暴力的なゲームは凶悪犯罪の発生を助長するという暴論
著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
少し前のものですが、
トランプ米大統領がゲーム業界幹部と会談、暴力事件との相関性で | ロイター
こんな記事がネットを賑わせました。
記事は、フロリダ州の高校で発生した銃乱射事件を受け、暴力的なゲームが凶悪犯罪の発生を助長しているのではないかとトランプ大統領が懸念しているという内容で、それに対してゲーム業界は関連性を否定しているとも述べられています。
この手の話は日本でも昔から多く語られてきました。過度に暴力的なゲームは精神を蝕み、暴力事件、ひいては殺人などの凶悪犯罪を誘発する、というものですが、果たしてそんなことがあるのでしょうか。
筆者の考えをまず述べると、ゲームの中で人(正確には人を模したキャラクター)を殺したからといって、それが乗じて現実の世界でも人を殺すようになる、などということはあり得ないと思います。
そんなバカな話がありますか?
例えばストリートファイターを遊んだ後に外に出て、人を殴りたい衝動に駆られるなんてことがありますか?
いや、長い年月そのような暴力的なゲームを遊ぶことによって徐々に人格が曲がっていくことはあり得る、という主張もあるかもしれません。
本当に?
筆者は小さなころからゲームに、もちろんいわゆる暴力的なゲームも含めて、どっぷりハマっていますが、そのような衝動に駆られたことはありません。筆者の周りのゲームオタクに関しても同じです。どちらかというと大人しい人間が多い気がします。その意味ではむしろ安全な人種であるとさえ言えます。
でもでも、そういう一見おとなしそうな人物が突然キレて人を刺したり・・・!
なるほど、あり得ます。しかしそれはもはやゲームは関係ないですよね?ゲームをプレイすると突然キレるようになる、というのはあまりに飛躍した理論です。
数字的な根拠もあります。
少し古いものですが『「ニート」って言うな! (光文社新書) 』という本があります。ここに、まさにこの問題、すなわち「ゲームが殺人を助長するという暴論」への的確な反論があります。一部を引用します。
統計データは有害メディア仮説を支持しません。さきほど示しました、未成年による殺人のピーク時(グラフ1)には、インタラクティヴ型のビデオゲームなど、強いリアル感をもたらす仮想残酷体験技術は出回っていませんでしたし、残酷体験商品のバーチャル技術が向上した時期に殺人率が跳ね上がるという現象もみられません。ものすごくリアルな、内臓が飛び散ったり血が飛び散ったりするような映像技術の進歩とは逆比例的に、殺人率は低下しています。
実際にメディアでバーチャル体験にのめりこんだぐらいで、現実検討能力が失われる、そして精神病水準に至るということは、まずあり得ません。「最近の若者はバーチャル世界と現実の区別がつかなくなった」などという発言をする識者たちの論理的な思考能力のほうがむしろ疑われます。
※いずれも『「ニート」って言うな! (光文社新書) 』より引用
『「ニート」って言うな! (光文社新書) 』は教育問題を語った本としても非常に優れていて読んでも面白いので、興味のある方は是非読んでみてください。
話を戻してゲームについてですが、もちろん暴力的な表現や残酷なシーンがあるために、子供にはプレイしてほしくないな、というゲームはあります。そのようなゲームは年齢制限を設けたり、一定の規制によって表現を柔らかくするなどが必要です。
またあまりに長時間のゲームプレイが精神衛生上良くないことも事実です。ネットゲームへの依存症や、スマホのガチャへの依存症などは何らかの対策がなされるべきでしょう。
しかしこれらの問題と、「暴力的なゲームが暴力事件を誘発する」というのは全く違う問題です。
ゲームの中で人を殺したから実際に人殺しをしてみたくなったという人間がいたとすれば、それはもはや一般人の精神構造から外れた精神病者ですので、社会にはゲーム規制とは違う対応が求められるはずです。
私は社会から凶悪犯罪ができるだけ無くなれば良いと心から思います。その為にもゲームをやり玉に挙げるのではなく、本来の原因を探る真摯な議論がなされるべきではないかと思います。