「時空の歪み」を見せた2021年のゲームから見る2022年のゲームの行方
著者:シェループ
何を今更な話だが、2022年を迎えて2ヶ月が経つ。
既に今年度発売の新作も多数参上しつつあるこの頃だが、それらを見てふと思ったのが昨年2021年のことである。本稿執筆時点でも2022年発売の新作には、シリーズ系なら前作からそんなに時間が経っていないもの、もしくは初お目見えのものが目立つ傾向にある。
対して2021年は今思っても異様だった。
20~30年前に好評を博した懐かしのタイトルが目立っていたからである。
元々、2020年暮れの時点で「2021年のゲーム界隈は時空が歪むのでは」と推測されるものがあった。当時の2021年発売の新作スケジュール上において、その手のタイトルが沢山名を連ねていたためである。
そしていざ蓋を開けてみた結果、スケジュール以上の関連タイトルが続出。
名実ともに歪みが際立つ1年になった。
同時に2021年は一連のタイトルの持つ強みを証明した年だったように、今更ながら思う。その強みとは話題性。それも年月の経過とともに熟成された話題性である。
「今、何年!?」と言いたくなる懐かしのタイトル復活が続いた2021年
2021年にはどのようなゲームが復活を遂げたのか。振り返ってみると、有名なものから知る人ぞ知るものまで、本当にバラエティーに富んでいた。
20~30年前に誕生し、長らくシリーズ展開が途絶えていたものに絞ると、「帰ってきた魔界村」、「Newポケモンスナップ」、「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女」、「アクトレイザー・ルネサンス」、「コットン ロックンロール」など。
その中でも特に「アクトレイザー・ルネサンス」は、発表のあった当日から販売を開始する文字通り青天の霹靂な登場をしたのもあって、30年前に発売された原作のスーパーファミコン版を知る世代の度肝を抜いた。
原作をそのまま、現行のゲーム機などで遊べるようにした復刻版も多数登場している。
2020年末の時点では、「サガ フロンティアリマスター」、「コットン リブート!」といったタイトルが並んでいた。
年が明けると、そこに「ディアブロII リザレクテッド」、「聖剣伝説 Legend of Mana」、「Castlevania Advance Collection」、「暴れん坊天狗&ZOMBIE NATION」といったタイトルが登場。さらに10~15年前に発売されたタイトルでも「AKIBA'S TRIP ファーストメモリー」、「NINJA GAIDEN: マスターコレクション」、「ゼルダの伝説 スカイウォードソード HD」、「エルシャダイ(El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON)」などが相次いで発表され、現行のゲーム機やPC向けに発売された。
また、1986年12月の発売から35年を迎えた「夢幻戦士ヴァリス」もNintendo Switch向けにPCエンジン版のシリーズ3作をまとめた「夢幻戦士ヴァリス COLLECTION」を発売。その直前には「ヴァリス復活応援プロジェクト」と題したクラウドファンディングも開催され、1500万円以上の応援購入を達成する快挙を成し遂げ、注目を集めた。
他に名作RPG「ファイナルファンタジー」のシリーズ初期の6作の「ピクセルリマスター」なる復刻版、2006年にニンテンドーDSで発売された「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」のNintendo Switch向けリメイク版の発売も忘れてはならないトピックだ。
こうして名を挙げてみるだけでも、心から「今、何年?」と言いたくなる1年だった。
しかも復刻に留まらず、リメイクや続編といった事実上の新作に該当するタイトルも発売されている。このような懐かしのタイトルの復活は、決して今に始まったことではない。およそ5~6年前より継続中にある、一種のトレンドだ。
しかし、2021年発売の関連タイトルの多くは、いつになく強烈な存在感を示していた印象がある。それを物語るのが各タイトルの熟成された話題性。これによって原作や前作が発売された当時を遥かに上回る注目を集め、当時を知る世代に留まらず、若い世代の関心をも引き付けるタイトルが出ていたのである。
年月を重ねて熟成された話題性の強さと、それが証明されての今後
とりわけ象徴的だったのは「アクトレイザー・ルネサンス」と「暴れん坊天狗&ZOMBIE NATION」の2つだろう。いずれも原作は何百万本も売り上げたほどの大ヒット作ではない。「暴れん坊天狗」に至っては販売本数すら不明に加え、原作はファミリーコンピュータ(ファミコン)用ゲームソフト。
それも1990年12月という、当時の最新ゲーム機「スーパーファミコン」の発売間もない頃に出たタイトルで、若干マイナー寄りだった。
それでも当時は宣伝用の車を走らせたり、飛行船を飛ばすなど、大掛かりなプロモーションを実施したということが、件の「暴れん坊天狗&ZOMBIE NATION」内の資料で紹介されているのだが。
そんなお世辞にも当時は大ヒットしたとは言えない2作。だが、2021年の復活では原作当時を上回るかもしれないほどの注目を集めることになった。
なぜ、そんなことが起きたのか?
考えられる可能性は、2作共に唯一無二の特徴を持ち合わせており、遊んだ側に強烈な印象を残すゲームだったことだ。それによって、当時遊んだ世代からは熱烈な支持を獲得し、インターネットが普及して以降は広く、その魅力が語られていくようになった。
また、原作の中古市場における販売価格高騰及び稀少品化、テレビ番組などでの遊ぶ模様の紹介、関連商品の発売などで再注目を集める機会も得るなりして、徐々に伝説的なゲームとして印象が熟成されつつあった。
それらを経ての復活だ。注目を集めたのもある意味、自然な流れだったと言える。元来のゲームとしての魅力などが長い年月を経て語り継がれて熟成され続けた結果、高い話題性を宿す存在へと様変わりしていたのだ。
「アクトレイザー・ルネサンス」の場合、発表と同時に販売を開始するという怒涛ぶりも注目されたため、単純に話題性だけがもたらしたものとは言い切れない。それでも原作に当たるスーパーファミコン版に熱烈な支持と、唯一無二の特徴があったのは揺ぎなき事実。
「暴れん坊天狗」もまた然りで、凶星によって地獄と化したアメリカを救うため、大天狗のお面が戦うという設定は、2022年の今現在で見ても「何を食べたらそんな発想に行きつく!?」と物申したくなるほど独創的だ。いや、むしろ狂気的か?
とにもかくにも、そういった強みと今の視点で見ても訴えかけるものを持っていたからこそ、この2作は幅広く注目されることになったのだろう。
同時に懐かしのタイトルにおいて、その後も語り継がれる魅力や特徴を持つ作品は、SNSが広く普及した現代において当時に匹敵、もしくはそれ以上の話題性を炸裂させるとの事実と底力を思い知らされる。
それが熟成され続ければ、なおのこと威力も大きなものになる。
「大丈夫だ、問題ない。」の(汎用性も高い)名台詞で知られる「エルシャダイ(El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON)」はその好例であると同時に、これからさらに年月を重ねた後の動向が見逃せないタイトルだろう。まだPC向けの展開に留められているが、これが現行の家庭用ゲーム機にも展開となれば、またひと騒ぎあるかもしれない。
まだ復刻には至っていないものだが、「アクトレイザー」と同じ会社が制作した「ソウルブレイダー」、「ガイア幻想紀」、「天地創造」というスーパーファミコン向けに発売されたアクションRPG3作も仮に復活するとなれば、高い話題性を発揮するのは確実だろう。
ヒット作の例でも、「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」のリメイクこと「ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール」の発売が決まった時の賑わいは言わずもがな。
そして、復刻されていないタイトルだが、丁度、2021年で発売から20周年を迎えた「バトルネットワーク ロックマンエグゼ(ロックマンエグゼ)」シリーズも、発売日当日やネット上に関連する記事があがるとSNS上ではトレンド入りを果たす熟成ぶりを見せている。仮に復刻が正式に決まった時、SNS上ではどんな騒ぎになるのか。およそ想像はつくが、まあ……凄いことになりそうではある。
他に「夢幻戦士ヴァリス COLLECTION」のクラウドファンディング成功など、年月を重ねたタイトルの底力を見せつけられた出来事は2021年内に沢山ある。そうならなかったタイトルも少なからずあるが、このような証明が行われた現状、今後はさらに話題性を狙ったタイトルの発表および復活が続出しそうな予感も抱かされる。
特に家庭用ゲーム機界隈は、今なお実績のあるシリーズ作以外の完全な新作が出しにくく、売れにくい状況が続いている。そんな中、往年のタイトルで、話題性が熟成されたものは強力な武器になることが多く証明された2021年の動向は、何かしら影響を及ぼすかもしれない。それこそ、その手のタイトルの復活が加速化するといった具合に、だ。
ただ、それは出来の悪い復刻も現れかねないとの懸念がある。幸い2021年発売のものからそれ以前のもので、極端に出来の悪いものは出てきていないが、間違っても名作と評価された原作を汚す復刻が続発しないよう、心から祈るばかりである。今から18年前、ファンの多くに血の涙を流させた某ロボットアクションゲームの悲劇を知る身としては殊更に、だ。
増える未来が来ても、新作が埋もれないような配慮を
もうひとつ申せば懐かしのタイトルを増やし過ぎて、新作が目立ちにくいような状況も回避願えればと思う。現に2021年は、懐かしのタイトルが発表されては話題を呼び過ぎたあまり、完全な新作が注目されにくい環境が醸成された印象も否めないからだ。
厳しい状況下でも話題集めに尽力し、成功を収めたタイトルも少なからずあるが、本来注目されて望ましいのは旧作よりも新作。そのバランスが乱れ気味だっただけに、2022年はそれが適切な塩梅に調整される方へ向かうのを願うばかりである。好意的に捉えるならば、今後はゲームという文化の成熟が進んでいくことの表れとも言えるのだが。
ともあれ、2022年は昨年とは対照的に完全新作、それも大型の話題性高めのタイトルが続出する兆候を見せている。
復刻も昨年に比べたら落ち着いている……と、1月の時点では思われたが、2月に放送された「Nintendo Direct 2022.02.10」において「ライブアライブ」、「クロノ・クロス」、「風のクロノア」といった懐かしのタイトルのリメイク、リマスターが相次いで発表。いずれもやはりというか大きな注目を集め、昨年に近い状況が出来つつある。どの作品も復刻は喜ばしい報せではあるが、また昨年の繰り返しになるのかと思うと内心複雑だ。
色々時空が歪み気味だった2021年から、2022年はどこまで元に戻せるのか。
望むのはどちらもバランスよく展開される1年であること。
今の時代を意識させないタイトルが相次ぐのもそれはそれで面白い。だが、それ以上に新しいタイトルとの出会いの方が沢山ある1年になることに期待を寄せたい。
そのためには自らも新作に目を向ける意識をしなければならないが。
2021年、懐かしのタイトルに目を向けすぎた結果、完全な新作と言えるゲームの購入を怠ってしまった人間の誓い……であります。いや、ホントに気を付けよう……。