1980年代が脳裏を過ぎる味わい深い雰囲気と、勢いのよさに秀でたプレイ感が魅力の縦スクロールシューティング「ESCHATOS(エスカトス)」
著者:シェループ
西暦21XX年。月は「紫(し)の浸食」と名付けられた異変によって、その姿を大きく変えていた。程なくして地球には巨大UFOの群れが飛来し、地上への総攻撃が開始される。かくして人類と地球の存亡をかけた、戦いの幕が切って落とされた。
「ESCHATOS(エスカトス)」は、1980年代テイストあふれる縦スクロールシューティングゲーム。2011年にXbox 360用タイトルとして発売され、その4年半後の2015年にはWindows PC版がPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で発売された。
そして、発売10周年を迎えた2021年の11月、Nintendo Switch版が発売。今後もPlayStation 4版の発売が予定されており、手に取りやすい環境が整われつつある。そんな徐々に遊べる領域を広げつつある「エスカトス」とは、どのようなシューティングゲームだったのか。今更ながら、その振り返りも兼ねてレビューしたい。
なお、本記事掲載のスクリーンショットは2015年発売のWindows PC版のものになる。
懐かしさと今っぽさが絡み合った縦スクロールシューティングゲーム
前述の繰り返しになるが、「エスカトス」は縦スクロール形式のシューティングゲームだ。プレイヤーは自機の戦闘機を操縦し、襲い来る敵の編隊をショットで撃ち落としながら、ハイスピードで展開される「エリア」を突破していく。
シューティングゲームと言えば、縦横の形式を問わず、最後に現れるボスを倒せればステージクリアになって、次のステージが始まる流れが定番だ。「エスカトス」もそれに則っているが、少し変わった点でステージクリアという名の区切りがない。全ステージことエリアが地続きで、画面の切り替えもなくノンストップで展開される構成になっている。本編で区切りと明言できるのは、最終ボスを倒した時のみ。まさにシームレス……継ぎ目がないという意味を文字通り現した、独特なものにまとめられている。
プレイヤーが操縦する戦闘機も独特。というのも、シューティングゲームの定番武器で、大多数の敵やそれらが放った弾を消し去る「ボム」がない。基本、「フロント」と「ワイド」の2種類のショット、「シールド」と称された防御用の装備を活用し、敵を迎え撃っていくのである。まさに正攻法に特化したスタイルと言える。ただ、各種装備は対応するボタンを押すだけですぐに照射・展開が可能と、使い分けの操作自体はとても簡単。少し動かせばすぐに理解できる直感的な仕上がりだ。
また「シールド」は装備の中でも異彩を放つ存在である。対応するボタンを押しっぱなしにすることで、敵の弾を防ぐシールドを戦闘機前方に展開できるというもの。これを使えば、あまりにも速くて避けきられない弾も、画面の半分を覆いつくす弾幕も安心して対処可能。一連の攻撃への対処が苦手な人には嬉しい救済機能も兼ねた装備になっている。
だが、決して万能ではないというのがミソ。展開できるのは戦闘機の前方で、それ以外は完全な丸腰状態。そこを突かれてしまうと、問答無用でダメージ判定になる。なお、本作は1発でも弾が被弾すれば、問答無用で自機が大破(&残機が1つ減少)するシューティングゲーム定番の”1発アウト制”を採用。シールドを展開していようが、隙を突かれたらそこまでなのだ。慈悲はない。さらにシールドはショットと並行して展開することも、ずっと出したままにすることもできない。出すたびに「シールドゲージ」が減少し、空になれば消滅してしまう。ゲージ自体は時間が経つと回復するが、それはシールドを出していない時限定。ゆえに無計画に使いすぎれば、後々大変な目に遭うのである。
なので、使い所をきちんと見極め、丸腰の部分を晒さないよう立ち回ることが大事。そんなエリア攻略の戦術性を演出する要素も兼ねており、単なる救済機能で終わらない見所を含んだ装備にもなっているのだ。このおかげで、各エリアも単にショットで襲い来る敵を迎撃すれば万事解決という、単調な展開になりにくい。さらにシールドには攻撃判定もあるため、使い様によっては攻めにも使えるのである。そんな思いもよらぬ使い方ができるのも見所のひとつで、まさに本作を象徴する独自要素となっている。
戦闘機関連では、ゲームモード別にパワーアップの有無が設定されているのも面白い部分だ。シューティングゲームの定番要素のひとつ、アイテムを取ることで戦闘機が強化されるシステムは本作にも実装されている。
しかし、それは「ADVANCED MODE」と呼ばれるゲームモードだけ。他の「ORIGINAL MODE」、「TIME ATTACK」にはそれがなく、全く異なる攻略・戦術性が表現されているのだ。実質、システムの異なる2+1本のシューティングゲームが収録されているに等しく、おかげでゲームを1回クリアした後でもモードを変えれば新鮮な気持ちで遊べる。さらにゲームをプレイするたびに獲得したスコアがデータとして蓄積されていき、一定数に達するとレベルアップ。ゲームスタート時の残機の初期値を増やせたり、スタートするエリアを選ぶといったオプション機能の充実化が図られていくのだ。こうしたもう一度遊びたくなる気持ちを高める要素も本作は充実。なかなか至れり尽くせりな内容なのである。
他に本作は「1980年代テイスト」をテーマに、グラフィックも意図的に古臭い作風の3DCGで統一。音楽もいかにもそれっぽい音源で作曲されていて、その頃の時代のゲームを遊んでいた世代の琴線を刺激するものに仕上げられているのも見所だ。
ただ、視点がグルグル移り変わる演出があったりなど、今どきの工夫も満載。ゲーム部分もそうだが、全体的に懐かしさを出しつつも、今っぽさのある要素も豊富で、不思議な味わいに満ちたシューティングゲームになっている。まさに「新しくも懐かしい」という売り文句がこれ以上なく似合う仕上がり。現代に蘇った”あの頃のシューティングゲーム”なのである。
全編に渡ってほとばしる”勢いのよさ”と安定感
本作の魅力は全編に渡ってほとばしる”勢いのよさ”だ。
特に”勢いのよさ”を感じられるのがストーリー絡みの演出。
ゲームスタート時の出撃に始まり、逃げる敵母船の追跡からの大気圏突破、そこからの大部隊を相手にする直接対決、そして謎の異変によって変貌した月面への進撃といった展開の全てが、一切の文章表現を用いることなく、スピーディかつ自然に描かれていく。基本、グラフィックが3Dで描写されているなりのカメラワークを駆使した演出も満載で、一連のストーリー展開を仰々しく、それでいて熱く盛り上げてくれる。音楽もその演出と絶妙にシンクロ。ここぞという場面で親和性抜群の楽曲が鳴り響くので、思わず身を引き締めて次の戦いへと挑む心持ちになってしまう。
まさに自らが戦闘機のパイロットとして、戦火の真っただ中にいるとの錯覚を抱かせる仕上がりになっているのだ。言葉で語らず、現在の状況や背景に点在する建造物、敵の容姿などの情報と要素を効果的に活用し、一連の展開を描いているのも圧巻。大筋の分かりやすさと直球ぶりもまた、昔ながらのシューティングゲームと思える”らしさ”が滲み出ていてニヤリとさせられる。
この一連の魅力は遊ぶと分かる類のものだけに、紹介ではピンとこないかもしれないが、実際触れてみれば、なぜに勢いのよさがあるのかが分かるはずである。シューティングゲームは、こういうストーリー体験が得られることも醍醐味のひとつだ、と言い切れるほどの仕上がりなので、気になればぜひ、直接体験した上で確かめていただきたい。
演出以外にも小さなエリアを順に、ノンストップで攻略していくのも独特の勢いに満ちている。それでいて、やり応えも十分。エリアの構成も敵編隊の迎撃、中ボスもしくは大ボスとの戦いの2つを基本に展開されていく形だが、そのパターンが多彩。破壊不可能な障害物が降り注ぐ中での敵の迎撃、続々と現れる中ボスとの戦い、そして3Dなのに2Dな視点で敵編隊を迎撃するなど、グラフィックの特性も活用した種類も設けるなりして、プレイヤーを飽きさせない。さらに時折、往年の名作シューティングゲームを露骨にオマージュしたエリア、敵編隊が現れる展開が挟み込まれるのも見所だ。中でも必見なのは以下のエリアである。
シューティングゲームを古くから知る人なら、この構図が何を意味するかは概ね察せるだろう。しかも、単なるパロディに終わらせておらず、本作のゲームシステムを活かした戦術を駆使して対抗する構成になっている。本編中盤以降のエリアのため、若干難易度が高くもあるのだが、演出面でも面白い工夫が凝らされているので、ぜひ一瞬たりとも見逃さず、全てを迎え撃ってみて欲しい。難易度も全ゲームモード共通で「撃って避ける」という、シューティングゲームの王道と勢いのあるプレイ感を踏まえつつ、シールドによる防御も適時求められる独特のバランスにまとめられている。
選択機能も完備していて、簡単な「EASY」から非常に難しい「HARDEST」まで腕前に応じた遊び方も可能。また、前述のパワーアップシステムの有無が物語る通り、全く違った味付けがされているのも特筆すべき部分。爽快感と取っつきやすさを重視した「ORIGINAL MODE」、パワーアップによる変化が描かれる「ADVANCED MODE」と、同じようで全く異なる手応えは実に刺激的だ。特に「ADVANCED MODE」は、パワーアップするとシールドの展開時間が減る独自の仕様もあって、一気に強くするか、それとも自重するかといったプレイヤーの判断が問われてくるのも面白い。その特色もあって、「ORIGINAL MODE」よりも若干、手強さが上回る所もあるのだが、相応にやり込む度に魅力が増していく作りにもなっている。最初に「ORIGINAL MODE」を素直に遊んで諸々の特色を掴み、後から「ADVANCED MODE」で異なる条件下での戦いを経験することで、その深い作り込みを感じ取れるだろう。各種難易度も高難易度になると弾幕系シューティングゲーム並の苛烈さになるなど、別世界になる変化が描かれているので、こちらも並行して要チェックだ。他に勢いの象徴と言えるもので前述にも触れた音楽がある。単に場面との親和性が高いだけでなく、曲自体もこれぞゲームの音楽と言わんばかりに印象的な旋律が奏でられるものになっている。特にゲームスタート時、エリア1以降に流れる本作のテーマ曲とも言える楽曲は、一度聴いたら耳に焼き付くほど素敵な仕上がりなので、ぜひヘッドホン装着の上で確かめていただきたいところだ。
象徴的な所に焦点を当てる形で取り上げたが、共通しているのはどこにも”勢い”が見事に描かれていること。小難しいことを考えずに遊べて、随所で歯ごたえも感じ取れてスカッとできる。そんな1980年代のシューティングゲームに留まらず、アーケードゲームが持っていた勢いと遊びやすさが詰まった素敵な内容に完成されているのだ。特に最初に取り上げたストーリーは、まさにその昔ながらの勢いを感じられる屈指の見所になっている。これを体験するための目的で本作を遊ぶ価値があると言ってもいいほどなので、少しでも興味を抱いたのなら購入を検討してみて欲しいところだ。
空き時間に1周、というお手軽プレイもおすすめの良作
とは言え、全体的な難易度は高い。もっとも簡単な「EASY」でも初回ノーミスクリアはほぼ不可能に近いほど、手ごわい調整になっている。また、ボスの多くは初見殺しな技を使ってくることが多いため、慣れていない内はよくわからないまま撃墜されることに何度も見舞われること確実。決して、敵弾の視認性が悪い訳ではなく、むしろ見やすいのだが、発射速度については「EASY」に限っては少し遅くする措置を取ってくれればと思ってしまったところだ。
また、3Dのようで2Dな視点で敵と戦う場面も敵弾の位置が掴みにくい難点があるほか、演出中(カメラワークが切り替わる中)でも判定が発生するので、時折意図しないミスに繋がってしまうこともある。この点も演出中に限っては判定を無くすみたいな措置があって欲しかったところである。それ以外にもエリアが切り替わる際には僅かにロード(読み込み)が発生し、ゲームが一時的に止まるのも魅力でもある勢いを殺ぐ要素になってしまっているのが惜しい。ただ、直近のNintendo Switchなどの現行機版ではこの点の改善が図られているとのことなので、気になる方はそちらの方を選んでみることをお薦めする。
最後の最後に幾つか難点をあげてしまったが、それでも本作の完成度の高さに揺らぎはなく、優れた遊び応えを誇るシューティングゲームに完成されている。ボリュームもゲームクリアまでは大よそ30分とお手頃で、1日の終わりにサクッとプレイするゲームとしても申し分ない。シューティングゲーム好き、特に1980年代のアーケードゲームで誕生した作品の数々が好きだった人には確実に刺さる仕上がり。この手のジャンルの経験が浅い、苦手という人には正直、ハードルの高い作品であるのは否定しないが、オプションのレベルアップを始めとする救済措置は豊富なので、根気さえあれば何とかなる……と思う。
この新しくも懐かしい香り漂う世界で、地球の命運をかけたノンストップの戦いに身を投じてみよう。