eスポーツはゲーム大会ではダメなのか?ゲーム業界の一部が「eスポーツはスポーツ論」を強硬に主張するのはなぜ?

 コラム 
  公開日時 

 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

eスポーツ=ゲームでの対戦はスポーツなのかスポーツではないのか。終わりが見えないこの議論は、果たして必要な議論なのか。

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本題に入る前に先日観戦した「ぷよぷよチャンピオンシップ 2018年度8月大会」の様子を紹介したい。

eスポーツはゲーム大会ではダメなのか?ゲーム業界の一部が「eスポーツはスポーツ論」を強硬に主張するのはなぜ?

eスポーツに興味がない方であっても、ぷよぷよを知らない方はあまりいないだろう。ぷよぷよはそれくらい有名で人気のあるゲームタイトルだ。

eスポーツはゲーム大会ではダメなのか?ゲーム業界の一部が「eスポーツはスポーツ論」を強硬に主張するのはなぜ?

小さな子供でもお年寄りでも、ゲームが得意でも苦手でも気軽にプレイすることができる。それでいてプロプレイヤーの手にかかれば、10連鎖以上の応酬が連続して発生する実に見応えのある対戦競技となる。

eスポーツはゲーム大会ではダメなのか?ゲーム業界の一部が「eスポーツはスポーツ論」を強硬に主張するのはなぜ?

会場には観客の歓声と笑顔が溢れていて、本当に良いイベントだった。

さて、このイベントはeスポーツ大会として開催されたが、果たしてスポーツだったのか。

浜村氏は「遊びレベルのゲームとeスポーツを同列に論じてほしくない」と競技性の高さに自信満々だ。

【アジア大会】急成長のeスポーツ 根強い偏見 アジア大会で「払拭を」(2/2ページ) - 産経ニュースより

JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)副会長の浜村氏は最近このように語ったそうだ。「遊びレベルのゲーム」という表現の良し悪しはここでは置いておいて、プロゲーマーの努力を肯定する発言はゲーム業界にいる筆者としては嬉しい。しかしプロゲーマーが高度なトレーニングを積んでいることと、ゲームでの対戦がスポーツとみなせるかどうかはあまり直接的な関係はないように思われる。ドッジボールは公園でほのぼのと行われたとしてもスポーツと言えるだろうし、受験生が体力づくりのために体力トレーニングを行いメンターを付けたとしても受験はスポーツにはならない。その点で上記の発言は無理矢理感がある。

eスポーツをスポーツとみなすかどうかの議論は、サッカーや野球のように興行として、つまりビジネスとして成立するか否かという要素がセットだ。
もっと言えば、eスポーツはオリンピックの種目として採択される可能性があり、オリンピック種目になるためにはスポーツである必要がある。eスポーツがスポーツでなければ困る理由はここにある。オリンピック種目に採択されれば認知度は一気に高まり産業として飛躍する可能性が高い。「eスポーツはスポーツ論」の先にあるのはオリンピックを経たビジネスとしての可能性である。
eスポーツがスポーツであった方がビジネスとして都合が良い。これを覆い隠そうとしているからなんだかおかしなことになっているのではないか。

冒頭に戻って、「ぷよぷよチャンピオンシップ 2018年度8月大会」を見てみよう。

eスポーツはゲーム大会ではダメなのか?ゲーム業界の一部が「eスポーツはスポーツ論」を強硬に主張するのはなぜ?

笑顔と歓声で選手を讃える観客達。この観客の中に、果たしてぷよぷよ大会はスポーツ大会だという認識を持っている人が何人いるだろうか。

「この大会はスポーツだと思いますか?」

という質問をしたとして、おそらく観客の多くは質問自体に興味がないだろう。素晴らしいイベントであれば良いのであって、スポーツであってもなくてもどっちでも良いのだ。

筆者は少し前まではeスポーツがスポーツであると認知されることが、日本でeスポーツが普及する1つの鍵だと考えていた。しかし最近になってそれは間違っていると感じるようになった。本来どうでも良いのだ、そんなことは。それよりも素晴らしく面白いゲーム大会であることが大事であり、選手が正しく報われることが大事であり、それを支えるファンコミュニティが大事である。

一方でハメコ。氏は2018年1月に開催されたEVO Japanについて,その盛り上がりを見た人が「eスポーツってすごいね」と評価するたびに,「いや,これはゲーム大会です」と言い返してきたという。

プロゲーマー・ウメハラ氏主催の座談会「ゲームと金」レポート。JeSU副会長・浜村弘一氏がプロライセンスの疑問に答えた - 4Gamer.netから

以前からゲーム大会を開催していた団体の中にはeスポーツと呼ばれることに否定的なところもある。彼らは以前からゲーム大会としてやってきたという自負があり、そこにはスポーツかどうかという議論はなかっただろう。

ゲーム大会をeスポーツと呼ぶことでプロゲーマーが職業として成立するようになり、エンターテインメント産業として成立するようになるのは素晴らしいことで、筆者はそれを否定しない。

しかし、

「スポーツという単語には競技という意味もある」

「プロゲーマーはアスリートと同じように高度な鍛錬を積んでいる」

という理屈で、

「いいですか、eスポーツとはスポーツなんですよ」

と強弁するのは、日本社会の一般層からは冷笑されるだけではないだろうか。

世界と繋がるためにeスポーツと呼称しても良い。オリンピックの種目入りを目指すのも良いだろう。しかしオリンピックを絶対視するあまり無理矢理な理屈で支離滅裂になってはいけない。現場から、世の中から見放されては本末転倒だ。

「もういいや、eスポーツとか面倒臭いし、俺らは俺らですげーゲーム大会やろうぜ」

という風に業界が割れてしまうことを筆者としては恐れている。そして、

「やっぱゲームとかやってる奴らはダメだな」

と世の中に見放されることも筆者は恐れている。

「eスポーツって呼んだ方がビジネスになるんです。スポーツってことになった方が儲かるんです。その方が選手にも良い待遇を与えられるでしょう?業界も発展するでしょう?もっとすごい大会が日本でも開けるでしょう?だから協力してください」

日本でeスポーツをスポーツとみなすかどうかの議論はここから始まるのではないか。

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著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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