日本のド真ん中、岐阜市柳ケ瀬商店街「第3回全国エンタメまつり」はエンタメ町おこしのモデルケースになるのか?:黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 第12回
著者:黒川文雄
去る8月3日、4日の岐阜県岐阜市の中心街「柳ケ瀬商店街」を中心に展開された、ゲーム・エンタテインメント系による町おこしイベント「第3回全国エンタメまつり(以下:ぜんため2019)」に参加しました。
「ぜんため2019」は、柳ケ瀬商店街を中心にした町おこしイベントで、岐阜新聞と「魔界戦記ディスガイア」シリーズなどのソフト開発で知られる日本一ソフトウェア、岐阜市でイベントやプロモーション活動を手掛けるヒラタ産業がタッグを組んで展開するもので、今年で第3回目を迎えました。その規模は年々大きくなっています。
「ぜんため」の主旨はエンタメ系クリエイターを中心にゲストを招聘し、ゲームの体験試遊や、カードゲームの講習会、eスポーツ大会などを通じて、一般のファンとの交流の場を提供し、地域の店舗とのコラボ展開、たとえば喫茶店やレストランなどであれば、ぜんため開催期間中の特別ドリンクやメニューを展開するという町おこしや地元の方との交流をゲームやエンタメを通して行うものです。
ぜんためは、全部で6つのゾーニングに分けられています。
eスポーツのイベントに特化した「eスポーツステージ」、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下:SIE)の展示と、全国からインディーゲームクリエイターが集結した「インディー通り1丁目」、VR系コンテンツの体験が楽しめる「インディー通り2丁目」、話題のインディーゲームが体験できる「インディー通り3丁目」、そしてトークやライブを開催する「メインステージ」、柳ケ瀬商店街メインストリートは「ゲームストリート」として開放されており、SNK、任天堂、セガゲームス、アークシステムワークス、TSUKUMO(ツクモ)、などが出展しており、早朝のブース準備の段階から一般のファンが集まり、今か今かと試遊機に電源が入るのを待っている様子もうかがえました。
ただ地元の方にお話を伺うと、普段の柳ケ瀬商店街はいわゆる「シャッター商店街」で、この「ぜんため」の活況はあくまでも一時的なものだという声も聞かれました。
美川憲一「柳ケ瀬ブルース」のあの頃
ここで、ぜんためが開催される伏線になったと思われる地域の事情を考えてみたいと思います。それには私自身の記憶も遡ってみたいと思います。
「ぜんため」の展開地、「柳ケ瀬」と私の接点は古く、昭和59年(1985年)当時まで遡ります。
当時、私は「ドラゴンクエスト」のゲームミュージックをサウンドトラック化して発売し、ゲームミュージック・シリーズを打ちだしたアポロン音楽工業(レコード会社)の営業マンとして岐阜県を担当していました。
岐阜市は名古屋から名鉄特急で約30分、戦後の日本、高度成長期に繊維産業で発展した都市で、地場産業が発展した町です。現在も繊維産業は岐阜を支える産業ですが、2000年代に入る頃、中国などの新興国からの輸入製品が増加し、岐阜駅前の繊維問屋は昭和55年には1390店あったものが、現在では半分以下に減少し、往時の賑わいを感じた繊維街倉庫などがすでに産業遺産の雰囲気さえ漂う街です。
月に1-2回程度ですが、名古屋から名鉄に乗り「新岐阜駅(現在は名鉄岐阜に改名)」まで行き、そのあとは柳ケ瀬商店街に向かったものです。メインストリートに路面電車が走り、商店街も賑わいがあり、中ほどには岐阜市内でレコード販売を一手に独占していた「オワリヤ」というレコード店がありました。(現在はすでにレコードの販売は行っておらずl音楽教室のみを展開しているようです。)ちなみに「オワリヤ」は演歌歌手の聖地のような店で美川憲一氏の「柳ケ瀬ブルース」に代表されるようなヒットに貢献した店として良く知られていました。
しかし、そんな地域独特の店舗も時代の大きな波に抗うことができませんでした。 地方都市の商圏を揺るがした1991年の大規模小売店舗法(通称:大店法) 改正により、商店街の近くに大きなショッピングセンターが開業、市民の足だった路面電車も、モータリゼションの発展により2005年に廃止され、その景色が一変しました。
それはどこの街にもあるような「シャッター商店街」に姿を変えてしまいました。
岐阜県岐阜市 柳ケ瀬商店街って?
その勢いが衰えたシャッター商店街・柳ケ瀬商店街をひとつのステージに見立て、ゲームやアニメなどのクリエイターやパブリッシャーを招聘し、一般のファンとの交流を楽しんでもらおうと言う「ぜんため」は今年ですでに3年目の開催を迎え、年々その規模を拡大しています。
注目すべき点は東京ゲームショウでも実現し得なかったSIE、セガ、任天堂の3巨頭が出展している点です。それぞれがこの商店街にマッチした企画展示や体験を行っていることは、イベントに対して真摯に取り組んでいる様を感じさせます。SIEは「グランツーリスモSPOTRS」のタイムアタック体験を筆頭に「みんなのゴルフVR」、セガは7月24日発売予定の新作「東京2020オリンピック The Officail Video Game」を展開、任天堂はニンテンドースイッチで遊べるIndieWorldで展開中の良質な作品を展示していました。
アークシシテムワークスは「くにおくん」シリーズの新作「River City Girls」「ダウンタウン乱闘行進曲マッハ」、SNKは「サムライスピリッツ」の対戦台などが展示されていました。また「アズールレーン」で知られるYostarはゲームの展示はありませんでしたが、ファンとの交流に注力して縁日イベントを展開していました。
また、インディー系ゲーム開発者も県外からも多数参加しています。
事務局の熱心な働きかけとインディー開発者の熱量の高さがうかがえる展示が魅力です。このような交流の場が増えることで開発者とプレイヤーの連携が強まり、新しいコンテンツが生まれる可能性を感じさせてくれます。
「インディー通り1丁目」以外はすべて野外のため、連日の36度超えの猛暑のなかで来場客はもちろんのこと、対応するメーカー・スタッフの苦労も並大抵のことではなかったでしょう。
しかし、すべてのゲームが無料で体験できるということもあって、老若男女を問わず、常に多くの参加者の笑顔が絶えず、賑わっていました。
メジャーパブリッシャー、インディーゲーム、eスポーツ、カードゲーム、グッズ販売、ゲーム系専門学校まで、エンタテインメントに関わるすべてがこの商店街に集結したことは、熱帯夜の夢のような出来事ではないでしょうか。
「ぜんため2019」共同開催の黒川塾73「インディーズ・クリエイター これが私の生きる道」
そして、今回初めて「ぜんため」とコラボする形で黒川塾が岐阜市柳ケ瀬商店街で実現したことはとても感慨深いものでした。
なぜならば、30年前のあの頃、レコード会社の営業マンとして巡回した柳ケ瀬商店街に再び足を踏み入れることがあるなど夢にも思わなかったからです。あの頃の街の賑わいとは異なるものの、柳ケ瀬商店街と「ぜんため」は温かく迎えてくれました。
今回の黒川塾73のテーマは 「インディーズ・クリエイター これが私の生きる道」というテーマでゲストには、プチデポット代表の川勝徹氏、アポロソフト代表取締役の川瀬浩一氏、イグニッション・エムの代表取締役、升田 貴文氏をお迎えしての展開でした。
正味30分ほどの時間でしたが、3氏それぞれがゲーム開発に情熱を注ぎ、それぞれが新しいアプローチでゲーム開発に取り組んでいることに感銘を受けました。
川勝氏は「自分が遊びたいと思うゲームをこれからも創り続けて行きたい。そしてその共感の連鎖を作って爆発させて行きたい」と語り、「10年くらい前からビッグタイトルの企画を通すことが難しくなったので、前の会社を辞めてフリーになろうと思った。そのため組織で何かをやるよりも、一人で何ができるかということを考えてゲームを作っています。」という川瀬氏、升田氏は「インディーゲームは売らなくていいものではないか、インディーゲームは戦い方が選べる市場で、欲しい人、ニッチな市場に対して提供するものではないか。それがインディーの本質だ」という。
それぞれが限られた時間のなかで、ゲームに関する熱い哲学を語る場になったことは言うまでもない。また収益モデルに関しても率直な意見や現状が語られたことは言うまでもありません。
街は人がそこに集ってこそ、命が吹き込まれ躍動します。この「ぜんため」が柳ケ瀬の街を活性化し、そのからまた新しいうねりのようなものが生まれるのでないかと言う予感があります。たった二日間の、束の間の出来事ですが、日本の中心でゲームを媒介としてゲームファン、ゲームクリエイターと共有された「ぜんため」は熱く、暑い時間を多くの人にもたらしたことでしょう。まだまだ地道で手作り感が溢れるイベントですが、それは磨き甲斐のある宝石の原石のようなもの、また来年の開催が楽しみなイベントです。