木氏が担当しました。その後、結果発表が行われ……

最優秀賞「Word Cross」/ 発話して相手を褒めあう対戦ゲーム

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特別賞「がん 2 シューティング」/ 視線入力つきVRゴーグルを使い、頭を動かすだけで遊べるFPS

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優秀賞「Yurayura」/ 片側がスマホを傾け、片方が指示出しをしてステージを進むプラットフォーマー

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優秀賞「キーボード海戦バトル」キーボードのホームポジションを生かしてプレイするデジタル版潜水艦ゲーム

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無冠「とべっ!トビウオくん」/大小のサークルを切り替えながら制限時間内に多くのエサを食べていくアクションゲーム

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というわけで残念ながら我々シリアス・ギルダーズは無冠となってしまいました。もっとも、その中でもチームメンバーの三代氏が「特別参加者賞」を受賞するというサプライズがありました。第2回シリアスゲームジャムから連続参加しているただ一人のメンバーということで表彰されたのです。これには本人も驚いていたようでした。

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また、イベント終了後に嬉しいサプライズが、もう一つありました。基調講演をつとめた八雲病院の田中英一氏のはからいで、「Word Cross」とともに我々のゲームを筋ジストロフィーの施設利用者さんにテストプレイしていただき、感想をフィードバックしてもらえたのです。これには開発チームもみな、感激していました。

そこで指摘されたことは「健常者なら問題ないが、視覚障がい者がプレイした場合、最初にゲームのガイダンスがないとわかりにくい」ということ。まさに時間不足で省略した点が的確に指摘された形です。

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個人的にもタブレットの上下二分割による対戦プレイとしたことで、競技者同士のコミュニケーション促進には効果的なように感じられましたが、「成功・失敗がわかりにくい」という問題が最後まで解決に導けませんでした。また、視覚障がい者・聴覚著触覚・片麻痺・健常者の4人対戦も、画面サイズの問題から実現できませんでした。

ただし、タッチと振動で目をつぶってもプレイできるリズムゲームは、まだまだ可能性がありそうに感じられました。Unityとミドルウェアを組み合わせて、スマートフォンで4人対戦可能なゲームを作れば様々な問題が解決できそうです。
というわけで最後に一言「俺たちの戦いはこれからだ!」。
ゲーム開発は改めて楽しいと思えた3日間でした。

著者:小野憲史(オノケンジ)
ゲームジャーナリスト。NPO法人IGDA日本名誉理事・事務局長。
「ゲーム批評」(マイクロマガジン社)編集長などを経て現職。
ウェブニュース媒体を中心に取材記事などを寄稿しており、E3・GDCなど海外取材も多数経験。「小野憲史のゲーム時評」(まんたんウェブ)などのコラム連載や、教育機関などでの授業・講演もこなす。東京ネットウェイブ非常勤講師。
主な著書・編著に「ゲームクリエイターが知る97のこと(2)」(オライリージャパン)などがある。