「東京ゲームショウ2020 Online」に出展されたインディーゲームの扱いと体験版配布についての課題
著者:シェループ
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、史上初のオンライン開催になった東京ゲームショウが先日幕を閉じた。
これまで東京ビッグサイト、幕張メッセの現地開催のみで実施されてきたこのイベントが、初のオンライン開催でどう変わるのか、開催前から注目していたが、蓋を開けてみればゲームメーカー直々の生放送が終日大量に流される、ある意味で特別な4日間になったという印象だ。
併せて、オンライン開催による課題も多く生まれた。特に時間の縛りがないために冗長気味な内容の放送が目立った点は、現地開催の利点を再認識させられた。
しかし、筆者が重大な課題と感じたのが、インディーゲームの扱いである。
何が出展されているのかが分からないインディーゲームたち
例年なら、「インディーゲームコーナー」と称されたスペースに関連するゲームが展示され、自由に並んで遊んだり、開発者と交流することを楽しめた。また、業界・プレス関係者など向けの「ビジネスデイ」の2日目には、「センス・オブ・ワンダー ナイト」と題された独創的なゲームデザイン、アイディアを持つインディーゲームをプレゼン・表彰するイベントが開催されていた。
2020年の「センス・オブ・ワンダー ナイト」はオンラインで開催。日本を含む世界各国から選ばれたファイナリスト8作品が紹介され、生放送形式も相まって多くの注目を集めるに至った。
対し、現地開催なら「インディーゲームコーナー」に展示されたはずのインディーゲームたちはどうなったか。出展したというお墨付きを得ただけだった。ユーザー側の視点から見れば、どこにゲームがあるのか分からない状態になっていた。
主催者側が出展されているインディーゲームの一覧を紹介した特設ページを設けなかったのだ。ゲームファンはどんなインディーゲームが展示されているのか、ヒントなしに手探りで探さなければならなかった。
厳密には出展者の一覧ページそのものは用意されていた。
だが、大手のゲームメーカーと一緒くたにされているのに加え、検索条件を指定して絞り込み、インディーゲームに関連するタグを選び、1個ずつ中身を確かめていかなければゲームを見つけ出せない仕様になっていた。せっかく探し出しても、中には大して情報が載っていないものもあったそのような状況の中で、ゲームファンが好みのインディーゲームを見つけるには、しらみ潰しに探しつくす根気が試されるイベントとなっていた。
正直申し上げれば、あり得ないの一言に尽きる。ユーザー側に、各自自由に探してください、など、放任主義がすぎる。なぜゲームを探すのに「ウォーリーをさがせ!」のような手間をかけなければならないのか。
いやそもそも「ウォーリーをさがせ!」の方が簡単だ。
本当に、専用の一覧ページを用意しなかったことに対して、いちユーザーして強く異義を申す次第だ。専用ページがあるだけでも、出展ゲームの情報はより簡単に把握でき、しらみ潰しに検索する手間も無くせたはずだ。開発者としても専用ページにゲームが掲載されているという最低限のアピールができ、参加費を払った意義を感じられたと思う。
これではどちらも不幸な結果しか残さない。
一体どのような考えの末、こんな結論に達したのか?
開発者がTwitterなどのSNSで宣伝するから専用ページは必要ないという考えでもあったのか。
もしそのような考えがあったのなら、なぜTwitter向けの公式ハッシュタグを用意しなかったのか。
実際東京ゲームショウの期間中はTwitter上で宣伝する開発者も多くいたが、使用するハッシュタグはバラバラで、ユーザー側は情報を整理しにくい状況になっていた。結局積極的にインディーゲームの情報を追っているユーザーの情報を逐一確認し直接呼びかけをしなければ、出展ゲームの閲覧者を集められない状況に陥ってしまっていた。
最終的に、筆者はPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」に開設されていた東京ゲームショウ特設ページで、出展されたゲームの情報を集めることにした次第である。このSteamのページには体験版が配信されているか否かの情報まで記載されていて、遊べるか遊べないかの見分けも付きやすかった。
公式もこれぐらいやって欲しいと思ったのだが、状況が改善されることもなく東京ゲームショウは幕を閉じ、大きな課題が残されてしまった。ユーザー側として心の底から思う。このオンライン開催は最悪だった、と。オンラインという世界中と繋がる枠組みでこうも繋がりにくい環境が作り出されるとは夢にも思わなかった。
やり方次第では現地開催と大差ない環境にできたのではないか。それが大きな不信感を残す形で終わったことは、主催者側には重く受け止めていただきたいところである。
ユーザー視点でもうひとつ課題と感じた事がある。
体験版配信の取り組みだ。
体験版の積極的な配布は良い取り組みだが……
東京ゲームショウ開催期間中には、製作中のゲームの体験版を配布する開発者も少なからずいた。特に前述のSteamには、数多くの体験版が作品ページに公開されており、自由にダウンロードできるようになっている。(執筆時点でも可能)
この施策自体はとても良いことで、オンラインならではのやり方である。会場に足を運ばずとも、出展されているゲームを遊べるのだ。これほど便利さと有難味を感じる手法もないだろう。
しかしこの場合、Steamであるがゆえにどうしても試遊はパソコンに限定される。さらにSteamアカウントの所持も必須となる。
仕方のないことではあるが、これはこれで問題がある。ユーザーは必ずしもパソコン、アカウントを持ってはおらず、また持っているパソコンの性能によってはゲームを遊べない可能性があるからだ。Steamではなく、直接ゲームのデータを配布する場合でも、パソコンの所持と性能に関してはついて回る。特に高精細な映像美を売りにした作品は、要求されるパソコンの性能が必然的に高くなってしまう。これが現地開催ならば、開発者が持参したパソコンで遊べるようにすれば解決する話である。
しかし、オンラインではユーザー側のパソコンを使う形になる。
そのため性能が足りなければ遊んでもらえず終わってしまうこともあり得るというわけだ。
また予期せぬ動作が発生する可能性も付きまとう。開発者のパソコンでは問題なく動作するのに、ユーザーのパソコンではフリーズする、処理が重くなる、強制終了してしまうなどだ。例え性能が足りていても、この問題が発生することはある。
もっと視野を広げれば、パソコンでゲームを遊ぶことに慣れていない人も少なからずいる。その場合だと、ダウンロードしてインストールするまでの手順を事細かに教える必要も生じる上、無事遊べたとしても動かし方が分からない可能性もある。ゲームパッドが必要とされる場合、それを持っていないかもしれない。
あるいは、2019年度の東京ゲームショウがクローズアップした5G(第5世代移動通信システム)のクラウドゲーミングを活用するという手もあった。これならば、ゲームはブラウザで動作するので、ユーザーの持つパソコンの性能にあまり左右されず体験版を提供できただろう。
今回のオンライン開催は5Gとクラウドゲーミングを披露する絶好の機会だったのでは、と思える。イベントのテーマとしては、昨年以上に適していた。しかし残念ながら5Gもクラウドゲーミングも発展の途上にあり、今回の東京ゲームショウには間に合わなかった。
ただ今後、ゲームイベントのオンライン開催において5Gは革新をもたらすことは間違いないと思われる。クラウドゲーミング技術に関しても、体験版配布などに活用される未来の到来を祈りたい限りだ。
現地開催の方がマシと思われるほどの負担を負わせないように
結局のところ今回、インディーゲーム関連で最も問題だったのは主催者側がユーザーにとってわかりやすい導線を敷かなかった、ということに尽きる。これに関してはもし、来年もオンライン開催となるならば、ぜひとも改善をお願いしたい。今年のインディーゲームの展示はユーザーにとって、現地開催でのコーナーを巡る以上に大変だった。二度とこんなことはしたくない。時間の無駄がすぎる。
現地の場合でも人混みの中を歩く厳しさはある。しかし、区分けがされているからゲームを探すのはそれほど手間とは言いがたいし、何よりその流れで今まで気にも留めなかったゲームとの出会いが生まれたりする。
これらがまさに現地開催の強みで、面白い所でもある。
オンラインだとどうしても関心のある放送に目が行ってしまいやすいため、番組を上手く設けられるかにイベントの成否がかかってくるが、これについても満足にフォローできていたとは言いがたい。
開催前日に「asobu INDIE SHOWCASE」、「PLAYISM Game Show」の2つの番組が放送され、一部の出展タイトルが紹介できていたのがせめてもの救いではある。2つの番組は構成的にも面白い内容だった。
1つだけ指摘するならば、どちらも放送時間が2時間以上に及び、冗長さが目立ったため、次回以降はもう少し短く、テンポ良く進行する構成にしてくれればと思う。
初の試みだったがゆえに課題が生まれてしまうことは避けられない。完璧な成果など出す事自体が無茶だ。しかし、インディーゲームの一覧ページを作らなかったことはあまりにも配慮に欠けたものだった。万が一、本当に万が一だと思いたいが、2021年もオンライン開催になるのだとすれば、今回の反省点を活かしてゲームの情報を集めやすい、触れやすいイベントにしてくれればと思う。
最も望むことは、来年は現地開催であって欲しいことだが。
ここ数年、幕張に足を運ぶのが恒例行事になっていた身としては、中止となったことは素直に残念だった。願うなら、来年の開催時期には新型コロナウィルスの動向が落ち着き、多少の対策の上で出向ける状況になっていることを祈りたい。
同様にオンライン開催に関連した技術のさらなる発展にも期待したいところだ。