中国でアプリゲームをリリースするには?2018年12月22日現在のざっくりとした状況

 ビジネス 
  公開日時 

 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

※2019/2/22 20:00 一部追記しました(色文字部分)

世界最大のゲーム市場に育った中国。今年になって中国への展開に興味を持つゲームデベロッパーが増えてきたと感じます。SQOOL.NET編集部にも、デベロッパーから中国展開についての問い合わせが多く寄せられています。

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同時に、中国のパブリッシャー、アプリストアの担当者から、「日本のゲームデベロッパーを紹介して欲しい」という問い合わせも多く頂いています。
現状では中国へ進出したい日本のゲームデベロッパー、日本のゲームを誘致したい中国のパブリッシャー&ストア、日中両面のニーズが一致しているといえます。

しかし、中国にはAndroidアプリストアが20以上あり、更に「版号」と呼ばれるライセンスの審査問題などもあり、アプリをリリースする際に何をどうすれば良いのかがとても分かりにくい状況にあります。

中国でアプリゲームをリリースするには?2018年12月22日現在のざっくりとした状況

この記事では、中国にアプリゲームをリリースする際に必要な基礎的な前知識や、注意事項などを、圧縮要約してお伝えいたします。

中国のモバイルゲーム市場の規模

中国でアプリゲームをリリースするには?2018年12月22日現在のざっくりとした状況

こちらは中国のパブリッシャー、JoyPacさんに頂いた資料です。現在中国のスマホユーザー数は7.24億人、そのうちiOSが1.7億人、Androidが5.54億人です。

中国でアプリゲームをリリースするには?2018年12月22日現在のざっくりとした状況

こちらもJoyPacさんの資料から。2018年前半の時点で、中国のモバイルゲーム市場は1兆円を突破。世界最大の市場になり、更に成長中です。

※資料の数値は2018年の秋時点のものです。調査方法等はSQOOLでは把握しておりません。

「デベロッパー」「パブリッシャー」「ストア」について

簡単に事業者の種類を示す単語の解説です。

デベロッパー
アプリの開発事業者のことです。

パブリッシャー
アプリをリリースしたり、マーケティングを実施したりする事業者です。中国でアプリゲームをリリースする場合、日本の事業者は主にこのパブリッシャーと付き合うことになります。

ストア
アプリストアのことです。
中国のアプリストアを運営する事業者も、優秀なゲームをストアに揃えるために、日本のゲームデベロッパーにアプローチしています。

日本にアプローチしてくるパブリッシャー、ストアの担当者は日本語が堪能なケースがほとんどです。現在はお互いの信頼関係がまだ充分でないことや、日本側に中国市場の知識がないことから日本企業による仲介中継ぎ業が成り立っていて、SQOOLでも一部実施していますが、今後は直接のやり取りが進んでいくのではないかと筆者は考えています。

中国にはGooglePlayストアがない

中国にはグレートファイアーウォールと呼ばれるインターネット上の壁が存在し、これによりいくつかのインターネットサービスやウェブサイトが遮断されています。

Googleもそのファイアーウォールによって遮断されており、そのためGoogle Playストアが中国にはありません。Androidスマホはあるのに不思議です。

中国には様々な会社が運営するAndroid用のアプリストアが20以上もあります。
中国ではiOSよりもAndroidのシェアが大きいため、中国でアプリゲームを展開する場合は、この20以上のAndroidアプリストアそれぞれでリリースする必要があります。

収益の分配比率などはストアによって異なりますが、現時点では不透明と言わざるを得ない状況です。売上の50%以上を徴収するストアも多いようです。

iOSのAppStoreは他の国とだいたい同じ

iOSのApp Storeは、その他の国と状況はほぼ同じです。
日本から直接中国のAppStoreでアプリをリリースすることができます。これについては中国のゲームライセンス「版号」は必要ありません。

ただしiOSだけでリリースをすると、コピーアプリがAndroidストアにすぐに出てくるそうです。

※追記:iOSのアップルストアでは版号なしでも有料&課金機能ありのアプリをとりあえずはリリースすることができます。しかし、リリース後にBANされることがあるようです。安定的なビジネスにするためには、iOSアプリもやはり版号を取っておくのことをおすすめします。

日本のゲームデベロッパーが中国でアプリゲームをリリースする場合、iOSの展開も一緒にやってもらうケースが多いようです。これは中国向けのローカライズ(翻訳やUIの調整)を行ったほうがiOSでも支持される可能性が高いことや、iOSを含めたプロモーションをパブリッシャーに行ってもらうほうが良いケースが多いことなどが理由です。

注意点としては、iOSアプリであっても中国の法律に沿う必要があります。日本特有の露出度の高い女性キャラはNGになることがあります。また政治的、歴史的な内容なども注意が必要です。

「版号」の審査停止問題

中国で有料のゲーム、有料アイテムの販売が含まれるゲームをリリースする場合は、政府の審査を受けて「版号」と呼ばれるライセンスを取得する必要があります。

2018年はこの「版号」の審査が停止するなどがあり、事実上Androidゲームアプリは広告収益モデルのものしか中国ではリリースできませんでした。

本来ゲームに対する課金意欲の高い中国市場においては、いかにゲーム内の課金構造をうまく作るかがビジネスとして重要でしたが、それが完全に停止していた状況でした。中国の各パブリッシャーやアプリストアは暫定の回避策として、カジュアルゲームの展開に力を入れたり、英語圏などへのパブリッシングを強化したりをしていましたが、収益性の低下を払拭するには至らず、最近は事業を停止するところも出始めていました。

しかしつい最近、「版号審査の再開」というニュースがあり、この状況は変わるかもしれません。
中国ゲーム関係者の反応はまちまちですが、少なくとも進展があったのは事実です。

・海外タイトルに対して厳しくなるのではないか
・審査自体が全体的に厳しくなるのではないか
・審査に要する期間が長くなるのではないか
・全面再開はまだ先なのではないか

など、色々な憶測が飛び交っており、推移を見極める必要があります。
現時点では、中国でアプリゲームを展開するのであれば広告収益モデルを検討するのが現実的だろうと、筆者は考えています。

中国のゲームパブリッシャーと提携する際の注意点

中国のパブリッシャーと提携すると、一般的には版号含むライセンスの取得、ローカライズ、ストアへの掲載、中国用のSDKの組み込み、プロモーション、などを行ってくれます。そのうえで収益をシェアする形態が多いようです。

パブリッシャーはたくさんありますので、1つのパブリッシャーと話すだけで決めるのではなく、いくつかのパブリッシャーと話して条件を比較することをおすすめします。

それぞれの業務範囲、
レベニューシェアの割合、
パブリッシング権利についてのフィーの有無、
契約の期間、
テスト配信の有無、
収益の計算と送金のサイクル、
アプリ起動時のロゴの表示、
どのアプリストアにリリースできるのか、
HTML5プラットフォームには対応しているのか、

などなど、様々な条件が大きく異なるケースがあります。

特にレベニューシェアの割合については、パブリッシャーによってかなり異なります。
本来はパブリッシャーとデベロッパーで50:50に近いシェア率がフェアだと思いますが、中にはデベロッパーの取り分が20%〜30%と低いところも存在します。
契約の内容によって、例えば最低保証金額があるなどの場合はレベニューシェアの割合が低いからといって不利な条件とは限りませんので、その辺りもよく吟味しましょう。

収益の確認方法や着金のサイクルについても確認が必要です。管理システムにログインしてリアルタイムで見ることができるところもあれば、毎月PDFで送られてくるところもあります。支払いのサイクルについては、月末締め翌月末払いのところから、四半期締め、あるいはそれ以上の期間になるところもあります。これは中国のAndroidアプリストアの中に送金サイクルが長いところがあるためで、パブリッシャーの資金力(内部保留の額)によって変わるのだろうと思います。この辺りは資金繰りに影響すると思いますので、事前によく確認しておく必要があります。通貨単位も確認しましょう。

その他契約についても事前に内容はきちんと確認し、比較して、必要であれば交渉を行いましょう。交渉が苦手であれば代理を立てるのが良いでしょう。

良好な関係で良いパブリッシャーと提携できれば、中国でのアプリゲームの展開はスムースに進むでしょう。例えばコピーアプリが出た場合などはパブリッシャーが各ストアに取り下げの申立をしてくれます。これを自力でやるのは容易ではありません。

個々ののAndroidストアで直接アプリをリリースする場合

パブリッシャーを通さずに、アプリストアと直接やり取りをしてリリースする方法もあります。
一般的には日本のゲームデベロッパーが中国のAndroidアプリストアにアプリをリリースするのはかなり難しいのですが、ストアの中には日本デベロッパー向けのサポートを行っているところもあります。

その代表は「TapTap」というストアで、アカウント開設やその他ストア内の手続きはもちろん、ゲームのリリースに必要なライセンスの取得も行ってくれます。その際のライセンス取得費用はTapTapが持ってくれます。
※TapTapが認可したタイトルに限られます

TapTapはアプリストアに掲載する広告の収益で運営されているため、アプリからの収益はすべてデベロッパーに還元されるというのも特徴の1つです。

まずは自力でローカライズを行いストアでのリリースまでやってみたい、中国展開のノウハウを身につけたい、パブリッシャーにたくさん取られるのは嫌だ、という方にはこういった方法もあります。

TapTap以外にも日本のデベロッパーへのサポートを実施しているストアはありますが、前述の版号問題でそのサポートを停止したところもあり、将来的な再開も含めて状況を確認する必要があります。

Steamは?

アプリゲームがメインの中国ゲーム市場ですが、Steamの市場もあります。中国内でのSteamのユーザー数は3000万人を突破しており、Steam全体の3割以上が中国のユーザーです。

先日、Steam Chinaと上海政府の正式な協力提携がニュース報道されるなど、中国国内での存在感も増しつつあります。


しかし、国外タイトルのSteamでの配信を行っているパブリッシャーはあまりないようです。

これはモバイルに比べればまだ市場が小さいことや、今後Steamにも何らかの規制があるのではないかという懸念があることが理由のようです。

※追記:最近(2019年2月末)になって、Steamを手がけるパブリッシャーさんも新たに出てきているようです。今後増加していくかは中国Steam市場が拡大するかどうかにかかっており、要注目です。

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著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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