未成年のオンラインゲームは週に3時間まで、中国の新たな規制がスマートフォンゲーム市場にもたらす影響とは

 コラム 
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 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

2021年8月30日、中国政府は18歳未満の未成年のオンライゲームプレイ時間を1週間に3時間までとする規制を導入した。

未成年のゲーム中毒問題に対応するため、金曜日、土曜日、日曜日、及び休日の夜8時から9時までの1時間しか未成年はオンラインゲームがプレイできなくなるもので、テンセントやネットイースなどの中国の各ゲーム関連会社大手はこれを遵守すると発表している。これに伴う中国ゲーム各社の株価下落のニュースを目にした方も多いだろう。

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この規制の詳細や是非についてはネット上の他の記事に譲るとして、システム的な規制のないスマートフォンアプリゲームにおいてはどのような影響があったのかについて中国ゲーム関係者にヒアリングしたので、この記事ではそれについて共有したい。未成年のオンラインゲームは週に3時間まで、中国の新たな規制がスマートフォンゲーム市場にもたらす影響とは

現在を語る前にまず前段として、実は今までも中国では18歳以下の未成年のオンラインゲームプレイ時間には法的な規制が設けられていた。これは身分証明書と連動したQQアカウント(日本で言うLINEアカウントのようなもの)での認証で機能するものだが、親や知人のアカウントを利用することで未成年であっても好きなだけオンラインゲームを遊ぶことができたのが実態だ。
今回規制はそれをさらに強化したものだが、今までと同じ手法で未成年はオンラインゲームを遊ぶだろうからさほど影響はないだろう、との意見も多く見られた。

さて、まず端的な結果として、9月に入ってからスマートフォンアプリゲームの全体的なプレイ時間が8月と比べて6割ほどに低下したと、ある中国ゲームパブリッシャーは明かす。
前述の通りスマートフォンアプリゲームについてはシステム的なプレイ時間の規制はまだ導入されていないため、未成年であってもゲームを遊ぼうと思えばいつでも遊べてしまう環境にある。
しかし、大手がリリースするメジャーなタイトルについては中国政府の要求に沿って未成年ユーザーのプレイ時間を制限するシステムが個々に導入されている。例えばテンセントは、未成年が他人のIDを利用してゲームを遊ぶことを防ぐために顔認証システムを導入している。顔認証システムの抜け道もあるようだが、中国政府はその対策を強く求めているようで、テンセント側はそれを受けて対応策を強化している。
その効果があったのか、とにかくスマートフォンでのゲームプレイ時間は9月に入って大きく減ってしまった、というのが中国の実情だ。ゲームと相性の良い未成年への規制が数字となって現れてしまった格好だ。
メジャーなゲームにシステム上の規制が入ったことで、ゲームを遊ぶ目的でスマートフォンに触れるという機会が減ったのではないか、とある中国ゲーム関係者は語る。更に、オンラインゲームで友人を待つ時間や、対戦のマッチングを待つ時間にスマートフォンのカジュアルゲームをプレイする、というシーンも未成年についてはほぼなくなってしまったのではないか、と続けた。

未成年のオンラインゲームは週に3時間まで、中国の新たな規制がスマートフォンゲーム市場にもたらす影響とは

現在中国で販売されているAndroid端末については、年齢を確認するシステムが端末メーカーによって導入されており、今後はそれに基づいてゲームプレイ時間を制限するようにという要求が中国政府からなされているとのこと。またiOSアプリについてはiPhoneには年齢を把握するシステムはないので、ゲーム開発事業者がそのような仕組みを実装することになるのではないかと予想されている。

このような状況にあるため、中国国内のスマートフォンゲーム市場は非常に厳しい状況になりつつあるとのことだ。

そもそもこの規制とは関係なく、昨年から中国のスマートフォンアプリ市場は懸賞系のアプリの隆盛により偏った状況が発生していた。特にスマートフォンのアプリ内に表示される広告はその影響が顕著で、売上の半分以上が懸賞アプリになっている広告ネットワークもある程だ。実際に中国の各ストアの人気アプリランキング上位には懸賞系のアプリが目立つ。
このような状況でゲームパブリッシャーが広告を配信したとしても、広告の多くは懸賞アプリに流れてしまう。懸賞アプリのユーザーは懸賞のないゲームには興味が薄く、集客効率は良くない。そのようなユーザーからはゲームアプリは売上を上げることも難しい。
中国スマートフォンアプリゲーム市場においては、アプリ内広告を利用した集客、収益化の両面で厳しい状況が去年から発生していたということだ。

去年からのこの状況に加えての今回の規制は厳しい、と中国スマートフォンアプリゲーム関係者は口を揃える。

広告がダメとなれば、ゲーム内でアイテムを販売するなど、いわゆる「課金」で売上を上げる方法に活路を見出したいところだが、中国では有料販売を伴うアプリのリリースには「版号」と呼ばれる政府のライセンスが必要であり、その取得には政府当局の審査がある。だが今年の8月以降どうもその審査がストップしている、と中国ゲーム関係者は語る。

「2018年にも審査がストップした期間があったが、その頃と同じようにいつ再開されるかは分からない」

とのこと。審査がストップしている原因は更なる規制強化の可能性がある、とも考えられる。
つまり、中国スマートフォンゲーム市場は、アプリ内広告が機能せず、課金アプリの新規リリースはストップしており、そして今回の未成年のオンラインゲームプレイ時間規制、という三重苦にある。四面楚歌とは中国の故事からの言葉だが、まさにそのような様相に見える。

「中国国内の大手アプリプラットフォームは、見通しが不透明なゲームではなく、懸賞アプリに力を入れていくのではないか」

との予想もある。

「今後は中国国内市場への予算は減らさざるを得ない」

とはある中国パブリッシャーの言。

かねてより中国ゲームパブリッシャーは、アメリカや日本への進出に力を入れつつあった。今回の規制はその動きを更に加速するものになるのは間違いないだろう。

著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
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