iOS App Storeの4.3リジェクトとは?シリーズものゲームの続編はもう出せない!?脱出ゲームで相次ぐリジェクト

 コラム 
  公開日時 

 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

9月中旬頃から、アプリ開発者の皆様から、特に脱出ゲーム開発者の皆様を中心に「4.3リジェクト」という単語をよく聞くようになりました。

スポンサーリンク
リジェクトとはiOSのApp Storeでのアプリ掲載の申請がAppleから拒否されてしまうもので、最近になって「App Store審査ガイドライン」の第4条「デザイン」の第3項「スパム」に抵触している、とされる事象が多発しているようです。

日本のアプリ市場の約半分のシェアを持つiOSのAppSore。そこでアプリを公開できないというのは、アプリ開発者にとってはまさに死活問題。この4.3リジェクトの多発によって一部のアプリの開発を諦める開発者も出始めています。

iOS App Storeの4.3リジェクトとは?シリーズものゲームの続編はもう出せない!?脱出ゲームで相次ぐリジェクト

この記事では、iOSのAppStoreでの「4.3リジェクト」について、筆者の周囲で情報の多い脱出ゲームに焦点を当てて、開発者さんの実際の体験談などもご紹介しながらその概要をご説明します。

App Store審査ガイドライン4条3項とは

まず最初にAppStore審査ガイドラインの該当箇所を見てみましょう。

https://developer.apple.com/app-store/review/guidelines/jp/#spam

同一のアプリケーションに対して複数のバンドルIDを作成しないでください。特定の場所、スポーツチーム、大学などに向けた異なるバージョンが存在するアプリケーションの場合は、単一のアプリケーションを提出し、異なるバージョンはApp内課金で提供する方法を検討してください。また、すでに飽和状態のカテゴリにアプリケーションを追加することは避けてください。App Storeには、おなら、げっぷ、懐中電灯、カーマ・スートラといったアプリケーションが多数あります。App Storeでスパム行為をすると、Developer Programから除名される可能性があります。

このように記載されています。
要するに

似たようなアプリは1つにまとめてね

既に出ているアプリと機能が同じアプリはダメ

これを守らないとスパムとみなすから

ってことですね。
まっとうなことを言っているように思えますが、これがなぜ今回問題になっているかというと、例えば

ドラクエ2ってドラクエ1と同じでしょ?キャラも似ているし魔法とかも一緒やん?マップとかアイテムとかちょこちょこっと変えてもダメだから。これスパムだから。

みたいなことが起こっているからなのです。
※上のドラクエの例はあくまで例です。分かりやすい例えにするために多くの方が知っているタイトルを例として使わせていただきました。

実例その1 Abluesさんの脱出ゲーム

では、実際のリジェクト例を見てみましょう。
Abluesさんはブログで経緯の詳細を公開されていますので、ここでは要約してご紹介します。
より詳細に知りたい方はAbluesさんのブログを御覧ください。

Abluesさんは、コツコツと3Dの脱出ゲームを開発してリリースしてきたゲームデベロッパー。SQOOL.NETの関連記事も大きなアクセスを集めており、多くのファンに愛されていることが分かります。

iOS App Storeの4.3リジェクトとは?シリーズものゲームの続編はもう出せない!?脱出ゲームで相次ぐリジェクト

【おすすめ脱出ゲーム】Ablues (Aradera Nagayuki氏)

しかし、

結論から申しますと、2017年の6月あたりから去年よりも審査が厳しくなり、AbluesはiOSで新作脱出ゲームを出すのはほぼ不可能となりました。

とのこと。
ここに至るまでApple側とも協議を重ねてきたそうですが、

去年からAppleの方針が変わり、同じジャンルのものであった場合はコンテナアプリ化してもらいたいということになったため、現在の状況が生まれたとのこと。

Abluesは明確に脱出ゲームはこのコンテナアプリ以外受け入れないと言い渡されました。
理由としては、もう脱出ゲームをたくさん出しているから、同じキャラクターを使うのはダメだし、コンセプトを変えただけでもダメ、ということらしいです。

・・・・。
AppleはiOSを世に広め、スマホという新しい端末で新しい時代を切り開いてきました。多くの個人アプリ開発者を生み出し、こと日本においては、ゲーム市場は大いにAppStoreの恩恵を受けてきました。Appleは近年まれに見る素晴らしい会社です。
しかし敢えて言わせていただければ、

この解釈は最低です。

最低というか、もう全然ダメ。

Appleの担当者はアプリゲームをプレイしたことが無いのでしょうか。

脱出ゲームというのは日本にだけあるゲームのジャンルではなく、世界ではescape gameとして親しまれている、1つの大きなゲームジャンルです。
PCサイトのFlashゲームの時代から、様々なゲーム制作者が趣向を凝らして、様々な謎をユーザーに提供してきました。
謎を解いて脱出する。このシンプルなゲーム性が愛されてきたのです。ですから、ある程度趣向が似ているのは当たり前なのです。スマホが世に出るずっと前から脱出ゲームとはそういうものだったのです。

脱出ゲームは、その教育性の高さからも非常に優れたコンテンツで、スマホとの相性の良さもあり、日本では非常に多くの固定ファンを持ち、ブーストによる人気ランキング操作が全盛であった頃も脱出ゲームだけはノンブーストでトップ10に入るほどの人気っぷりで、今なおその人気は継続しています。
その優秀なコンテンツ性と多くのファンの支持により、脱出ゲームはアプリゲーム超レッドオーシャンの日本市場において、個人開発者・中小の開発者が健全に土壌を開拓してきた貴重なゲームジャンルの1つになっているのです。

いいですか?
子供が「シャーロック・ホームズ」を読んで謎解きにワクワクし、謎が解けるたびに新たに出てくるストーリーに興奮する。脱出ゲームはスマホでそんな楽しさを、誰でも、子供でも、タイトルによっては字が読めなかったとしても、手軽に楽しめる優れたコンテンツです。その舞台が学校だったり、自宅だったり、教会だったり、アリスの世界だったりするんです。ユーザーはそれを楽しみに待っているわけです。

シャーロック・ホームズのシリーズの「四つのサイン」を見て、

これは「緋色の研究」と同じでホームズが主人公だし、ワトソンとかハドソン夫人とか出てきて謎を解くというコンセプトも一緒だし、スパムですね、リジェクトですね。
今後同じような小説を書いたらBANですね。

とか出版社が言い出したら気が狂ったと思いますよね?

実例その2 ナカユビ・コーポレーションさんの脱出ゲーム

さて、2例目です。
ナカユビ・コーポレーションさんは最近急激にファンを増やしている新進気鋭の脱出ゲームデベロッパー。その高い開発力で月に2本程度の脱出ゲームをリリースしています。

【おすすめ脱出ゲーム】ナカユビ・コーポレーション

ナカユビ・コーポレーションさんは「映画館から脱出」「おとぎの国から脱出」の2本で4.3リジェクトを経験。

iOS App Storeの4.3リジェクトとは?シリーズものゲームの続編はもう出せない!?脱出ゲームで相次ぐリジェクト

参考にナカユビ・コーポレーションとAppleとのやり取りの概要を伺いましたのでご紹介しましょう。

--------------------------

Apple
コンテンツも機能も同じ。ユーザーに誤解を与えている。スパムである。このような行為を続けるとアカウント消すよ

ナカユビ・コーポレーション
まずはコンテンツは明らかに変更されていることを伝える。
審査に提出したアプリは似ているキャラクターがいることは事実であるが、ゲームを始めてみると全く違うものであるとわかるだろう

次に脱出ゲームというジャンルの性質上、機能を変えることはむしろユーザーに誤解を与えることを説明。
最後に脱出ゲームでのダウンロード数や評価の高さなどの実績をアピール。

上記内容のメッセージを送信。アプリの内容は変更なし。

Apple
コンテンツは異なっていることは認めるが、機能が同じである。(過去のアプリを3作品名指しで)スパムである

ナカユビ・コーポレーション
前回とほぼ同じ内容のメッセージを送信。

しかしアプリは公開されずリジェクト。

Apple
対応できないのであれば、Webアプリを出してください

ナカユビ・コーポレーション
UIを修正。
タイトル画面の修正。
その他ボタンのデザイン等を変更して、修正した感を出す。

Apple
リジェクト

ナカユビ・コーポレーション
複数の新機能を追加。

Apple
リジェクト。

しかし、4.3が消えていて別のガイドラインに引っかかっていた。

ナカユビ・コーポレーション
修正し再申請。
審査通過。

メッセージのやり取り等含めると10回近くのリジェクトを乗り越えてのリリース。

--------------------------

よくぞ諦めずにリリースに漕ぎ着けたものです。しかも2本。
ただ、このような4.3リジェクトが続くようだと正直厳しい、とナカユビ・コーポレーションの担当者は語っています。

ナカユビ・コーポレーションさんの交渉経緯を見ると、Appleの担当者に「脱出ゲームアプリの新規リリースの正当性」を解くのは現段階では難しいような感じがします。

4.3リジェクトに引っかかったら、諦めてUIを変えたり、新機能を追加したり、4.3リジェクト用の対策をするしか無いのでしょうか。

果たしてそんなことをユーザーは望んでいるのでしょうか。
審査を通すためにのみ追加されたUIや新機能。それがゲームに一体どんな価値をもたらすのでしょうか。
その為に伸びる開発期間はそのまま開発コストとなってアプリデベロッパーの負担となり、本来はもっと早く脱出ゲームを楽しめていたはずのユーザーは「なんか最近脱出ゲームあんまり出ないね」と思いながら過ごすことになるのです。

コンテナアプリにすれば良いのか?

この4.3リジェクトの解決方法の1つは、コンテナアプリ化することです。

コンテナアプリとは、似たような機能を持つアプリをまとめたプラットフォームのアプリをリリースして、新規に追加する機能はアップデートで対応するというもの。実際にAppleはガイドラインの中でこの方法を推奨しているようです。

これを脱出ゲームに適用するなら、1つのメニュー的なアプリをリリースして、その中に新しい脱出ゲームのストーリーを追加するような形で展開していく、という事になります。

Appleは審査ガイドラインの4条3項の解釈を自ら誤っている」と筆者が考えていることは一旦置いておいて、現状のAppleの解釈に沿って今後脱出ゲームアプリをiOSで展開していく場合、コンテナアプリは果たして現実的なのでしょうか。

問題はいくつかあると思います。
まずは「アプリが巨大化する」という点。今まで個別のアプリに別れていて、ある意味手離れの良かった脱出ゲームですが、これがコンテナアプリになると、そのデータ容量はどんどん大きくなる、ということになりそうです。
※この辺の技術的な問題点については筆者はエンジニアではないのでよく分かっていません。何か具体的にご指摘いただける方がいらっしゃいましたらコメント欄お問合わせページなどからお知らせ頂けますと助かります。

もう1つは新規性の欠如。
新たなアプリがリリースされることと、既存のアプリに機能が追加されることとではユーザーから見ると大きな差があります。AppStoreの新着にも掲載されなくなります。ただ、ここはそういうものとしてちゃんと苦労してね、と言われれば納得するしか無いような気もします。個人開発者は全滅してしまうでしょうけど・・・。

Appleとしては、アプリの数がストア内で無尽蔵に増えていくのを抑えたいのかもしれません。
また実際にガワだけ変えたスパム的なゲーム(例えば日本であれば「激ムズシリーズ」など)が大量に出回ったのも事実で、それを抑制したいというAppleの事情もあるでしょう。

Abluesさんのブログによると、

海外ではAppleに対してDeveloperが組んでGuideline 4.3に関して裁判を起こしている状況だったりもします。

とのことで、おそらく脱出ゲームに限らず色々なアプリでのAppleの4.3リジェクトへの不満が世界中で発生しているのでしょう。少なくとも「似ているからスパム!」と言われたことについて納得していないデベロッパーが大勢いるのだろうと思います。

最後に、物心ついた頃からゲームを遊び、それが高じてゲームメディアを事業化した筆者の意見をささやかにまとめますと、

「教室からの脱出」と「理科室からの脱出」は別のゲームだし、「地下室からの脱出」と「結婚式からの脱出」は別のゲームなので、アプリでリリースする場合は別のアプリとしてリリースするのが自然で当然で当たり前なので、「似てるからスパム」とか言ってリジェクトする姿勢は全く理解できません。

ストアの健全性のために、ちょっと負担になるのは分かるけど脱出ゲームも1つにまとめて欲しいんよ、ごめんけど。
みたいな感じだったらまだ分からんでもないんですが。(でもそれって少なくともスパムだ!とか言って一方的にリジェクトするようなことではないと思うんですよね

■続編
4.3リジェクト対策を考える【脱出ゲーム開発者向け】コンテナアプリのメリットと、脱出ゲームの種類について

著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
著者Twitter