ゲームにおける模倣はどこまで許されるのか?拡大するゲーム市場と増える似たようなゲーム

 コラム 
  公開日時 

 著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長) 

似たようなゲームについて、倫理的にどう捉えるべきか、というテーマについては、記事や動画で何度か紹介をしてきました。

参考:【パクり?オマージュ?】パルワールドから考える「〇〇に似たゲーム」問題、アリかナシか?

参考:カオスサーガの「即日サービス終了」はなぜ起きたのか ビジネスとエンターテイメントの健全性

参考:うんこミュージアムの「うんこレース」が、インディーゲーム開発者ksym氏開発のゲームに酷似

ゲーム産業の成長は著しく、2023年時点でゲームの世界市場は約26兆円といわれていますが、これが2030年には約95兆円にもなるといわれています。
これはあくまでそういう説もある、というものですが、ただ世界経済の成長を超えるスピードでゲーム市場が世界的に拡大しているというのは筆者も同意するところです。

ゲームにおける模倣はどこまで許されるのか?拡大するゲーム市場と増える似たようなゲーム

その理由の一つは、スマートフォンの普及です。
2010年ごろから急速な拡大を見せるスマートフォン市場は、ゲーム市場拡大に寄与してきました。
また、SteamやXbox Game PassなどのPC向けの市場の拡大、インディーと呼ばれる小規模事業者が開発するゲームへの認知、などゲーム市場拡大の要因はさまざまです。

ゲームにおける模倣はどこまで許されるのか?拡大するゲーム市場と増える似たようなゲーム

さて、そのようにして拡大していくゲーム市場においてはいくつかの大きな問題があります。
違法コピーによる海賊版の問題、表現力の向上に伴うゲーム内表現の倫理の問題などが挙げられますが、もう一つ、似たようなゲームが出てきてしまう問題というものもあります。

ゲームというのはそもそもがどうしても似てしまう傾向にあります。それはウルティマやスーパーマリオなど、大ヒットしたタイトルが出ると、そこにジャンルが発生し、ゲーム性が似た様々なゲームが出てくるからです。
メトロイドやキャッスルバニアというゲームに似た「メロロイドヴァニア」は1つのジャンルとして成り立っていますし、最近ではヴァンパイアサバイバーに似た「ヴァンサバライク」という言葉も出てきました。ゲームにおける模倣はどこまで許されるのか?拡大するゲーム市場と増える似たようなゲームこうやってあるゲームがジャンル化し、その亜種がたくさん続くことでゲームは発展してきました。

その意味では、模倣ゲームは悪いものではなく、むしろそれこそがゲームを成長させてきたともいえます。
今この世にある様々なゲームは、ほとんど全てのゲームは、過去の何らかのゲームを参考に、あるいは過去のゲームの影響を受けて作られたと言って良いでしょう。
現代において完全にオリジナルなゲームを開発するのは非常に困難で、何らかの要素が過去のゲームに似てしまうのは避けられないものです。

しかし、そうであっても冒頭に例を挙げたように、稀に社会的に問題視される「似たようなゲーム」が出てくることがあります。
それはゲーム市場が成長しているということでもあり、つまり、似たようなゲームで利益が見込まれる場合、たとえそれが社会的に物議を醸すと予想されても、ビジネスとして成り立つほどにゲーム市場には次々と新たな余白が生じているということでもあります。

今後、この現象はより頻発するのではないかと筆者は考えています。すでにスマートフォンの、特にカジュアルゲームと呼ばれるミニゲームの市場では、見た目もルールも同じような多くのゲームが存在します。
法律的にOKか否かを別として、この現象は、それほど多くのユーザーがこの市場に存在していることを示しています。

ゲームにおける模倣はどこまで許されるのか?拡大するゲーム市場と増える似たようなゲーム

倫理的に許される似たようなゲームと、倫理的に許されない似たようなゲームの堺はどこにあるのでしょうか。
これは非常に難しい問題です。

先日の任天堂がポケットベアを提訴した問題では、ポケットペアのパルワールドというゲームが、任天堂のポケットモンスターを模倣していることが誰の目にも明らかでしたが、しかし提訴の内容は著作権侵害ではなく、特許侵害でした。
これは似ている、という問題の良し悪しの線引きが非常に難しいためかと思われます。
そしてそれ以上に興味深いのは、日本と海外とで、これについての見解が全く異なるということです。

ゲームにおける模倣はどこまで許されるのか?拡大するゲーム市場と増える似たようなゲーム

日本の主な反応は、任天堂が訴訟に踏み切るのもやむなし、というものですが、海外は逆で、任天堂という大きな会社がポケットベアという新進気鋭のゲーム開発事業者をいじめている、という反応が多いようです。
海外のゲームジャーナリストやゲームファン何人かとこれについて話しましたが、

「ゲームは模倣から生まれるのではないか」
「ゲームの質は高いので、ポケットベアの次のゲームも楽しみだ」
「著作権違反なら仕方がないが、ゲームのシステムについての訴訟はやりすぎではないか」

という意見が主流で、日本人の意見とはかなり相違が見られました。

このように、この手の問題は様々な価値観や倫理観、もっと言えば文化的背景によっても見解が異なることが多く、従って、日本人から見たときに「倫理的に良くない似たようなゲーム」というのは今後も出てくるだろうと予想されます。そしてゲーム市場はそれを受け入れるだけの市場規模を持っているでしょう。

著作物を真似る、というのは非常に繊細な問題です。オリジナルよりも遥かに小さな労力でその価値を享受する行為が蔓延すると、その業界自体を衰退させかねません。オリジナルを苦労して作る意味が、経済的にはなくなっていくからです。
昨今問題になっているAIによるデザインの大量生産も似たような理由で物議をかもしています。
避け難い未来もありますが、日本は日本として、現在の価値観でゲーム業界を育てていくのが良いだろうと筆者は考えています。

SQOOLのYouTubeチャンネル

著者:加藤賢治(SQOOL代表 兼 編集長)
いつの間にかメディアの人みたくなったことにいまだに慣れない中年ゲーマー。夜行性。
好きなゲームは「桃鉄」「FF5」「中年騎士ヤスヒロ」「スバラシティ」「モンハン2G」「レジオナルパワー3」「スタークルーザー2」「鈴木爆発」「ロマサガ2」「アナザーエデン」などなど。
著者Twitter