Alibaba Cloud Gaming Event第四弾「中国市場と日本市場スマホゲームの違いと現状」レポート
著者:シェループ
2019年5月29日、東京・渋谷の「TECH PLAY SHIBUYA」で、Alibaba Cloud主催による「Alibaba Cloud Gaming Event」第四弾が開催されました。
今回のテーマは「中国市場と日本市場スマホゲームの違いと現状」。昨今、日本国内でもヒットを飛ばし、存在感を高めつつある中国製スマホゲームの動向、日中ユーザーそれぞれの違い、そして中国市場のトレンド変化など、五つのトピックに分ける形で業界の最前線で活躍する関係者が登壇し、講演が行われました。
「日本ゲーム市場の最新動向とその特徴、日本市場で好まれるゲームとは中国系ゲーム会社が日本市場へ進出する際の注意点」
まず初めにメディアコンテンツ研究家で黒川塾主宰の黒川文雄氏より、日本ゲーム市場の最新動向と特徴、中国系ゲーム会社が日本市場へ進出する際の注意点についての解説、情報共有から行われました。
黒川氏から日本ゲーム市場の最新動向について、特にオンラインプラットフォームが伸び、決算をけん引するようになったことが紹介されました。これに関連して、2017年から2018年にかけ、家庭用ハードが復権してきていることも併せて紹介されました。
黒川氏のサポートとして登壇したSQOOL代表の加藤によると、家庭用ハードの復権は主にeスポーツの台頭、任天堂の最新家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」の発売、そして2018年1月にPlayStation 4で発売されたヒット作「モンスターハンター:ワールド」が大きく貢献しているのではないか、とのこと。
更に黒川氏から、スマホゲームに関しては開発費が5億円を超えるタイトルが誕生しヒットを飛ばす一方、ここ最近は倒産する会社も多数出るようになり、現在の日本モバイルゲーム市場は大手でなければビジネスの継続が難しい状況にありつつあることが解説されました。
また加藤によると、ここ最近はカジュアルゲームの台頭も顕著とのこと。この後のセッションでSmartly.ioの坂本達夫氏からも詳細な説明がされる「ハイパーカジュアル」と呼ばれるシンプルなゲームがランキング上位に来ていて、僅かながらソシャゲ一辺倒の日本市場に変化の兆しが見え始めているようです。
それを裏付けるのが、ゲームを体験している人の増加。昨今、一昔前のゲーム機のようにカセットをセットし電源を入れるような手間がなく、手持ちのスマホで気軽に始められるようにゲームを開始するハードルが下がったことから、日本ではライトユーザー層が拡大し、高年齢層もゲームに触れるようになってきているようです。
黒川氏は、今後もユーザーは増えていく可能性があり、悲観はしていない、と述べました。
ただ同時に、日本のゲームユーザーはどちらかというとゲームに対して辛口気味。日本で大きなヒットゲームを出すのは容易ではなく、数年前までは海外製ゲームに対して特に厳しい視線を注がれる傾向にありました。しかし、近年はヒット作が生まれるようになってきています。中国から生まれたゲームも「アズールレーン」、「荒野行動」に象徴されるように日本でも好評を博し、海外製のゲームに対するイメージが変わりつつあります。特に先の二作はオマージュでありながらも、独自の視点から作られているのがヒットの要因になっている、と黒川氏。
次に黒川氏はゲームのローカライズについて解説。
日本から世界市場へ売り込むに当たって生じるローカライズも、近年はオリジナルをそのまま生かす方向性が主流になっているそう。一例として、一昔前はキャラクターデザインに顕著な差があったカプコンの「ロックマン(海外名:MEGAMAN)」ですが、直近の新作「ロックマン11 運命の歯車!!」は日本語版から大きく変更されることもなく、そのまま発売されるようになりました。
世界的に見ても特殊な市場と見られる日本ですが、ゲームを遊ぶ人口の増加、海外製タイトルのヒットなどから、緩やかに状況は変化。特に「アズールレーン」などに象徴される中国製スマホゲームのヒットは、中国のゲーム会社にとって、政府の許可(版号)が取れない間に先行して、ローンチするメリットがあるのではないか、と黒川氏は語りました。
「新規ゲームタイトルの日本でのプロモーションを読み解く」
そんな日本市場で新規のゲームタイトルの宣伝について、黒川氏から続く形でSQOOL代表の加藤からの解説が行われました。シンプルに要点をまとめるならば、”やれるだけのことはやる”。
ゲームの代表的なプロモーションと言えば、テレビCM、雑誌広告、プレスリリースなど。しかしテレビCMは大きなお金がかかることから中小の事業者にとっては難易度が非常に高い。プレスリリースに関しては少ない予算で実施できるものの、最近はそのあり方も変わってきており、出したとしてもどこまで求めるユーザー層にリーチできる読みにくくなっているそうです。
それ以上にTwitter、LINEなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を活かしたプロモーション、並びにインフルエンサーへのリーチが有効であることが証明されつつある、と加藤。
プロモーションの中でもSNSマーケティングは最も費用がかからず、運用方法次第で多くのユーザー数獲得に繋がるチャンスが得られることが、株式会社SEECとナカユビ・コーポレーションの例から紹介されました。
Twitterについては、フォロワーが1万を超えた辺りからダウンロード数などに顕著な変化が生じることが多く、まずは1万フォロワーを狙っていくのが良いのではないかとのこと。また、Twitterの運用時にはルールが大切で、例えば関係ないツイートをしないなどを決めておくことが重要だそう。その上で対象ゲームタイトルの魅力をユーザーに向けてアピールすることに力を注ぐ重要性が語られました。
LINEについては、「LINE@」を使用したマーケティングの例を紹介。ゲームクリア時にLINE@への誘導リンクを仕込むことでコアなファン層を囲い込む手法などが説明されました。
「LINE@は無料から試すことができ、有料コースもそれほど高くない。日本では圧倒的にユーザー数が多いSNSなので是非ゲームのマーケティングに使ってみては」
と加藤。
更にインフルエンサーマーケティングについて解説。
ゲームのマーケティングに利用する際に大切なことは、タイトルにあったインフルエンサーを起用すること。それにより大きなPR効果が期待できるとのこと。またSTUDIO COUPなどのインフルエンサープラットフォームを利用することで意外と安く依頼ができるのもメリット。
「予算をきちんと定めた上でやるか否かを判断するのが大事」
とのことです。
他にプレスリリースも昨今は「PR TIMES」、「ドリームニュース」などのWEB系プレスリリースプラットフォームが台頭し、配信費用も抑えられつつあります。
重要なのは「やれるだけのことはやる」。
コップに水を溜めていくように、プレスリリースからSNS、インフルエンサーまであらゆる手を尽くせば、ユーザーへと届く。そのためにはアカウントの運用、作品の作り方にも神経を配らなければならないということを総括し、講演は終了となりました。
ハイパーカジュアルゲーム市場(日本とグローバル)
続いて昨今、日本市場において少しずつその存在を見せ始めている「ハイパーカジュアル」と称されるゲームの概略と現在の動向、プロモーションの違いに関して、Smartly.ioセールスディレクターの坂本達夫氏が登壇。坂本氏はハイパーカジュアルゲームのトップパブリッシャー「Lion Studios」で日本の担当者を務めた経歴を持ち、その時に得た経験を交える形で講演が行われました。
そもそも、ハイパーカジュアルとはどのようなゲームでしょうか。簡潔にまとめるなら「シンプルで中毒性のあるゲームプレイ」、「ユーザーを選ばない操作性」、「延々と遊んでしまう」の三つの特徴を持ったゲームを指します。
ハイパーカジュアルゲームは、英語で作られ、グローバル展開されるものが大半を占めます。そのため、日本語への翻訳が行われていないものが多いのが現状。しかし、シンプルに遊べることに特化していてテキストが極端に少ないことから、英語版のままであったとしてもそのまま誰でも遊ぶことができ、そのシンプルさを最大の強みとしています。
しかし、収益のほとんどをゲーム内に表示される広告に依存しているため、特に中国のようにGoogle、Facebookなどのプラットフォームが使えない市場では、ビジネスとしての難易度が高くなる、と坂本氏。現に2018年頃の北米市場はハイパーカジュアルが上位を席巻する一方で、中国市場では上位に全く出てきていません。しかしながら、多少ながら作りの凝ったカジュアルゲームは僅かながらランクインしてるようです。
いかにして中国市場にハイパーカジュアルを売り込み、浸透させるか。それに関しては、政府の許可こと「版号」がなくてもリリースできる強みを活かすことが重要なようです。ハイパーカジュアルゲームは課金システムがなくても成り立つ収益構造であるため、それを生かして中国でも素早く展開することが可能です。
続いて話はハイパーカジュアルゲームの開発のポイントへ。
ハイパーカジュアルゲームの特徴の1つは「シンプルで中毒性のあるゲーム性」。そしてそれが幅広いスマートフォンユーザーにプレイされるということです。
そのためオリジナリティがありすぎると、ゲーム好きにアプローチしていると見なされやすく、ライト層への訴求力が下がってしまうようです。これは国や地域を問わず共通の傾向とのこと。
また、ハイパーカジュアルゲームにはトレンドもあり、その見極めも重要と坂本氏。トレンドを掴むためにはは米国のAppStoreトップ10のゲームを定期的にチェックするのが最適で、それにより間近のハイパーカジュアルゲームのヒット傾向をつかめるようです。
その上でやはり、王道を突き詰めるのが大事、とのこと。
更に、
「最初から過剰に作り込まず、パズルゲームならステージが10個ほど出来上がった段階でプレイシーンを映した動画を早々と公開し、一旦、これでプレイヤーが付くのかを見定め、貴重なリソースを望みの薄いプロジェクトに投資しすぎないようテストする」
などのハイパーカジュアルゲームならではの開発手法のポイントについても紹介されました。初期段階でユーザーの反応を見て、反応が悪ければコンセプト変更などの措置に踏み切る判断も重要とのことです。
成功のプロセスは一口に説明しきれないと明かす坂本氏ですが、重要なのはトレンドをチェックしてビジュアルを見定め、素早くテストを実施し、ハイパーカジュアルの定義に則ること。
100%の正解はなく、これが絶対的な答えと明言はできないものの、収益構造、ゲームシステムが一般的なゲームと異なるであるが故の工夫と戦略が重要であることを知れる講演となりました。
中国ゲーム市場の現状(版号問題、好まれるゲーム、日本との違い、中国ゲーム会社と協業する際留意すべきこと等)
続くIGG Japan・森岡夢信氏からは中国ゲーム市場の現状が解説されました。
中国のゲーム市場と言えば、昨年に物議を醸した版号問題。有料または課金制のあるゲームを中国でリリースするために取得しなければならないライセンスですが、2018年3月29日より国会で組織改革があった反動で停止、それにより新作ゲームの審査が止まり、発売できなくなる事態が生じました。それから9ヶ月を経た同年12月には復活し、新作が供給されるようになりましたが、基本的に中国政府は急にこのようなことを決める傾向にあるため、今後も動向の注視が必要なようです。
そんな中国市場はパソコンゲームをルーツとし、主にMMORPG、RPG、SLG(ストラテジー)などのジャンルのゲームが人気を集め、成熟してきました。しかし昨今はモバイルゲームが人気を集めているとのこと。2000年代前半は韓国生まれのタイトルや、映画IPを用いたPC向けMMORPGが流行りましたが、2010年代からは独自のアニメタイトルや、PCで流行したタイトルがスマホへとシフトし、現在のような市場になったそうです。
また二次元系、いわゆる日本風のイラストを使った恋愛系タイトルの台頭にも注目です。特に2015年辺りよりこの種のタイトルが出てくるようになり、中でも「恋とプロデューサー」は大ヒットとなりました。
何故二次元系タイトルが伸びてきたのか?その背景には対象ユーザーが90年代生まれであることに起因しているようです。
この世代はアニメなどを見て育っている世代で、それが社会進出と同時に自らお金を支払って有料コンテンツに触れる機会が増え、それが昨今の二次元系タイトルの台頭に大きく貢献しているようです。今後も二次元系はまだまだ伸びる余地があるとのことで、これまで市場の三大人気ジャンルとされたMMORPG、RPG、SLGと肩を並べる、或いは超える可能性もありそうです。
中国の二次元系コンテンツは2015年頃は日本産が多くを占めていましたが、2018年からは中国国内製のタイトルが登場し始め、人気を占めるようになってきたそうです。日本でもヒットしている「アズールレーン」、「崩壊3rd」がその象徴です。また、海外IPでも「Game of Thrones」、「ラングリッサーモバイル」が順調に推移しています。後者は日本にも逆輸入される形でリリースされ、好評を博しており、日本市場との関わりもこれまでとは少し違ったものになりつつあるようです。
そんな中国のクリエイターと共同開発に取り組む時はどのようなことを心がければいいのか。森岡氏はポイントを3つ上げ、特に「~べき論は通じない」ことに注意して欲しいと語りました。中国企業との協業はとにかく一旦進めてみることが重要で、ダメと伝える時は”物理的な”理由をぶつける必要があるとのこと。今後さらなる活発化が想定される日中のコンテンツ開発共同作業を円滑に進めていくためにも、文化の違いを理解しながら関わっていくことが大事であることを語り、一連の解説を結びました。
ゲーマーの特徴(日中市場、ゲーマーの質、量の違いなど)
最後に、株式会社SHIFT社長室ビジネスプロデューサーの森昭生氏から、日中のゲーマーの特徴について、同社が行っている活動の報告も交えながら説明がなされました。当初は15分の予定でしたが、内容量が多くなった関係で30分に延長。それもあって、多くのスライドを用いる形で日中のゲーマーの特徴、嗜好の違いなどが紹介されました。
紹介された内容の一部、特に中国市場における二次元の台頭、モバイルゲームの逆転については先の森岡氏の解説から更に踏み込み、中国のクリエイターは既に日本人特有のテイスト(いわゆるお色気シーン、ラッキースケベなど)を物にしてしまっていること、日本文化に親しんだ漫画家が多く誕生し、日本産コンテンツは弱体化しつつあることなどの掘り下げが行われました。
少し前であれば、日本の二次元コンテンツであればなんでも買って貰える時代でしたが、既にそれは終わったという現状認識をし、これからは売り買いよりも共同開発に重点を置いて取り組んでいくのが重要であると語られました。
「率直に言って、中国の開発力、投資力は日本の比ではない。しかしながら、二次元に関しては世界観やキャラクター作り、声優と言った部分は日本が勝っており、売り込めるところだ」と森氏は言います。
特にゲームは収益性が高いため、ゲームの題材になるような漫画やアニメを作れば、中国市場で戦える可能性があると語られました。既に日本国内でも中国企業との共同開発の動きは緩やかに起きつつああり、今後中国市場に取り組む際には、このような共同開発のあり方も念頭に置いておくべきという印象です。
更に、中国市場において最も怖いのがユーザーに飽きられた瞬間、と森氏。昨日まで売上ランク上位だったゲームが、翌日奈落の底へと突き落とされることがあるそうで、いかにして関心を引き続ける施策を組めるかが問われてきそうです。興味を持たれやすい題材がバトルものである、ということも覚えておくと良いかもしれません。
では日本のユーザー、特にスマホゲームのプレイヤーの傾向はどうなのか。
実際にSHIFTが1000人に意識調査をした結果が複数のスライドを通して紹介されました。
注目は月額の課金額が5万円に達する、いわゆる”重課金者”と呼ばれるユーザー。基本的に1本に集中する傾向が強く、それを取捨選択するユーザーを逃さないことが良い成果を出すに当たって重要とのことです。
そのようなユーザーがいるかいないかで、全体の人気(ランキング)は低くても、収益性が高く売上上位に位置するアプリが存在することもスライドを通して紹介されました。
では、このようなユーザーが離脱してしまう際の引き金はなにか。
それについては、「最初に行うガチャの成果」「運営対応への不満」に加えて、他の面白いアプリを見つける、というのもある模様。重課金ユーザーは、それほど多く課金していないユーザーと比べて、他の面白いアプリを見つける傾向がかなり強いようです。
結局の所、飽きられればゲームにとって大きなダメージになることは日本市場も中国市場と同様であり、特に日本ではは無課金で遊ぶユーザーが多いとの調査も出ているため、収益を考えると重課金者の心を掴むことは非常に重要と言えます。
他にもユーザー(特に重課金者)がゲームをプレイしていてどこに大きな反応を見せるかを、最新の生体デバイスを用いてテストしている施策も進めているという同社。このような取り組みの結果、得られた数値とデータが揃えば、海外はのみならず、日本においても何らかの戦略が立てるのではないのか。そんな興味深い可能性を示しながら、講演は締め括られました。
平日の14時から開催された本イベントですが、日本のゲーム会社の関係者の他、中国のゲーム関係者も多く参加し150席ほぼ満席となりました。日中が互いのゲーム市場に大きな関心を持っていることがよく分かるイベントになりました。
スマホ、PCはもちろんですが、最近は家庭用ゲームでも興味深い作品がリリースされるようにあんり、存在感を増しつつある中国ゲーム市場。日中のゲーム関連会社の関わりが増えることで、いかなる化学反応がこれから起きていくのか。今後の動向に目が離せません。