円安とゲーム事業、インディーゲーム界隈への影響は?
著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
1ドル150円をなかなか割らないという歴史的な円安が継続しています。2022年の2月ごろに始まったこの円安傾向もすでに2年以上経過しており、円安という言葉に慣れてしまった方も多いでしょう。
円安のきっかけはアメリカ政府の利上げ政策ですので、ドル高という側面もありますが、円は他の通貨に対しても安く推移しており、さまざまな通貨に対して円は安い、という状況です。
円安は国際的にみて円建ての資産価値を減少させるため日本の国力という点で懸念がありますが、来日観光客が増えたり、輸出産業が活性化したりと良い側面もあるため、一概にただ悪いとは言えないものでもあります。
さて、ではこの円安はゲーム界隈、特にインディーゲーム開発者にとってはどのような影響があるのでしょうか。
まず、日本にだけゲームをリリースしているゲーム開発者には影響は少ないでしょう。円だけで売り上げを上げている場合はほぼ為替の変動は関係ありません。
間接的な物価上昇などは影響がありますが、これはゲーム界隈に限ったことではありません。
収入が受託案件メインのゲーム開発者は少し影響があるかもしれません。受託元のゲームメーカーなどが為替変動による業績の影響を受けている場合は、その影響が個人の委託先にも及ぶ可能性があります。
ただこれは受託元が為替変動によって利益を得ているか否かによって異なります。つまり、良い影響がある場合と悪い影響がある場合とがあるでしょう。
ただ、ここのところ大きなゲームメーカーから個人への案件の委託が減少しているという話もあり、為替変動路は別のところで受託メインの個人のゲーム開発者にとっては少し厳しい状況かもしれません。
さて、海外でゲームを展開していたり、海外からの案件受託をしているゲーム開発者さんにとっては、円安は良い影響が大きいでしょう。
円が安い分、例えばドル建てで売り上げが上がる場合、ドルでの金額が変わらなくても円での金額は上昇します。
海外のユーザーが多いゲームを出している個人開発者さんなどには円安は大きなチャンスだと言えます。
別の側面として、円安は海外渡航費用の上昇を意味します。例えば私は台湾やベトナムによく出張しますが、円安の影響でかなり出張経費が上がっていることを痛感します。
もちろん現地の物価高もありますが、円安も大きな影響があり、さすがに少し出張の頻度を抑えようかと考えています。
海外へゲームを出す際のマーケティングの1つの手法として、海外のゲームイベントへの出展がありますが、事業規模の小さなインディーゲーム開発者にとって、円安による海外渡航費用の増大は大きな問題になります。
円安の期間は、直接的な成果の見えにくい海外のリアルイベントに出展するよりも、オンラインでのマーケティングに専念する、というインディーゲームも多いのではないかと思います。
どのような商売も一般的に、売上の前にマーケティング費用が発生しますので、その意味で小規模なゲーム事業者にとって円安は売上を上げるチャンスでありながら、マーケティング費用の増大によって難しい局面である、という状況です。
コロナ禍を経て、ゲームのマーケティングのあり方はよりオフラインにシフトしてきました。
日本のインディーゲーム界隈にとっては、円安もまた活動のオフライン移行を促進させるものになりそうです。
オフライン主体のマーケティングそのものは悪いものではありません。むしろゲーム事業とは相性が良いと言えるでしょう。
しかし、オフラインには新たな、ランダムな出会いや発見は少なく、すでにある程度わかっている人向けの手法ではないかと思います。
2024年の現在も、現地に赴いて現地のファンや事業者と話すことには大きな価値があります。
円安の解消と日本の適切な物価の上昇、というのは、日本のゲームの海外展開にとっても望ましいことだと筆者は考えています。