ゲーム関連造語や呼称に抱く懸念とモヤモヤ感
著者:シェループ
今やインディーゲームは家庭用ゲーム機においても一目置かれる存在になった。一週間の内に発売されるタイトルの総数も非常に多く、特に海外製タイトルに関しては全体の7~8割を占めるなど、一大的な勢力になっている。
それら海外製タイトルはごく一部の例外を除き、基本的には日本語へと翻訳されて発売される。ゲームを販売・購入する場となるオンラインストアのページも当然のごとく日本語に訳され、その内容を紹介したものになっている。
しかし最近、そのようなタイトルのページを見るたび思う。
ちょっとゲーム絡みの造語、呼称を使いすぎではないだろうか、と。
増え続けるゲームを指す造語、呼称の数々
オンラインストアのページに限った話ではない。インディーゲームの紹介でも、内容を解説するにあたってなにかと専門的な造語や呼称が使われる傾向にある。
あくまでも筆者の主観になるが、次に挙げる3つは高頻度で目にする。
ローグライク
遊ぶたびに舞台となるダンジョンなどの構造が変化したり、操作するプレイヤーキャラクターがやられてしまうとゲームが最初からやり直しになってしまうなどの特徴を持つゲームの呼称。
有名な例としては、不思議のダンジョンシリーズがある。
メトロイドヴァニア
巨大な迷路のような地形を進んで、敵を倒したり、新しい能力を獲得したりして、行動範囲を広げながら最終的な目標達成を目指すアクションゲームの呼称。その名が示す通りに任天堂の「メトロイド」とKONAMIの「悪魔城ドラキュラ(キャッスルヴァニア)」が著名な作品例。後者は厳密に言うと1997年発売の「月下の夜想曲」以降、アクションRPGとなったシリーズ作を指している。
ハックアンドスラッシュ
矢継ぎ早に襲い掛かる敵の大群を相手にする戦闘が多く、それらを倒した時に得られる武器や防具、経験値を稼いでプレイヤーを強化する要素を備えたゲームの呼称。著名な作品例としては、Blizzard Entertainment開発のディアブロシリーズがある。前述のローグライク、メトロイドヴァニアでも同種の要素を持つゲームには用いられることがある。
既に十分に専門的な造語であるが、これらのゲームを紹介する流れで更に別の専門的な造語が用いられることもある。
例えばローグライクなら「パーマネントデス(もしくはパーマデス)」というワードが用いられることがある。パーマネントデスは日本語に直せば「恒久的な死」。要は「やられたらゲームの最初からやり直し」を指す言葉だ。
またローグライクは難易度の高さが特徴としてもてはやされる傾向がある。それにちなんで、音楽表現から派生したと思しき「ハードコア」という英単語が用いられることもある。
そして「プロシージャル」。日本語に直せば「手続き型」などの意味があるが、要は遊ぶたびに舞台となる場所の構造が変化する仕組み(システム)を指す単語である。より噛み砕けば「自動生成」となる。
他に紹介において用いられる専門的な造語やジャンル名は多数ある。「ダンジョンクローラー」、「ローグライト」、「プラットフォーマー」。そういった言葉がオンラインストアのページ内紹介文で用いられたり、ゲームの内容を語るに当たって使われることが、特にインディーゲームが一目置かれる存在になって以降は目立ってきた。
だが率直に言って、なぜ普通に日本語を使わないのか、逆に分かりにくくなっていないかと感じる。そもそも、そんな造語を使った所で読み手にゲームの内容が伝わるのだろうか。
筆者はゲームを相応に遊ぶ人間なので、先に挙げた3つの造語は概ねどんなものか想像がつく。しかし「ダンジョンクローラー」に続く2つの造語に関してはイマイチ理解が及ばず、目にした瞬間、真っ先にもう少し普遍的な日本語、外来語で表現できないのかという想いが噴出する。
曖昧な定義と、理解が及んでいるか定かでない現状
個人の主観に依存した印象になるが、ゲームの紹介で使われる専門的な造語、呼称は定義が曖昧な印象が否めず、目にすると表現しがたいモヤモヤ感に襲われる。
「プラットフォーマー」は最たる一例だ。
何を指す言葉かと言えばステージクリア方式、いわゆる面クリア型のアクションゲームのことである。「スーパーマリオブラザーズ」のようにゴールを目指すゲーム、と言えばより分かりやすいかもしれない。
それをひとまとめにしたのが「プラットフォーマー」な訳だが、ハッキリ言って返って分かりにくい。第一、「プラットフォーム(platform)」という英単語は台、大型建造物、電車の駅、果てはゲーム機などの電化製品を指して使われることもある。
そんな複数の意味を持つ造語をゲームジャンルの呼称にすれば、殊更意味が通じにくくならないだろうか?そもそも、昔から「ステージクリア型(面クリア型)」という、もっと分かりやすい表現がありながら、使わないことが不思議に感じてしまう。
高頻度で目にする3つの造語は、定義も曖昧で、プレイヤーごとに解釈が異なることもある。ローグライクは未だ、その使い方を巡って紛糾することがあり、派生して「ローグライト」なる、これまた分かりにくくて定義の曖昧な言葉が誕生するに至っている。
「メトロイドヴァニア」も乱暴極まりない呼称だ。「探索型」という分かりやすい表現がありながら、なぜゲーム作品の名前を使うのか。
そもそも「メトロイド」はれっきとした任天堂の商標である。「ヴァニア」もそう言えるところがあるものの、ルーマニア中部の「トランシルヴァニア」を指すところも含むため、ギリギリ回避できている感じである。ただ、わかりにくいことに変わりはない。
そんな片側が完全に特定の作品(および生命体)を指す呼称をゲームメディア、ゲームファンが使うのはまだよいとして、「Sundered」、「Touhou Luna Nights」と言った作品のストアページが示す通り、ゲームを販売する側が使っている一例があるのはさすがにどうなのかと物申したくなる。海外で売る際に用いた方が広く伝わる、という理由があったとしてもだ。商標に抵触するからとの理由で、使用を控えた「Bloodstained: Ritual of the Night」の姿勢を見て、何も感じないのだろうか?
確かに海外だとどちらも日本以上に大ヒットを飛ばしているため、この造語を用いれば強い訴求力を備えられるのかもしれない。意味も伝わりやすいのだろう。それ以前に、元は海外で産まれて日本に渡ってきた造語と言われる。全く受け取り方が異なる国で、このような言葉を使った所で、それは果たして伝わるのだろうか?
このような造語が頻繁に使われるようになり、浸透していくのにはモヤモヤするばかりだ。ことに日本国内ではゲームに関する造語、ジャンル名なども含め、広く正確に理解されているかも怪しい。それゆえ、ゲームメーカー側ですら解釈違いを起こすことまである。
任天堂公式サイトにある「シューティングゲームであそぶ [2D編]」のページが象徴的だろう。シューティングゲームと言えば、戦闘機、宇宙船などが空で戦うゲームを連想するかもしれない。
ところが、件のページでは陸地でマシンガンのような武器を撃ちながら戦うアクションゲーム「Cuphead」、探索型アクションの「ブラスターマスターゼロ」まで混じっているという、目を疑うようなピックアップになってしまっている。当然ながら、これに関しては初掲載時に物議を醸したほどである。
こんな世界的にも有名なゲームメーカーが間違えてしまうのだ。ゲーム造語、ジャンル名がちゃんと理解されているのか疑うのも無理はない。そもそもアクションゲーム、シューティングゲームの意味も理解されているのかすら怪しく感じてしまう。
そのような環境下で、専門造語が乱用され、広まることには危うさを感じてしまう。なぜこう言った言葉が使われる傾向がこうも強くなってしまったのだろう。
PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」が日本語化したのも大きいのだろうか。Steamではストアページごとにゲームの特徴を端的に紹介した「タグ」が設定されていたりするが、そこに大量の専門的呼称、造語が使われている。一時期は全体が英語だったが、今では日本語非対応のタイトルであっても評価やタグの部分は日本語で見れるようになっている。それを機に使われていた言葉の数々が溢れだし、今の傾向に至った……のかもしれない。
そして、実際に使うゲームファン、ゲームメディアも多くなったことから、海外タイトルのローカライズに携わる人たちの間で「意味は通じる」と考え、ストアページの中でも無意識に使ってしまっているのかもしれない。
もしそんな考えで使っているのだとしたら、大きな誤解だと言いたいし、「メトロイドヴァニア」のような商標に抵触する呼称の危うさを理解して欲しいと言いたい。海外で使われている造語が日本で正しく伝わっている確たる客観的証拠はないし、間違って解釈されている例すらある。現にゲームをよく遊ぶ筆者ですら意味が分からない造語があるぐらいなのだ。
もう少しどころではない。もっと造語の使い方には慎重になっていただきたい。
全ての造語、呼称が悪い訳ではないが……
とは言え、専門的な造語、呼称は何も分かりにくいものばかりではない。例えば前述の「Cuphead」のような陸地を走りながら銃を撃ちまくるゲームを指す呼称「ラン&ガン」は、元の特徴を的確に捉え、定義もはっきりしたものだ。
筆者も数ある呼称の中でも、これに関しては否定的な感情はなくよく使っている。決して全ての造語や呼称がダメな訳ではない。定義と特徴を明確に捉え、商標に抵触するような要素が無い造語なら、どんどん使っていくべきだと思う。
ゲーム全体にカッコイイ雰囲気、何だか凄そうな作品のイメージを付けられるのは各造語と呼称の持つ強みと言える。長くなってしまう説明を短縮できるのもまた然りだ。現にゲームの内容を紹介するのは本当に難しい。細々と書こうとすれば長文になってしまうし、要点を書いたとしても何に触れ、何に触れないかの取捨選択によっては誤解を与えるものにもなりかねない。そんな手間を省ける点でも専門的な造語、呼称は便利な道具とも言えるかもしれない。
だがいくらメリットや魅力があるにしても、余計分かりにくくなったり、そのゲームに難しそうとか、やりにくそうなイメージを植え付けてしまうのは問題だと筆者は感じる。間違った解釈を与えるのも問題だ。商標抵触は完全にアウトである。
ゲームを紹介する文章を書くにあたって、専門的な用語や外来語を使う場面はどうしても出てきてしまう。使い手は意味を理解していても、読者側が理解しているという保証はない。一般に浸透している外来語を使ったとしても意味が分からないとの反応が返ってくることがあるぐらいだ。
故にである。
こういう専門的な造語や呼称の広まりで、ゲームの紹介文は難解なものが多いとのイメージが根付いてしまうのには大きな不安を感じると同時に、危惧すべき事態になっているように思える。
主にストアページの紹介文を書く方々には強く物申したい。その専門造語、使ったところで伝わりますか、意味を理解してますか。商標に抵触していたりしませんか。全ての専門用語を廃することは絶対に無理で、いずれは例に挙げたものも近い未来、定着するのかもしれないが、ただでさえゲーム造語への理解が進んでいるかもハッキリしない現状。使うにあたっては慎重さを要求したい。
そう言った姿勢が少しずつでいい。
大事なものとして認識されるようになっていくことを願いたい。