近くて遠い隣人の国:黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 第11回

 黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 
  公開日時 

 著者:黒川文雄 

国家間で「隣人」と言うと、皆さんはどちらの国を思い浮かべますか?

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ドラマ、K-POP、美少女ユニットなどで話題を振りまく韓国でしょうか。韓国のゲームコンテンツ、特にオンラインゲームには、日本を始め世界中の多くのプレイヤーに支持されているものがたくさんあります。

近くて遠い隣人の国:黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 第11回

近くて遠い隣人の国:黒川文雄のエンタメSQOOLデイズ 第11回

私はNHNJapan(現在のNHNPlayArt+LINE)で働いていた時、韓国の釜山(プサン)で開催されたG-STARという大規模なゲームコンテンツの展示会に参加したことが有ります。G-STARはネクソンなどの大手パブリッシャーを始めとして、韓国を代表するオンライン系、スマートフォン系ゲームパブリッシャーの動向を占ううえで非常に重要なイベントです。それらのカルチャーやコンテンツなどのエンタテインメントには「国境」はなく、優れたものは世代や時代を超えて支持されるものだと思います。

過去に韓国には仕事でもプライベートでも何度も渡航しています。しかし、今は韓国に行きたいか・・・・と言われれば、行きたくないと答えます。

その理由には、現在日本と韓国の関係性が過去数年遡って最悪の状況にあるからです。政治外交面、防衛面、社会面など、双方の思惑が異なるものがあり、それに関しては私に限らず当惑を感じている読者の方も多いと思います。

そして、その当惑の根底には、韓国の個人ひとりひとりがどうかというよりも、国家として何を考えているのかよくわからない、どうすれば解決できるのかがわからないというものが我々の気持ちの中にあるのではないかと思うのです。

良き隣人の国とは

さて、話を「隣人」に戻しましょう。私の場合、「良き隣人」は台湾です。

台湾は中華民国の統治する国ですが、第二次大戦以前には日本が統治していたこともあり、親日系の国家、国民として、その存在は良く知られています。

私と「隣人」の関係は、かつて経営していた会社で開発したオンラインカードゲームのライセンスの商談を、台湾のガマニア社で行ったことが発端です。その後ブシロード在籍時には台湾のカードゲーム販売業者さんとの取引があり、商談のため何度か渡航しました。

台湾に来るといつも感じるのはゆったりとしたリズムのようなものです。それは日本のものよりはちょっと遅く感じるのですが、それがとても心地よく感じるのです。

台北ゲームショウ2019、略してTGS2019

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私は、その台湾で1月24日から28日まで開催された台北ゲームショ2019(以下:TGS)に参加しました。そして、今月7月12日から14日まで開催された2019台北サマーゲームショウ(以下:TSGS)の2回の展示会に参加することができました。

それではまずTGSの印象からお伝えしましょう。2部構成のホールになっています。

24-25日は”BtoB”と呼ばれるビジネスマッチングやコンテンツの版権販売、マーケティングなどを中心にした展示会が開催されました。一般公開のBtoCは25日から開始され、つまり25日はBtoBとBtoCが並行して開催されたわけですが、ともあれBtoCは28日までの4日間に渡って開催されました。ちなみにTGSには、24か国から426社が出展し、2,144小間で、約32万人の来場者、今年で17回目の開催となります。

”BtoB”で活気に溢れたインディーズゲーム・ゾーン

TGSは海外からの出展者の参加を促進するために主催者側が参加者の「宿泊費」を負担するという施策を実施しています。航空券の手配は自費になりますが、昨今はLCCなどの格安航空チケットであれば5万円以内で往復ができます。SQOOL.NETゲーム研究室で実施した事前勉強会等により徐々にその施策が浸透したのか、今回のTGSの日本からの出展者は過去最高の数に達したとのことです。

参考:ゲーム開発者を対象とした台北ゲームショウ2019の事前勉強会の様子

今回の“BtoB”ホールの中ではインディーゲーム・ゾーンが活気に溢れていました。それらの出展者のなかから選出される「INDIE GAME AWARD」には、日本から参加した「RPGタイム!~ライトの伝説~」が最優秀イノベーション/最優秀インディゲーム/協賛特別賞を受賞しました。

「RPGタイム!~ライトの伝説~」は、完成にはずいぶんと時間がかかるとのことですが、子供の頃にノートに書いたRPGマップが、そのままゲームになったような世界観はプレイヤーの心の琴線に触れるものがあると思います。

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「RPGタイム!~ライトの伝説~」公式サイト:http://deskworks.jp/

なおこちらの“BtoB”ホールにはVR系のコンテンツも展示がありましたが、VRの市場が盛り上がりに欠けることもあり、出展数はあまり多くありませんでした。VRに関してはまだ大きなブレイクスルーが足りないのではないでしょうか。

”BtoC”のテイストは日本の写し鏡

“BtoC”はTGSのメインとも言えるもので、日本のメジャーゲームパブリッシャーのコンテンツが多く展示されていました。

ちょうど発売したばかりの「キングダムハーツⅢ」、「バイオハザード RE2」はソニー・インタラクティブエンタテインメントのブースで大きく展開を行い、バンダイナムコエンターテインメントは「太鼓の達人」から「SDガンダム ジージェネレーション クロスレイ」、そして、こちらも発売されたばかりの「エースコンバット7 スカイズアンノウン」まで…数多くのラインナップが並びました。

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TSGS2019とはどんなイベントか・・・?

TGSGそのものは大きなイベントではありませんでした。TGS2019の半分くらいのサイズのホールで展示展開が行われています。展示スペースとしては家庭用・オンライン・スマートフォンが全体の半分くらいを占め、残り半分をインディーズ系ゲームとカードゲームとボードゲームで分け合っているサイズ感のイベントなのです。

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また、会場内にはメガドライブ、SNES(スーパファミコン海外版)、ドリームキャスト、セガサターンなどの旧型家庭用ゲーム機が自由に遊べるように設置したコーナーもあり、単に先端、先進的なカルチャーのみならず新旧取り混ぜての遊びやすいイベント展示が行われていました。

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台湾に来て、驚ろかされたのは、カードゲームやボードゲームもゲームジャンルのひとつとしてきちんとブースと体験スペースを設けている点にあります。

家庭用ゲームで目立ったのは「バンダイナムコ」「セガ」の出展ですが、残りは現地台湾のパブリッシャーか、中国本土からのパブリッシャーの出展でした。そのなかでも、日本で人気の「アズールレ-ン」と新作の「アークナイツ」のブースが人気を集めていました。

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インディーズも同じように人気を集めていましたが、言語のローカライズは成されておらず、どのようにプレイするのかが若干戸惑います。しかし、気になったゲームはサスペンス・パズルゲーム「蛍幕判官」(日本ではニンテンドースイッチ版がリリース:螢幕判官 Behind The Screen)です。

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「人生書廊」もビジュアルが耽美・怪奇な雰囲気の謎解きゲームです。「Embr」は火災現場から人命救助をミッションとして行うゲームでキャラクター・ビジュアルが独特でした。(2020年発売予定)

どちらにも共通するのはeスポーツ

1月のTGSと7月のTSGSに共通することは、やはりeスポーツをなんとかカタチにしていこうというコンセプトでした。1月は「Call of Duty:Black Ops 4」の実況解説交えた対戦会が開催されており、今回の7月のTSGSではSNKのコンテンツ「ザ・キング・オブ・ファイターズ98」と「THE KING OF FIGHTERS XIV(14)」を用いたネオジオツアーの一環としてのeスポーツイベントを展開していました。アジア全域、日本からも強豪選手が参加していました。

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愛すべき隣人との関係性

台湾に初めて来たのは前述したように、ガマニア社とのゲーム商談の話しがキッカケでした。

その時の対応の印象がとても良かったこと、その後、ブシロードと台湾の取引先との商売も大きなボリュームではありませんでしたが、常に誠実な対応で応えてくれたことが印象に残っています。

年初のTGSの出展社のなかに、現在のガマニア社がありました。

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当時の役員は今でもガマニアの関連会社のCEOとして活躍をしており、ゲーム会社だったガマニアは、現在はネット総合企業に変貌していました。そして、beanfan!というスマホ系ネット決済ポータルを立ち上げていました。

私も今まで数多くの国に旅行し、そして多くの国の方々と仕事をしてきました。その都度、思うことは国の印象は人であり、人は国だと言うことです。その両方のバランスが取れた人、国との取引では嫌な思いをしたことはありません。

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わかりやすい事例で言えば、隣人が誰でどんな仕事をしているとか、挨拶を交わし合う仲であれば、隣室からの騒音やすこしの迷惑も許容できる…そんな感覚に近いのではないでしょうか。そして、それがあるべき隣人との関係性ではないでしょうか。それは言い換えれば、お互いの素性や心情が相互に理解できると言ってもいいでしょう。

これからも私はまた新しい隣人に出会うことがあると思います。その出会いを大切にしていきたいと思います。

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著者:黒川文雄
1960年・東京都出身
音楽や映画映像ビジネスの後に、セガ、コナミDE、ブシロード、NHNJapan(現在のNHNPlayart+LINE)などゲーム関連企業でゲームビジネスに携わるエンタメ界の「グラン ドスラム達成者」。
現在はジェミニエンタテインメント代表取締役と黒川メディアコンテンツ研究所・所長を務め、メディアアコンテンツ研究家としてジャーナリスティックな活動も、さらにエンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰。
プロデュース作品に「ANA747 FOREVER」「ATARI GAME OVER」(映像)「アルテイル」(オンラインゲーム),大手パブリッシャーとの協業コンテンツ等多数。オンラインサロン黒川塾も開設。
著書:プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本