2018年、黒川文雄的ゲーム業界トピックスTOP4:黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 第9回
著者:黒川文雄
2018年も残すところあと数日、それぞれの2018年が終わる。
特に今年は「平成」年号最後の年と言うことで、何年か経ったときに「平成最後の1年は何をしていた」」というメモリアル的なものとして、記憶に残る1年になることだろう。
SQOOL.NETゲーム研究室の読者の皆さんにとっては、ゲーム目線で一年を振り返ることもあるだろう。
VRコンテンツに始まり、印象的に残ったソフト、中国系スマホコンテンツの台頭、そして年末のユーキャンの流行語大賞にもノミネートされた「eスポーツ」まで、今回のコラムは私個人の2018年のゲーム系案件の振り返り(被り)のコラムとしてお届けしたい。
トピック1・ドライオーシャンと化すスマホゲーム市場
これからの市場性を強く感じるカテゴリーやコンテンツをブルーオーシャンというのが一般化した。しかし、今はどうだろうか。ブルーと呼ばれていたモバイルゲーム市場は「レッドオーシャン」と呼ばれ、今に至っては「ブラックオーシャン」と呼ぶ業界関係者も多い。
さて、平成30年末時点ではどうだろうか。たとえばグーグル社が選定した“Google Play ベスト オブ 2018”に並ぶタイトルはほとんどが著名なパブリッシャーの開発によるものだ。
もちろん誤解の無いように言えば、“Google Play ベスト オブ 2018”には、インディー部門カテゴリーもあり、新規性の高いコンテンツの発掘も積極的に行っている点も評価に値する。
受賞者の中には、今年、大阪で開催した黒川塾60(6月26日開催)に登壇いただいた「ネコの絵描きさん」とその開発者のwaken(わけん)さんがいることに注目したい。
また、キュート部門にはイマジニアグループの開発会社SoWhatの手による「すみすみ」があり、他が大手パブリッシャーの中において大健闘している点に注目している。おそらく新規性とそれを支えるゲーム的なコンセプトなどの点では、多くのパブリッシャーやインディーズ開発者たちの努力があったことだろう。限られた市場性の中で開発予算、時間などを提供して素晴らしいコンテンツを数多く供給してくれたことに感謝をしたい。
しかし、現状のスマホゲームの市場はブラックオーシャンではなく、ドライ(乾燥した)オーシャンと呼んでも良いくらいの状況を呈している。ランキングの上位は固定化し、予算は肥大化、国際競争も激化している。
個人的には、優秀な作品の陰に埋もれてしまった数多くのコンテンツへの感謝と彼らの達成できなかった悲願をどのように具現化するのかというものが2019年の目標である。
そのひとつは、導入前にどれだけ多くの時間をゲームのチューニングやゲーム性のバランスチェックなどに費やすかがポイントではないかと考えている。それは従来からあるようなバグテストのレベルを超えたものになるだろう。こちらに関しては2019年になればより具体的な改善方法を提示できると考えている。
トピック2・中国系コンテンツの変貌と進出
ちょっと前までの中国系コンテンツと言えば、中華系と呼び、若干のマウンティングも含めて、私も読者の皆さまも共通の認識は「日本でヒットしたコンテンツのややパクリ気味のものをすぐリリースしてくるやっかいなパブリッシャー」だったと思う。
そして、その背景にあったのは、「日本のコンテンツをまねてコピーはできても基本的なコンセプトワークに関してはあと10年くらい(日本に)追いつけない」という日本側の驕りがあったと感じている。
実際に中国系開発会社のなかには、日本のゲームコンテンツをコンセプト、イラスト、ゲーム性などの平均点以上のものを作り上げているパブリッシャーが既に存在している。
私が中国系の人的なネットワークなどを活用して調査したところに依ると、中国国内のゲームコンテンツの開発とその段階的なチューニング、バランスチェックが功を奏していると思われる。
日本のようにスケジュールありきで、とにかくバグはつぶすが、まずは導入リリースして様子を見てチューニングするというスタイルではなく、開発段階から「重課金者」もしくは「ヘビーユーザー」のチューニングチームを組成して、彼らを使い開発中のゲームを徹底してやりこみ、面白くない要素を消し込んで、面白い要素をクリエイターとチューナーが一緒になって作り上げると言う体制が今の成功を呼んでいると思っている。
このようなデバッグを超えたチューナー的な人員や組織、そしてそれを運営するシステムはまだ日本にはないと思われるが、これから迎える新しい元号の時代には名チューナーとそれを支える組織の存在が必要不可欠ではないだろうかと思う。
ギタープレイが好きな私は、エリック・クラプトンがブルースギターの名手ロバート・ジョンソンのコピーをしていたことを思いだす。誰もが最初は自分の好きなスタイルのコピーから入るが、そこから、いかにしてオリジナルなスタイルを紡ぎ出すかが分かれ道になることだろう。
その意味では既に中国系コンテンツはコピーの段階を超えている。
2019年は今まで以上にオリジナルコンテンツで勝負をかけてくることだろう。我々もかれらのクリエイティブに見習う部分、チューニングにかける熱量など見習うべきものが数多くあるに違いない。
トピック3・VRのこれから
2017年はVR元年と呼ばれた。
VRは注目すべき技術であり新しい体験を生み出すシステムであり、我々が共有するエンタテインメントになるだろうと思っている。
しかし、残念ながら僕たちの「レディ・プレイヤー1」はまだ来ない。
作家アーネスト・クラインが記し、スティーヴン・スピルバーグが監督したあの世界観はまだほど遠い。VRは実態があるような無い様な曖昧な立ち位置のままのような気がしている。
しかし、近い将来VRの世界観のなかで生きるというスタイルが生まれてもおかしくない環境は揃った。
株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの2017年のプレイステーション4のキャチコピーが「できないことが、できるって、最高だ」だったが、確かにVRの面白さはそこに尽きる。今までできなかった体験がそこにはあるというものだ。
その点でVRを中心にしたアーケード施設の躍進は次の世代の可能性を示唆してくれた。それらは旧アーケード(ゲームセンター)の新しいあり方を提示するものだった。
バンダイナムコアミューズメントやセガCAジョイポリスなどに代表される新しいアーケードでのVR体験はテーマパーク的な遊び方によく似ている。待ち時間も含めてのライブ・エンタテインメントのそれだ。
2017年、2018年と大きなVRのブレイクスルーはアミューズメントからだった。
さらに家庭用としてフリーローム(ワイヤレス)
トピック4・eスポーツ
2018年末を迎えてVRと同じテイストを感じつつあるのがeスポーツである。同じテイストとは「言葉は先行するが実態としての盛り上がりが見えてこない」という印象だ。年末になって、賞金額が1億円という大台をマークしたのが光明になるのではないかという見方もある。
ネット系のニュースサイトなどで「eスポーツ」テーマのニュースを見ない日は無いくらいに、話題には事欠かないのでは…と思いがちだが、穿った見方をすればゲームジャンルで他に社会一般に耳目を惹くニュースがないことの裏返しではないだろうか。
しかし、家庭用パッケージゲーム市場が年々減衰していくなかで、オンラインを介したeスポーツは起死回生のカテゴリーとして注力すべき市場であることは国内外のパブリッシャーの大きな命題であることは間違いないだろう。
それはCDなどのパッケージ市場が減衰する日本をはじめとする世界の音楽産業と同じで、パッケージの減衰には歯止めがかからないが、ライブ・エンタテインメント系市場は右肩上がりという事例と同様のものだろう。
→大きな画像で見る(2015ライブ・エンタテインメント白書より)
約30年以上ゲーム業界に関わる仕事をしている私自身としても、ゲーム産業が新しい転換期を迎えていることを感じている。
ゲームがVRやARという新しい側面を迎える中で、新たにeスポーツという新しいエンタテインメントをパブリッシャー自らが提供する大きな転換期である。しかし、あくまでも主役はプレイをしてくれるユーザーである、eスポーツであれば華麗でエネルギッシュなプレイを魅せてくれるプロゲーマーの存在主体なしにしては語れない。
エンタテインメント界も大きく変わることだろう。そして自ら変わることこそ、変わらないでいられることに気が付くべきことなのではないだろうか。
2019年が皆様に於きましてもよい一年になりますことを祈念して2018年のペンを置きたいと思います。ありがとうございました。よい年末年始をお過ごしください。
※12/28 14:00 一部表現を調整しました(SQOOL.NET編集部)